海戦 08
◆
「地上のジャスティスを奪ったか。まあ考えられる方法はそうか」
「どうして……?」
コズエは絶句する。
『正義の破壊者』は今までジャスティスを残らず破壊してきた。破壊せずに生け捕りにすべきという意見もあったが、それが出来ないのと、トップに立つクロードが積極的に破壊していたので、そんな意見を口にする人は少なくなり、今では全く想像すらしない状態となっているはずだった。
にも関わらず、ジャスティスを奪って操縦する人などいるはずがない。
それにジャスティスを憎んでいるのに、ジャスティスを操縦するなんていう行動は、クロードの理念にも反する。粛清対象になっても仕方がない。
「あれはあなたの味方じゃないのですか?」
「味方陸軍には海岸に姿を見せるなと伝えてある。それにあるのは一騎だけだ。どうせ味方だと思わせておいて奇襲するつもりだろう。魔王も浅はかな奴だな」
「……っ」
ブラッドがそう言うのであれば、あれは確実に味方の誰かなのだろう。
だが、絶対にあの中にクロードはいないだろう。
では誰が?
こんな愚かな真似をする人が誰なのか。
知っている人間以外も多くなった今、その人物を特定するのは難しい。
(……ここは下の人間を統率しているお兄ちゃんに訊いた方が早い)
コズエはそう判断した。
カズマに依頼して誰がいないのかを上から探ってもらおう。
(おに――)
(コズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよコズエ今行くよ)
(お兄ちゃん!?)
あまりにも頭の中に入ってくる自分の名前の嵐に驚愕の言葉を返す。
(……コズエ? コズエなのか?)
(そうです。私は無事です)
(良かった……本当に良かった……)
本当に安心したような声。
(今どこだ?)
(海軍元帥のブラッドのジャスティスの中です)
(分かった。今助けに行く)
(……助けに行く?)
その言葉に引っ掛かりを感じながら、コズエは兄に呼びかける。
(お兄ちゃんちょっと聞いてください。今、海岸沿いにジャスティスに乗っている人が――)
(コズエ)
静か。
先程までとは打って変わっての落ち着いた言葉に、コズエは動揺する。
(……まさか)
(お兄――)
(コズエ。僕が君を助けに行くからね)
この言葉で確信を持った。
嫌な予感は当たった。
コズエの予想は間違っていなかった。
あのジャスティスに乗っているのは――カズマだ。
◆
(どうしてお兄ちゃん!? 早くそこから降りて!)
頭の中で高い声が響く。
妹の声だ。
妹が必死に叫んでいる。
いつもなら押しの強い妹の言うことを聞いてしまうが、今回ばかりはそうはいかない。
今までの自分は無力だった。
何も出来なかった。
そんな自分にも武器が手に入った。
加えて妹のピンチだ。
神が味方したとしか思えない。
ただ、手に入れたのは悪魔の力だったが。
「今行くよ、コズエ」
何度呟いたか分からない言葉だが、自分を奮い立たせる為に再度呟く。
目の前の海には、大量のジャスティスが見えている。海の上に立っているように見えるが、これが海軍専用ジャスティスなのだろう。
それに戦艦もいくつか浮かんでいる。その戦艦の上にもジャスティスが大量に配置されている。
圧倒的な制圧量。
それが、カズマが抱いた相手への印象だった。
だが、怯んでなどいない。
自分の命に代えても助ける。
そのために自分は悪魔に魂を売った。
戻るなど考えるはずがない。
そんな考えなどない。
進め。
道はそこにある。
――ヒュン。
振り切る様に持っている大きな刀を振る動作をさせると、そんな風に風を斬った音が鳴った。この刀はジャアハン国のジャスティス特有のものらしく、デフォルトで装備されていた。
勿論、カズマには刀を扱ったことは無い。ライトウという存在がいるのだから、やろうとも思わなかった。
しかし、今はそんなことを言っている暇はない。
ジャスティスが持つような大きな刀の扱いは。ライトウだってしたことがないのだ。彼の方が上手く扱えたかもしれないとか、そんなことは議論するだけ無駄だ。
自分がやるしかない。
「コズエ、待っていてくれ」
カズマを乗せたジャスティスはグッと足を曲げると――
「今助けるからなああああああぁぁぁっ!」
叫びながら戦場――海上へと走り出した。