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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第二章
47/292

海戦 05

    ◆





「どうすれば……」


 カズマは頭を悩ませる。

 クロードには言われた。


 時には非情になること。

 場合によってはここにいる仲間でさえ見捨てろ。


 その対象が、最近仲間になった人達であったらそうしただろう。

 ライトウやアレイン、ミューズでもそうしたかもしれない。


 だが、よりにもよって――コズエだとは。


 たった一人の大事な妹。

 何よりも失いたくない存在。

 本当の血のつながった家族。

 それを見捨てろと、彼に言われたのだ。

 首を縦に触れるはずがない。


「……でもこのままじゃ……このままじゃコズエは……」


 コズエは殺されてしまう。

 ブラッドに。

 もしくは――クロードに。


「そんなの……嫌だ……」


 嫌だ。

 嫌だ嫌だ嫌だ。

 認めたくない。

 コズエが死ぬなんてことは。

 そんな世界なんか。


 ――だが。


 世界を嘆いていても、何も変わらない。

 森の隅っこで塞ぎこんでいたとしても、コズエが無傷で戻ってくるわけではない。


「僕は……無力だ……」


 カズマは分かっていた。

 新しく入ってくる人たちを統一してようが、事務処理をしてようが、自分は戦闘では何の役にも立っていないということに。

 悔しい。

 悔しい悔しい悔しい。


「――何してんのさ、カズマ」


 塞ぎこんでいる彼に、能天気な声が上から振ってくる。


「……アレイン」

「どしたのさ? そんな暗い顔して。元気がないと次の作戦に支障が出るわよ」


 短髪の少女は本気で首を傾げている。どうやらまだ、コズエが捕まったことを知らないのだろう。

 そんな彼女の態度に腹が立ち、理不尽な八つ当たりを彼女にぶつけようと口を開いた時、


「そういや聞いてよ! さっき私凄いことしてきたのよ!」

「……凄いことをしてきた?」


 完全に怒るタイミングを逸らされたカズマは、彼女の言葉をそのままオウム返しをする。


「ちょっとこっちこっち」


 そんな彼を無理矢理立たせ、アレインは手を引いて歩を進める。


「さっき準備してたら眼下に見えてね、で、ちょーっと、ほんのちょーっとだよ? ライトウに言われたことが悔しかったらさ、試しにやってみたわけよ。そしたら出来たわ」


 アレインは嬉しそうに語る。

 主語が抜けているから何が何だか分からない。

 そう言おうとしたのだが――


「これは……」


 目の前に現れたモノを見た瞬間に、言葉を失うカズマ。


「いやさ、コクピットから人間引きずり出しただけなんだけどさ。ずっと壊していたから分からなかったけど、コクピットってこんなになっているのね。ガッチガッチにコントロールルームっぽい感じかな、とか思ってたけど、想定していたよりシンプルなのね。鍵を差すとこもないし。操縦者が逃げてった時に鍵持っていなかったら疑問に思っていたけどさ」

「鍵がない?」

「ああ。でもさっきちょっと操縦桿に触ったら動いたよ」

「……動いた?」


 その言葉に、少年の目に光が戻る。


「そうそう動いたのよ。あ、でも握ったとかじゃなくてちょっと躓いた時にやっちゃってさ。でもほんの少しだけどね。……どうしようクロードに怒られるかな? 勝手にしちゃったから……あ、でも逆にクロードは喜んでくれるかな? 生け捕りにした初めてのものだし――」


 色々アレインが語っているが、カズマの耳に入っていなかった。


 ――憎い。

 何よりも憎い。

 憎いと思っていた存在。

 それが目の前にある。


 だが。

 今はそれよりも憎い存在がある。

 それは同じで、同じではない。

 だけど、同じ。

 自分自身は同じ存在になる。


 力が欲しい。


 そう願い続けていた。

 だけど何の才能もなく、何の努力もせず。

 ただそこに存在し続けていた自分はなんだったのか。


 ――そんな振り返りなど、どうでもいい。


 理屈では分からない。

 だが本能で理解した。


 自分にはこれが――これだけが救いだ。



 救いで――()()()()()()()だ。



「――おい、さっきからどうしたよ?」


 アレインが心配そうに顔を覗きこんでくる。

 カズマはそんな彼女に――笑い掛けた。


「ああ。これは使えるかもね」



 少年は武器を手に入れた。

 妹を助ける為の、()()()()()を。

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