希望 13
◆
程なくして。
『正義の破壊者』がルード国に対して宣戦布告をした。
正門に揃った一同は、ルード国へ武力を用いることを示威していた。
『全軍、突げ――』
その火蓋がついに切って落とされようとしたその時、
「――そうはさせませんよ」
静かに、だけど鋭く、スピーカー越しでそう告げた。
告げてジャスティスとして姿を目の前に表し、ゆったりとした動作で片手を挙げる。
「どうもお久しぶりです。アドアニア以来ですかね」
『……お前は……』
「おやおや、元気そうですね――僕が与えた傷もきちんと完治したようで」
『ここでお前が出てくるのは予想外だよ。陸軍元帥――コンテニュー』
クロードはこちらに対して忌々しげに言葉をぶつけてきた。
『これから攻め入ると気合を入れた所で横槍を入れるとは、素晴らしいタイミングだよ』
「お褒めの言葉ありがとう。そう言うと思っていたよ」
――全て、知っているのだから。
ここで横槍を入れられて、大いに動揺したことも。
全部。
「ああ、そこにいる兵士のみんな。ジャスティスのパイロットも含むよ。陸軍元帥としての命令だ。――全員この場を離脱し、中央会議所の守りを固めよ。……ああ、勘違いしないでもらおう。これは政治的な意味での指令だよ。お偉いさんを出来るだけ守れ、ってね」
これは不本意な形なのだと強調する。実際にそういう命令は出ていたものの、従う必要はないとキングスレイからのお達しも別方面で出ていた。トップ方針が固まらないと現場は困るよね――と思いながらも、コンテニューは別の理由から、先の命令を選択した。
――この場にいる人々を遠ざけたかったから。
「それにここは捨て置かないよ。なんせ――僕が残るからね」
詭弁ではったりなのに。
それでもクロードに敗北を味あわせた、いわば『英雄』であるコンテニューの言葉には説得力があると捉えたらしく、あっという間に正門にいた兵士達は身を翻し、『正義の破壊者』に対して背を向けて門から離れて行った。
数分後。
「さてさて――見守ってくれてありがとう、皆さん」
両手を広げる所作を見せつけるようにジャスティスを操作し、煽りを掛ける。
『――見守ったわけではない。背後から狙い撃つのは卑怯だと思ったからだ。戦闘する意思を持たない人間を撃つなんてそんなことはしないさ。だから見逃してやった、という言い方に変えてもらおうか』
同じようにクロードも両手を広げてきた。
――挑発にすぐ乗るなんて、まだ未熟だな。
そう恥ずかしくも微妙な気持ちになってしまいながら、彼に返答する。
「中にはジャスティスもいたでしょう? それも見逃したのですか?」
『ああ。刃向ってきたら迷わず破壊していたがな。まあ刃向ってこなくても、結局最後には中に人がいない状態で破壊するけれどな。――で、だ』
クロードは鼻を鳴らす。
『お前は俺達――『正義の破壊者』のこの戦力を前に、本気で自分一人で勝てると思っているのか?』
「――勝てるなんて思っていませんよ。これっぽっちも」
ノータイムでそう答えたら、クロード含め、相手は拍子抜けというように呆けた顔になった。
『……お前、何を言っているのか分かっているのか?』
「ええ。当たり前のことを口にしただけですよ」
飄々とそう口にする。
「魔王である貴方だけでも手こずったのに、そこに「サムライ」ライトウと……かつてない程の操作力でヨモツ元帥を撃破したジャスティスのエースパイロット、それにウルジス国が隠し持っていたジャスティスまで用意されてしまえば、僕一人で対抗できるわけがないじゃないですか」
『……勝てないと分かっていながら、ここで俺達と戦うというのか?』
「そんなわけないじゃないですか。勝ち目のない戦いを行って命を落とすようなことはしませんよ」
『だったら降伏してこちらに付くとでもいうのか?』
「それも行いません」
『……だったら何をするんだ?』
「僕は貴方に提案をします」
コンテニューは提案する。
――クロードが絶対に呑む、提案を。
「「正義の破壊者」の皆さん全員、この正門を通らせましょう。勿論、攻撃など仕掛けませんし、門をくぐった先に何も罠が無いことを保証します。味方はしませんが敵対もしません。
但し――クロード・ディエル。貴方以外にはね」
『……は?』
再び呆けた声を放ってきたクロードに、コンテニューは懇切丁寧な説明をしてあげる。
「それ以外の人達ならば無条件でこの強固な門の中に入れてあげますよ。但し入るからには全員一人残らず中に入ってもらいますけどね。ここに残るのは、魔王、貴方だけです」
『その要求に何の意味がある? お前が俺達に勝てないのは分かった。で、自分を見逃してほしい条件として『正義の破壊者』の皆をカーヴァンクル内にあっさりと入れることを提示してきたことも理解した。俺だけを許可しない理由は分からないが――それを提案して何の意味があるんだ?』
「意味がある、とは?」
『そんなことを提案されなくとも、俺達は最初からお前を蹴散らして門の中に入って行く。そんな提案を受ける必要が無いということだ』
「そうでしょうか? 確かに僕を倒していけば提案を受ける必要が無いでしょうね。但し――そこに犠牲がどれくらいあるかは分からないですよ? 確かに僕は貴方達全員に対しては勝てないと言いましたが――」
そこで間を一つ置いて、少々低い声でクロード以外に聞かせるように――恐怖を与えるということを効かせるように、このように口にする。
「――個々に対して勝てないとは一言も言っていない」
クロード以外の人々の顔が引きつるのが見えた。
……これでいい。
恐怖心が少しでも生じればいい。
きっと不気味に思えているだろう。
その気持ちを持って、素直に受け入れてくれ。
――一人以外は。
『だからどうした?』
黒衣のマントを風に揺らし、その一人が疑問の――そして否定の言葉を口にする。
『俺がお前に勝てばそれでいい。他の人達が犠牲になる必要など何もないだろう?』
「つまり、貴方一人で僕と戦う、ということでしょうか?」
『俺だけじゃないかもな。俺が先陣を切って援護を他の人が行う。――俺一人よりも強力だとは思うが?』
「……そうか。まだそんな甘いことを考えている時期、か」
本当に青臭く、反吐が出る。
自分の責任と、他者の協力に頼っている、温い少年の考え。
そんなモノは、コンテニューにはなかった。
全て自分でしなくてはいけなかった。
そのことを後ほど――嫌という程に思い知るのに。
深くため息が出てしまう。
しかし、ここで知らないからこそ、後で思い知った時の衝撃が凄まじいモノになっているのだ、と考えたらここでこの考えであるのはある意味仕方ないことなのだろう。
そう思考を変革させ「……まあいいか」と首を横に二、三度振って、スピーカーに声を乗せる。
「これ以上押し問答をした所で何も先に進みませんし冗長になるだけです。別に僕は時間稼ぎをしたいわけではありませんからね。なので早急に決めてください。――貴方一人だけ残って他の人を無条件に門に通させるか、それともここで僕と戦闘をするか――どちらかを」
まあ問い掛けてはいるが、分かり切っている。
「――今の貴方ならどちらを選択するかは分かっていますけれどね」
クロードはこの選択肢を取ったのだから。
『――俺だけが残り、皆を正門に入れる』
クロードの回答は、予測通りの選択肢だった。
その点についてミューズなどの周辺の人々は驚きを隠せていなかったが、クロードの回答理由にすごすごと引き下がって行った。
――本当に、変わらない様子だ。
「やはりそっちを選びましたか」
……少しだけ。
ほんの少しだけ、違う展開になることを期待した。
違う展開で、未来が進むことを望んだ。
だけど全く同じで。
その違いは些細でもきっと許されないのだ、とある種の悟りの領域にも入った。
そして、クロードが周囲に指示を出し、皆が正門の中に入って行って姿が見えなくなった頃に、コンテニューは声を掛ける。
「――さて、ここには誰もいなくなりましたね」
『これで満足か?』
「ええ。僕の想定通りです。残念ながらね」
『……残念ながら?』
本当に残念だ。
ここがもし異なっていれば、彼はここで彼女を殺すような真似をしないかもしれないのに。
……まあ、そのような事態になれば、きっと元に戻されるのだろうが。
「それよりも――どうして残ったんですか?」
『今更それを言うか? お前がこの状況を望んだんだろう? 俺と二人の状況を』
「ええ。望みましたね。……望んでいませんけれど」
ここで違う状況であれば、また楽な展開になったかもしれない。
――彼女が傷つく展開にならなかったかもしれない。
それを望むのは、高望みなのだろうか?
『……さっきから意味分からないことを言っているな。まあいい。俺はその理由が気になっただけだ』
「簡単な話ですよ。ここで貴方と僕の二人きりだけで戦いたかっただけですよ。誰にも邪魔をされずに」
これからの会話は、他の人に聞かれたくない。
――悟られたくない。
だから、二人きりの状況を作った。
『……それだけか?』
「ええ、それだけですが何か?」
『俺単独と戦う為だけにそのような状況を作ったのだろう? ならば本望だろう? お望み通りそのジャスティス――破壊してやるよ』
「忘れたのですか? 貴方は一度――僕に負けているんですよ?」
コンテニューは煽り返す。
だが、分かっていた。
この後、コンテニューは――クロードに負ける。
事実が変わらないのならば、この先の結果は分かっている。
そんなことを知ってか知らずか、クロードは右手の人差し指で自分の口端を上げながら、
『今度こそ勝ってやるよ』
この先の事実を口にしてきた。
人差し指で自分の口端を上げる行為。
それは笑みを無理矢理作った行為。
――不自然極まりない。
「……まだ無理矢理にしか出来ないんだな……」
思わず口に出てしまう。
今はこんなにも笑顔を作れるのに。
あの頃は出来ないと思い込んでいた。
――出来ないと願っていた。
「笑顔ってこうやるんですよ。よく見てください」
ジャスティスのコクピットを開き、顔を見せる。
良く見ておけ。
これが笑顔だ。
お前がこれからずっと浮かべなくてはいけない笑顔だ。
そのように目に焼き付けさせていると、クロードは「……それより」と話題を逸らしてきた。
「これからジャスティスごとあんたを倒すって宣言した所で顔を出してきたのは何か理由があるのか? まさか笑顔のやり方を実際に見せる為、とか言わないよな?」
「それもありますが他にも理由はきちんとありますよ。好戦的になってきた貴方を抑制するとかね。現にこうして攻撃をされていないじゃないですか――というのは結果論ですよ、結果論」
適当な言い分を当然信じていないだろう――とクロードの眉が途中で歪んだ所で判断し、本題に入る。
「貴方に対して直接顔と姿を見せて言わなくてはいけないことがあったのですよ」
「……言わなくてはいけないこと?」
これだけはクロードに問わなくてはいけなかった。
――気付かせる為に。
「クロード・ディエル。貴方は何を望んでいるのですか?」
「……はあ?」
呆れ声を放ち、クロードはやれやれと首を横に振ってきた。
「その答えに何の意味があるんだ?」
「答えてください。貴方は何を望んでいるのですか?」
真面目な問いだ。
ふざけた問いではない。
この時点でのお前の望みは何だ?
「俺がお前達ルード国を打倒する理由は――」
「違います」
そんな大義名分を聞きたいんじゃない。
「僕が訊きたいのは『正義の破壊者』がルード国を倒す理由を聞いているんじゃない。ましてやその先に世界平和を望んでいるとかいう綺麗ごとなんか聞きたいんじゃない」
コンテニューは人差し指を突きつける。
「貴方自身の望みを聞いているんですよ、クロード・ディエル」
「俺自身の……望み……?」
唖然としているクロード。
その様子にコンテニューは溜め息を付く。
「分からないようですね」
「……何が言いたいんだ?」
「貴方自身の望み――というか願望ですね。それを貴方自身の口から聞きたかったのですが……まあいいでしょう。僕が言い当てますね」
「本当にお前、何が言いたい――」
「貴方の願いは――身近な人との幸せ、でしょう?」
そのはずだ。
何故なら、自分がそう思っていたからだ。
「世界中全ての人間が幸福でいられる世界なんか望んではいない。身近な人が幸福でいられる世界を望んでいる。そこに自分もいたい」
それが俺の望み。
それが僕の望み。
「友となった人達の笑顔を傍で見守っていたい。好きな人と一緒に添い遂げたい。――ただそれだけでしょう?」
ただそれだけ。
それだけを望んできた。
ルード国への復讐の気持ちなどもうない。
あるのは自身の幸せへの望み。
もうそれだけしか考えていない。
失ってから分かる、この尊さ。
しかしながら、この時のクロードはこう思っていたはずだ。
「――『そんなのは決して叶えてはいけないものだ』」
自身の幸せを真っ先に捨てていた。
それがこの時の――『正義の破壊者』のリーダーであるクロードの思考だった。
「そんなことを考えていそうな顔ですね」
「……」
「図星の様ですね」
くだらない、とコンテニューは鼻で笑い飛ばす。
「そんな風に思っているのであれば、決してその願いは叶いませんよ。叶えるつもりが無いんですから。だけど……僕は違います」
自らの胸のあたりの服をぎゅっと握り、彼は少し翳りのある表情になって語る。
――これまでの苦悩を。
「これまで僕はたくさんの人をこの手で殺しました。最初は戦場のど真ん中でジャスティス試運転をしていたパイロットを殺して乗っ取った所からですね。そこから何人も殺しました。もしかすると今の貴方以上に殺しているかもしれないですね。しかしそれは全ては自分の知っている人の幸福の為、ひいては――自分の幸せの為ですね」
これが本心。
これが真実。
「お前は……その生き方を後悔していないのか?」
「後悔だらけですよ。ええ」
堂々と、コンテニューは答えた。
「ああすればよかった。こうすればよかった。助けられる人を助けられなかった。こんなはずじゃなかった――そんな後悔をどうにかしようと生きているのが僕ですよ。むしろ《《そんな後悔から生まれた》》と言っても過言ではありません」
後悔から生まれた。
それは文字通りの意味だ。
「だけどそれでも僕は――他人の幸せを踏みにじってでも――身近な人の幸せ、果ては自分の幸せを求め続けます」
コンテニューは胸を張る。
堂々と。
自分が間違っていると分かっていても。
――真に自分が間違っていないと分かっているから。
「親しくなった人間は全て生きていてほしい。寿命まで幸せに暮らしてほしい」
だから頑張った。
そうなるように努力した。
「好きな人と結婚して、幸せな家庭を作りたい。一緒に老いていきたい」
普通の望み。
もう叶わないと諦めていた望み。
「――クロード・ディエルが諦めている望み」
クロード・ディエルが諦めていた望み。
それをコンテニューが――
「その望みを――《《僕は全て掴み取って見せる》》!」
クロードはそのまま諦めていろ。
コンテニューとして、全てを手に入れて見せる。
「さあ見ろ、クロード・ディエル! この僕の姿を目に焼き付けろ! この眼! この顔の造形! この口! この鼻! この耳! この髪色! この長さ! この肌の色! この身長! この体重! この手の形! この足の長さ! この腰の位置! ――一七歳という若さながら陸軍のトップに上り詰めた僕のこの全てをきちんと記憶に刻んでおけ!」
両手を広げ、コクピットから完全に足の先まで乗り出す。
――全身を見せつけるように。
覚えろ。
この容姿を隅々まで覚えろ。
それが今後の――お前なんだ。
「僕の名はコンテニュー! ただのコンテニューだ! 戦場で生まれ、非道な手段でここまで辿り着いた男だ!」
刻め。
ここまでの道は決して容易くなかったということを。
「君を犠牲に僕は君の望みたかった世界を掴み取る! 僕は君から全てを奪い、君の代わりに幸せになる男だ!」
そう。
僕は――俺の犠牲の上で幸せになる。
「だから――僕を信じろ! 僕はお前の望みを全て叶えることが出来ている存在だ!」
「……………………は?」
完全に、クロードは呆けた表情だ。ここまで間抜けな自分の表情を見ると、逆に清々しくなって笑いさえ込み上げてくる。
だが、当時の自分の心情も分かる。
何を言っているんだ、と。
だけど、全てを経験した今ならば分かる。
コンテニューとして綴った一つ一つの言葉。
これらは一言一句全て――後の展開に必要だったピースだということを。
「……覚えてやるさ」
クロードは言った。
「覚えた上で、その全てを破壊してやる」
クロードのその言葉に、思わず笑みが浮かんでくる。
そうだ。
それでいい。
「これから俺はお前の――正義を破壊する」
やってみろ。
やれるものならば。
「――いいでしょう」
一つ頷き、コンテニューはコクピットの中に入って行く。
姿を見せるのはもうこれでいい。
クロードは完全に覚えたはずだ。
――コンテニューの容姿を。
「こちらこそ、貴方の『正義』を破壊することになりますから覚悟してくださいね」
これから破壊するのは、クロードの、『正義の破壊者』のリーダーとしての『正義』。
そしてその凝り固まって自身に満ち溢れた――『正義』だ。
個人としての幸せを見ていないクロードに、知らしめる戦いだ。
「……」
ふと、脳裏をよぎる。
もし、ここでクロードが自分に倒されれば――
「……」
コンテニューは無言でジャスティスの操縦桿を握り、前進する。
「……」
『……』
あまりにも慎重すぎる戦いであった。
あちらも考えは同様なのか、動きを見せない。
数秒の睨み合いが続く。
先に一歩踏み出したのはクロードだった。
ゆっくりと一歩ずつ、ジャスティスとの距離を詰めていく。
その動きを見て、コンテニューは銃弾を放つ。
しかしながら当然、その弾丸はクロードの身体を貫かない。
五メートル程手前で弾かれて他方へ飛んでいく。
「前と同じく、見えない盾、ですか」
芸が無い――とは言わないが、相変わらずずるいな、とは思う。
自分なのに。
『言っておくが、地雷とか無意味だぞ』
「――地面を不動の盾に変化させたのですか」
『正解だ。察しがいいな』
それはそうだ。
知っているから。
「どちらにしろ地雷なんか観光地に仕掛けてある訳ないですけど――ね」
と、そこでコンテニューは真上に向かって一発放つ。
しかしながらクロードは反応を示していなかった。
足元が駄目ならば次は上に向くように――と、コンテニューが読み取ったと思ったのだろう。
(……ならば、これだ)
コンテニューはジャスティスのとあるスイッチを押す。
直後。
真っ白い煙に辺りが包まれていた。
そのまま、クロードのいる位置に銃弾を撃ち込む。
カン、カン、と音が鳴る。
どうやら当たっていないようだ。
そのままコンテニューはクロードを中心にぐるぐると回転して――しかも五メートルを超えない範囲はきっちりと守って――攻撃をしていた。しかも位置を特定しにくいように一定速度ではなく変化させ、クロードが少し動く度に修正をしていた。
因みにその姿が見えているような行動の理由は明白だ。
実際に見えていたのだ。
密かに異能を用いてその視界を見えるようにしていたのだった。
そんな中、クロードが唐突に、凄まじいスピードで前方へと飛び出した。
――が、直後。
『がはっ!』
クロードが血を吐いて倒れた。
その理由は知っている。
前方に乗り出した、その瞬間、彼は盾を解除した。
そこに銃弾が当たったのだ。
――先程、上部に撃ち出した銃弾が。
『ぐっ……まさか……これを狙って……』
そうだ。
狙ってやった。
ここでクロードが停止すれば、彼女と遭わない。
だから未来を変えた。
彼女と遭って、思ってしまったのだ。
このまま彼女がまた痛い目に遭うのは嫌だ、と。
だから思いつきでやってみた。
ここでクロードが倒れても、その代理がいればいい。
そうすれば彼女を傷つけない未来が導き出せるのでは――と。
だが――
「……やはりそうか」
結果は無情だった。
過去に戻されてしまった。
しかも、
『今度こそ勝ってやるよ』
クロードが自分の口の端を上げている。
――こんな所まで戻された。