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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
最終章
274/292

希望 11

  ◆



 マリーと遭い、仕込んだお守りを渡す。

 それだけでも目的は達成できたのだが、更には自分の計画まで話すことが出来た。

 良い方向での予想外での出来事だ。

 これでより精度よく、自分の望んだ通りの展開になる。

 ルード国で彼がやろうと思っていたことについての事前準備はこれで全てだ。

 後はあちらでやるべきことをするだけだ。


「……お母さんが出来たのだから自分も出来るはず……」


 強く念じる。

 強く思い込む。

 これが最後の準備項目。

 残るはただ二つだけ。


 最終決戦の地で効用を発揮するよう、彼らに対しての仕込み。

 そして――クロードの思考を誘導すること。



 その為にコンテニューは『正義の破壊者』の集落へと向かった。


 しかも――()()()姿()()



    ◆



 とある一室。

 広大な会議室のような無機質な部屋でありながら、細長い机を囲む様に並べられており、それはまるで一つの円卓のようになっていた。

 そこには多数の人、多様な人種がいた。


 茶色の髪をした青年。

 褐色の肌の三十代くらいの女性。

 白髪の混じった初老の男性。

 くりくりとした眼が特徴の男の子。

 髭を蓄えた王。

 その中にはライトウとカズマ、ミューズ、そして――クロードもいた。

 性別も人種も年齢層もかなり幅広い人達が、所狭しとこの部屋に集まって円卓を囲んでおり、誰もが誰しもの顔を見ることが出来ていた。

 数として、ざっと五〇人。


「老若男女、人種、思想――色々な人物にここに集まってもらった。言語は共通してアドアニア公用語を話してもらおう。全員、話せるようにはしてあるからな。でも本来は言語すら別な人々だ。共通しているのは『正義の破壊者』、およびウルジス国に賛同している国の人達、という点だけだ。勿論、俺に共感している人を集めたわけじゃないから、中には俺に反感を抱いている人間もいると思う。ここに集められて何をするのか、皆はまだ何も聞いていないだろう。ただ単に呼ばれたからって人がほとんどで、不安に思っている人も多数いるだろう。だが、ただ話をするだけだから使うのは頭だけだ」


 大層なことを言っている黒髪の少年を、じっと、コンテニューは見ていた。


「さて、みんなには早速だが議論してもらおう。

 議題は――俺が全世界を征服した後にどうすれば全世界が平和になるか、だ」



 どうすれば世界が平和になるのか?

 コンテニューがやらなくてはいけないのは、この議題の結論を――意図的に導き出すことだ。



 そして、世界平和への議論は進む。


 クロードが異能で、頭の上にアドアニア公用語で名前と出身地を表示させるというやり方で、お互いの素性が完全に判明させられている場で、意見が出てくる。

 クロードが死ねば解決するという者。

 ジャスティスを用いればいいという者。

 ――以前と同じ提案、同じ答え。


 故にコンテニューには分かっていた。

 この議論は途中で挫折する。


 そこが――切り出すタイミングだ。


「さて、他に意見を出す人はいないか? ああ、新しい意見でも、アイディアレベルでの思いつきでも構わないぞ」

「……」


 クロードがそう促すが、誰も口を開かない。

 再び重苦しい空気が漂い始める。

 一秒。

 二秒。

 五秒。

 十秒――


「――ねえねえ、今って何しているの?」


 その声は、白色に近い明るめの茶髪の五歳くらいの幼き少年から発声されたモノだった。

 彼は隣にいた褐色の肌の女性に邪気の無い様子で問い掛けていた

 女性は、少年に声を潜めて説明する。


「えっとね……平和について話しているのよ」

「へいわ―? なにそれー?」

「平和っていうのはね……ああ、どう説明したらいいのかしら? この子の親、平和って言葉について教えていないのかしら……」


 褐色の肌の女性は戸惑いながらも、優しい口調で語り掛けてくる。


「つまりえーっと……世界のみんながどうすれば戦わなくてすむのかなー、って考えているのよ」

「なんだー。じゃあ簡単だね」


 静まった場の中で鮮明に聞こえるその会話。

 誰もが耳を傾けていた。

 そして少年は無邪気に言葉を場に投げかけた。


「みんながみんな、他の人に嫌なことをしなきゃいいんだよ。例えば――他の人にやる痛いことを、自分も同じように痛くなったりとかね」



 その少年の頭の上に浮かぶ名は、ジョン・スミス。

 しかしてその実は――


(さあ、これからするべきことはこれだぞ……クロード)



 その中身は――コンテニューであった。



 コンテニューは異能を用いて少年の姿になり、ジョン・スミスという偽名と、適当な国を出身地として表示させていた。

 全てはこの場で意見を口にする為。

 ――自分が知っている言葉を口にする為。


 その甲斐あってか、クロードは先の発言の後に少し考えた仕草を見せると、


「ジョン君、素晴らしい意見だ。ありがとう」

「え? え? 意見?」

「誰だって痛いのは嫌だ。でもそれを相手に与えてしまうのは、きっとその痛みがどれだけ痛いのかを理解していないからだ。……俺もそうだった」


 その言葉に、コンテニューは心の中で安堵した。


 先のアドアニアでの戦で、クロードは負傷した。

 久々の負傷で、重傷だった。

 ずっと無敵だった。

 痛みを知らなかった。

 故にジョン・スミスの――コンテニューの言葉は、クロードに突き刺さったはずだ。


「だから君の意見をベースにこれから議論しよう。――ミューズ」

「了解っす!」


 そこからさまざまに意見は進む。


 ――進む。

 議論が進む。

 ある人が出した意見に、別の人が意見をする。

 活発に話が進む。

 進んだり。

 戻ったり。

 ずれたり。

 それでも少しずつ。

 少しずつ。

 前に進む。

 不毛な議論ではない。

 みんなが意見を出す。

 考える。

 正しい道を探る。


 多くの人種。

 多くの年齢層。


 そんな彼らが、一つのテーマについて議論を交わす。


 この様相が見たかった。

 この様相が欲しかった。


 この様相が――必要だった。


「……よし」


 そう小さくジョン・スミスが――コンテニューが呟いた言葉は、周囲の喧騒に消されて届かなかった。



 誰の耳にも、届かせなかった。



    ◆



 外はすっかり日が傾きかけていた頃。


「これにて議論は終了とする。――皆、お疲れ様」


 お疲れ様でした、と人々が声を重ね、自然と拍手が生まれる。隣の人と拳を合わせる者、疲れたというように天を仰ぐ者、仲良さそうに笑顔で話し合う者――様々な者がいたが、その誰もがへとへとでありながらも満足げな表情を浮かべていた。

 その中で白色に近い明るめの茶髪の五歳くらいの幼き少年――コンテニューも満足そうに笑みを浮かべていた。

 思い通りになった。

 この議論の結論。

 人の痛みを自分が共有する。

 そんな世界を維持させる必要がある。

 そうクロードに認識させたのだから。


「ねえ」


 と、そこで肩を叩かれた。


「っ!?」


 突然のことで思わず肩を跳ね上がらせてしまったが、すぐに何事か思い当たった。

 そうだった。

 このタイミングであった。

 ――自分から話しかけたのではなかったのだ。

 そう自覚したコンテニューは笑顔を表面に浮かべ、振り返る。


「なあに、クロードさん?」

「君には感謝しなくてはならない。――ありがとう」

「えっ? 何で褒められるの?」

「いずれ分かる。歴史が変わる時、君の名前は栄光に刻まれるだろう」

「んー、よく分からないけど……なんかすごいね」


 ――それは絶対ない。

 ジョン・スミスどころか、コンテニューという名すら、その歴史には刻まれない。


 刻まれる名は――()()()()()()だ。


 だがそれを口にしても意味が分からないだけ。

 今は自分がやるべきこと――()()()()()()()()()を、早急に進めるべきだ。

 コンテニューはそこで何かを思い出したかのように「あ、そうだ!」と口にし、ポケットをごそごそと漁ってとあるモノを取り出し――


「はい、これ。お守り」


 クロードに、赤、青、黄、黒の四つのお守りを手渡した。


「これは……?」

「えっと……赤色のがライトウさんで、青色のがカズマさん、黄色がミューズさんのなんだって。あ、クロードさんは勿論黒だよ」

「そういう意味ではなく……何故、お守りを?」

「えっとね、お守りって人の気持ちが入っているから効果があるんだって」

「いや、だからね、お守りの意味を聞いたのではなくて……」


 言えるわけがないだろう。そこに仕込があるなんて、《《俺は知らなかった》》んだからな。

 そう心でツッコミを入れながら、他に意識が向くように意図的に意味深な言葉を口にしておく。


「絶対に間違えないで、って。あとずっと肌身離さずずっと持っていてね、って。じゃないとまた傷が開くわよ、って。そうお母さんが言っていたんだからそうなんだよ!」

「お母さん……?」

「あっ……これ言っちゃ駄目って言われていたんだった! お、怒られるーっ!」


 と、焦った様子を表に出しながら、逃げるように部屋から出て行った。

 お母さんなんていない。

 だが「傷が開く」という言葉で、あの女医が母親だとあたりを付けるだろう。彼女は否定するだろうが、元々身元不詳なスパイである人間なので、きっと信用されないだろう――と、全てを押し付けた。

 しかしながら少々罪悪感があったので、


「……ごめんなさい」


 と、走り逃げている最中にそう謝罪の言葉を、こっそりと口にしていた。

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