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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第六章
229/292

ライトウ 08

 キングスレイ。

 彼は剣を杖代わりに使用しながら、一歩、また一歩と牛歩ながらも彼は進む。

 向かう先は、彼の――血だまりに沈むライトウの近くであった。


「……死んだ、か」


 一瞥し、キングスレイはそう呟く。

 ライトウの右腕から先は完全に無く、そこから流れ出す血の量は尋常ではない。

 その右手は離れた場所にある。

 ――未だに刀を握っているが。

 先のキングスレイの言葉は、そんな様子の彼を見ての一言であった。


「……刀剣は錆びたり欠けたりしたら、もうそれは死んだも同然だ――というのが、賛否両論あると思うが、俺の持論だ」


 動かないライトウにそう声を投げる。

 全身全霊、正に自らを刀として戦った彼に向かって告げたその言葉。

 右腕というパーツが欠けた彼自身は既に刀として死んでいる。

 そのことを差していることに他ならなかった。


 立っているのはキングスレイ。

 欠けているのはライトウ。


 先の勝負の結果は明白であった。


 ――かのように思えたのだが。


「……しかし、サムライ ライトウよ。驚いたぞ」


 キングスレイは口元に笑みを浮かべる。



「まさかこの俺と――()()()()()とはな」



 ピキリ――とキングスレイの剣に亀裂が入る。

 スティーブという名の付けられた剣は、この戦いで限界を超えていた。

 限界を超えていたのは剣だけではない。


「げほ……っ!」


 キングスレイは口から大量の血液を吐き出し、膝を折る。

 ライトウから受けた一撃。

 左肩から真正面を切り裂いた一撃。

 それはキングスレイの心臓を貫き、文字通り――致命傷を与えていた。


 相討ち。

 これがこの決闘に対しての結末であった。


「だが……俺は負けてはいない……勿論、お前も負けていないからな……」


 ぜえぜえと辛そうに息を切らしながら、キングスレイは微笑む。

 この勝負に敗者はいない。

 仮に生きている者が勝者であったのならば、キングスレイはもうすぐ勝者ではなくなる。

 誰よりも一番、自分が理解していた。


「……お」


 と、そこで。

 キングスレイの目の中に、とあるものが映り込んだ。

 全くの偶然。

 今まで意識すらしていなかった。

 だけど、そこにあった。


「……よく壊れていなかったな……この椅子……」


 椅子。

 それはこのルード軍中央会議室のど真ん中に位置していた、キングスレイに用意されていた椅子であった。

 あれだけの攻防でも壊れずに残されていた、唯一の椅子と言っても過言ではない。当然、戦闘中には残そうだなんて思っていなかったのだから、本当にただの偶然であった。

 ちょうどいい――と、彼はその椅子に向かって這うようにして進む。

 無様な姿だ。

 だが、この場には誰もいない。

 ライトウとキングスレイ以外は誰もいない。


「……はぁ……はぁ……はぁ……」


 息も絶え絶えに椅子に辿り着き、彼はその椅子へと腰を下ろす――というよりも這い上がるようにして腰を置く、という方が正しかった。


「……これであれば俺が負けたと思う奴はいないだろう……」


 蚊の鳴くような声。

 彼には絶対的な矜持があった。

 本当はその矜持を打ち破って欲しかった。


 新世代を担う人物に、超えてほしかった。

 それが味方であろうが敵であろうが。


 自分という存在を超えて――世界を変えてほしかった。


 それが彼の願いであった。

 自分自身で世界を変えるには、彼は年を取りすぎた。

 だから託したかった。

 勢いのある若者に。

 未来ある若者に。


 だけど。

 結果的にキングスレイは若者に討たれたが、その若者の勢いも無くしてしまった。


「やっぱり不器用だな……俺は……」


 げほげほ――と咳と共に大量の血を吐く。

 既に彼も限界であった。

 その命は尽きようとしていた。

 結局、彼の思う通りには行かなかった。

 あれだけ強い奴の登場を望んでいたのに――


「……っ!」


 そこで彼は気が付いた。

 死の直前になって、ようやく分かった。

 彼の思う通りにならなかった。

 それもそのはずだ。

 何故ならば、彼が願ったことは――後進の躍進ではなかったからだ。

 自分を超える存在を求めていた?

 ――違う。

 自分が求めていたのは、自分よりも強そうな存在。


 その存在よりも――自分が強いということ、だ。


 強い奴と戦って勝つ。

 自分が一番強い奴になる。

 ただそれだけ。

 少年のように純粋に強さを求めていただけ。

 年を取ってそんな童心でいることを恥じて、適当な言い訳をしていただけだ。

 誰よりも強くなりたい。

 強くありたい。

 ただそれだけだったのだ。


 ――だからこそ。

 彼は伝えておきたいことがあった。


 誰も居なくても。

 誰も見ていなくても。

 誰も聞いていなくても。


「俺は……『剣豪』キングスレイ……」


 ザン、と剣を目の前に突き立てる。

 その柄に両手を乗せ、背筋をピンと伸ばしながら、彼は――残された力を全て振り絞るかのようにしながらも、力強く告げる。



「生涯で―― ()()()()()()()()()()()()()()()()()()!!」



 彼は伝えた。

 自分は絶対的な王者であった、と。

 子供じみた主張だ。

 だけども、これが彼の本心だった。

 誰よりもずっと強くあった。

 強かった。

 それを主張したかった。

 だから行った。

 言葉には出さず、伝える。

 余裕綽々と――堂々とした様相を見せつけることによって。


 この――最期として残る姿形で。




 ――そうして。

 ルード軍総帥であったキングスレイは息を引き取った。


 だが椅子に座って剣を地面に突き立てて背筋を伸ばしているその姿は、今にも動き出しそうで。

 命尽き果てていても。

 屍と化しても。



 最後の最期まで――堂々と王者たる様を見せつけていた。

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