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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第六章
215/292

カズマ 02


「ぐあああああああああああああああああああああっ!」


 途端に身体に激痛が走る。

 魂が引っ張られるような激痛。

 それは彼に直接、ジャスティスが破壊されたことを知らせるしるしでもあった。

 ただ激痛にうずくまる訳にはいかない。

 かろうじて意識を保ち、カズマは後ろに跳躍して距離を取る。


「何で……何でだ……?」


 素材は同じはず。

 機体の性能も同じはず。

 むしろ攻撃力を増していたカズマの方が有利であった。

 なのに、砕け散ったのはカズマの方だけだ。


 しかし、カズマは気が付いていた。

 口では疑問符を浮かべていたが、理解していた。


 先の攻防戦。

 真上からカズマのジャスティスが攻撃を仕掛けていた。

 敵ジャスティスは両腕で防御している。

 通常であればカズマが押している状況である。

 実際、そうであった。

 しかし、砕け散る直前。


 カズマの攻撃は――押し返されていた。


 だから理解した。

 敵の獣型ジャスティスとカズマのジャスティス。

 その根本的な力には差があったと。



 ――カズマは知らなかったことではあるが、ルード国側の獣型ジャスティスは出力が強すぎて怨嗟の声がパイロットに流入してしまう程であった。

 対してカズマのジャスティスはただ変形をしただけのモノである。

 つまり初期スペックが違った。

 その差が、先の結果として現れてしまった。


「はあっ……はあ……っ!」


 息が荒くなる。

 意識が持っていかれる。

 正直、立っているのがやっとの状態だ。


 しかしながら、戦場で敵は待ってくれない。


『残念だったわねえっ!』


 追撃。

 相手のジャスティスが跳躍してくる。

 だが、先の攻撃で分かってしまった機体差。

 この攻撃は受ける訳にはいかない。

 ――破壊されてしまう。


「ぐううううっ!!」


 持っていかれそうな意識の中、歯を食いしばって回避行動に移る。

 だけど、相手の追撃は止まない。

 ここぞとばかりに攻勢に出てくる。

 右に左に転がるように避けるカズマ。

 相手の追撃も、まるでぴたりと付いてくるように正確に行われる。

 最初は避け切っていた。

 しかし徐々に避ける距離も短くなっていくと、相手の攻撃が外装をかすめて行く。

 その度に激痛が走る。

 魂が持ってかれそうになる。

 それでもカズマは耐えた。

 耐えながら避けるが、徐々に削られる感覚に神経が狂いそうになる。

 その肉体的なダメージと精神的なダメージが合わさって回避行動にずれを生じさせてしまう。


『はぁっ!!』


 ペキリ。

 敵ジャスティスの後ろ脚が、カズマのジャスティスを正面に捕えた。

 そのままカズマのジャスティスは後ろの方に吹き飛ばされる。


「ぐはっ!!」


 背後の巨大ビルに当たって止まる。自分の腹部にダメージが与えられたわけではないのに、腹の空気が全て口から出てしまう。

 今までのモノとは違い、かなりのダメージ量だ。

 正直、動く気力が起きない。

 起こすことが出来ない。


「ぐ、うう……」


 頭が痛い。

 内部から温かい何かが込み上げて口の端から流れていくのが感覚だけで分かる。

 内臓ももうずたずただろう。

 瞼がどんどん落ちて行く。

 意識が薄れていく。


 敗北。

 それを自覚し始めた。

 機体の性能差によって、一手で逆転されてしまった。

 戦いにもなっていなかった。

 せっかくピエールが稼いでくれたのに。

 せっかく改造してもらったのに。

 カズマは何も出来なかった。

 あれだけ息巻いてこの様だ。

 情けない。

 情けなすぎて泣けてくる。実際に泣いているのかもしれない。

 それすら分からない程、痛みと意識の混濁が続いている。

 辛い。

 きつい。

 このまま目を閉じれば、きっと楽になれる。

 悪魔がそのように囁いてくる。

 この後、きっと相手ジャスティスはとどめを刺しに来るだろう。

 ここからの逆転の手段が思いつかない。

 思い当たらない。


「ごめんなさい……」


 カズマは謝罪を口にする。

 蚊の鳴くような声で紡いでいく。

 その謝る対象はクロードでも、ましてやライトウでもなかった。

 彼が口にしたのは、彼が守りたかった人物だった。


「ごめんなさい……ミューズ……」


 守れなくてごめんなさい。

 生きるという約束を守れなくてごめんなさい。


 諦め。

 その気持ちが前面に出てきた謝罪であった。


 彼はもう気力がなくなっていた。

 負けを受け入れていた。

 だからこそ瞼を落とし――



『――()()()()!』



 その時だった。

 声が聞こえた。

 通信網は断絶されたはずだ。

 なので幻聴かもしれない。

 しかし――確かに聞こえた。

 間違いなく聞こえた。


 彼女の――大切で守りたいミューズの声が。



『負けないで生きて――カズマッ!!』

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