決戦 15
◆カズマ
ドグシャ! という鈍い音が聞こえた。
獣型のジャスティスの腕で機体が貫かれた音だ。
――だけど。
それはカズマのジャスティスが砕かれた音ではなかった。
『なん……だと……?』
獣型ジャスティスも動揺を隠せない様子である。
カズマも同じ気持ちだ。
獣型ジャスティスとカズマのジャスティスの間に――ピエールのジャスティスが身体を投げ出す様に割り込んできたのだ。
獣型ジャスティスの腕を抱え込む様に。
――その攻撃からカズマを守るかの様に。
『……ぐっ! あは、あはは……言ったでしょう……?』
苦しげな声。
それは先程まで命乞いをしていた人物と同じ声――ピエールのモノだった。
『僕は……攻撃はしません……が……あなたの邪魔をしないとは……味方を守らないとは言っていない……っ!』
『くそ! は、離れない!』
その言葉の通りに獣型ジャスティスが腕を引き抜こうとしているようだが、びくともしていない様子である。
『離しなさい! この死にぞこないがああああっ!』
『嫌……です……』
『何で動けるのよおおおおおおおおおおっ!』
相手のその言葉に、カズマはハッとして操縦桿を握る。
だが――動かない。
カズマのジャスティスはびくともしなかった。
何らかの理由で、ピエールのジャスティスだけは動いているのだ。
何故なのか。
『カズマ……さん……聞こえて……ますか……?』
「ピエールさん!? 聞こえています!」
『良かった……じゃあ僕は貴方を……一度は守れたんですね……』
「どうして……どうして僕を……」
『……世界平和』
「えっ……?」
『僕はね……暴力が嫌い……なんですよ……』
息が荒くなる。
だけどもピエールは言葉を止めない。
『だけど……自分では何も出来ないから……貴方に……託します……』
「ピエールさん……」
『僕の最後の意地を……どうか……平和に……繋げて……ください……』
声が弱々しくなっていく。
今にも消え入りそうだ。
「しっかりしてください! ピエールさん!?」
『ああ……そうだったんだ……みんなは知っていたんだね……』
そこでカズマは、モニタの端に映っている彼のコクピット内での様相に初めて目を向けた。
目は虚ろで吐血している。顔も青ざめている。
それでも彼は――
――満面の笑みを浮かべていた。
『本気って……こんなに気持ちいいことだったんだね……』
「……ピエールさん? ピエールさん!? 返事をしてください! ピエールさん!」
カズマの悲痛な問いにも答えず。
モニタ上にも明確に示されている通り。
ピエールの魂は、既にその身体になかった。