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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第六章
209/292

決戦 14

    ◆???





 僕は、とある地方貴族の三男として生まれた。


 至って普通の貴族であったのでそこそこ裕福であったが、最上流ではなく貴族の中では中流に位置していたので、何とも微妙な立ち位置ではあった。

 そんな家の三男だったから、尚更、微妙な立ち位置に僕はいた。

 家は長兄が引き継ぐし、何かあった時は次兄がその代わりだ。二人が共に何かあった時に初めて僕が登場するわけだが、如何せん、そんな確率はひどく低いので実質は何もないのと同義であった。

 それでも一応貴族の嗜み故に、一通りの教育を受けた。二人の兄と比べればこだわりは雲泥の差であろうが、それでもさらりと受けた。深く入るには自分の立ち位置はまた微妙であったと言える。

 だからといって僕は親から愛情を受けていなかったわけではない。少なくとも自分ではそう思っていた。基本は進むべき道を組んでおいて、たまに少し口を出す。普通の親だったと思う。勿論、食事の時は顔を合わせたし、遊びにも連れて行ってもらった。……あれ? そう考えると本当に理想の親だったのではないかと思う。兄達が口うるさく言われる、なんて愚痴を言っていたから少しそれに影響されたのかもしれない。まあ、親の心子知らず、っていうやつだ。

 とにかく、僕は自由に過ごしていた。

 何一つ不自由のない暮らし。

 だけどもそんな暮らしの中で、年を重ねるごとに気になってきたことがあった。

 それは、兄達が必死に剣を振っている姿であった。

 教養として剣を学び、必死に木で作った微妙な重さの剣を振り、身体を鍛え上げている二人を見て、僕は思った。


 ――それが将来、何の役に立つのだろうか?


 いくら剣を必死に振った所で、現在は重火器や戦車、更にはそれをも超える兵器が跳梁跋扈する時代である。昔のように棒切れを持って当人同士が戦闘する時代なんてとうに昔の話である。兄に問うたら「精神を鍛える為だ」だのなんだの言っていたが、結局、それ自体が役に立つことではないと言っているようなものではないか――と思ったまま長兄に言ったら、頭を叩かれた。暴力で訴えることしか出来ないなんてなんて野蛮なんだ。僕は絶対にやらないぞ、とそこで僕は剣を持たないことを涙目で誓った。

 代わりに僕はキッチンに入り、料理を学んだ。同じ凶器を手に持つのならば美味しいモノを作るために必要な包丁の方がいいと思ったからだ。

 しかしそこでも僕はとあることに気が付いた。

 それは、料理人が鶏を絞め殺しているのを見た時にだった。

 どうして鶏は殺されなくてはいけなかったのだろうか――なんてことは思っていない。それは無論人間が生きるために食べられる為なのだからだ。食物連鎖故に仕方がない。鶏肉は美味しいし、僕も大好きだ。料理人のその行為を咎めることや疑問を持ったりしたわけではない。


 そこで疑問に思ったのは、父や兄達が行っている狩猟だ。


 彼らが行っているのは食料として必要だから狩っている訳ではなく、これもまた馬の扱い方や銃の扱い方、ならびに貴族の嗜みとかいう訳のわからない理由で行っているのだ。銃の扱い方という所は同意だが、動物を狙う理由が分からない。しかも撃ち落とした動物は、時によってはそのまま放置するとのことだ。ウサギなど可愛いではないか。何故撃つんだ? だったら人間を撃っているのと同じではないか――と次兄に言ったら、憐れんだ目でこちらを見ただけで何も言わなかった。口にする必要もないということだろう。くそう馬鹿にしやがって。お前達こそ動物に逆恨みされろ! ――と、僕は狩猟という行為を止め、動物には優しくするようにした。

 ついでに料理も止めた。

 そんなことを幾つもやっていたら、いつの間にか家に居場所がなくなっていた。

 何故だ。

 疑問を口にしただけではないか。貴族にとっての「当たり前」に首を傾げただけではないか――と訴えたのだが、白い目で見られるだけであった。

 僕の意見が間違っているならば間違っていると言えばいい。間違っていることを説明も出来ずにうやむやにするような奴らは、きっと何も考えていないんだ。

 その時に僕は悟った。

 この人達は愚かなのだ。自分は特殊な人間なのだ、と。

 すると世界が一変した。

 人々の口にすることが戯言に見えた。

 妬み、嫉妬、理由のない無駄な言葉が世界には多すぎる。


 ――みんな馬鹿なのだ。


 だからこの境遇を甘んじて受けた。

 いくら無視されても、独学で勉強した。

 暴力以外のあらゆる知識――効率の良い輸送方法や、何かあった時に助けになれるように異国語を覚えること、ならびに各国の経済動向や歴史背景――勿論戦闘に関わる所以外でだ――をあらゆる方法で学び取った。

 それらで身に着けた知識を持って、たまに会議に呼ばれた時に意見しても――当然無視されたのだが――それはこいつらが理解していないのだと鼻で笑ってやった。

 そしたら「勉強のために世界を見て来い」と海外に短期留学させられた。

 お前達より世界を知っている僕に何を勉強しろ、と? こいつらがいかに世の役に立っていないのか、はなはだ笑える話であった。ただせっかくのいい機会ではあったので僕は反対もせずに従った。知見を広げるのはどちらにしろいいことであり、僕自身の成長に繋がると思ったからだ。

 何? 先の話と違うのではないか? お前は十分に世界を知っていると言っていただろう? ――と思う人もいるだろうが、それは勘違いだ。

 僕自身は僕にそれ程までに驕ってはいないのだ。特殊で人よりも優れた発想は持っていると思うが、頂点にいるとまでは流石に思っていない。勿論、僕だって今は役に立っていないということは理解しているのだ。だけども将来的には役に立つために、今は必死に勉強中というやつなのだ。

 ――十年後に差が出る。

 そう思いながら異国での生活をそれなりに楽しんで暮らしていたのだが――



 ある日、唐突にそんな日常は終わった。



 僕達がいた国が、ルード国に武力支配された。

 地方貴族の僕の家も無情にもその武力の矛先の一端となり、破壊された。


 破壊したのは――『ジャスティス』。

 圧倒的な戦力を有する二足歩行型ロボットだった。


 僕は他国にいたので巻き添えは食らわなかった。

 だけどもニュースで、インターネットで、あらゆる情報網で知った。


 父、母、長兄、次兄。

 彼らが犠牲になったことを。


 ほらやっぱり剣術なんてやっていても何の役にも立たないではないか、僕の言う通りにしなかった愚か者め――なんていう感情は微塵も浮かばなかった。

 むしろあれだけ疎遠になりつつある家族であったのに、猛烈に悲しかった。

 泣いた。

 理不尽を嘆いた。

 僕達一家は殺される理由など何もなかったのだ。こんなにもあっさりと命を奪われていい訳がない。


 父だって頑張っていた。

 貴族であることに驕らず、後継者を必死に育てていた。


 母だって頑張っていた。

 父を必死になって支えていた。


 長兄だって頑張っていた。

 父からの期待を一身に背負って、父のような貴族になるべく努力していた。


 次兄だって頑張っていた。

 自分が何事も二番目の存在だと判っていたのに、手を抜かずに励んでいた。


 だから僕は家族のことを嫌いじゃなかったんだ。

 僕より思慮が浅くても、みんなそれなりに頑張っていたから。


 きっと十年後は僕を見直していたに違いない。

 父も。

 母も。

 長兄も。

 次兄も。

 僕のことを頼って、みんなが笑って仲良く肩を組んでお酒を飲むことが出来る未来だってあったのかもしれない。


 そんな未来を、ルード国は完全に潰した。

 許せなかった。

 復讐したかった。



 だから僕は――『正義の(Justice)破壊者(Breaker)』に入ったんだ。

 あの液体を飲んだんだ。



 だけども。

 僕はやっぱり暴力は振るえなかった。

 剣も銃も持てなかった。だけど役立たずにはならない様に、食糧の配給などの非効率的な部分の是正や、暴力以外での解決策を訴え続けた。

 そしてまた孤立した。

 みんな復讐心はあった。

 ジャスティスを破壊したい気持ちでいっぱいだった。

 その中できっと、僕は浮いていた。

 ルード国に何かしたい気持ちはあった。

 だけどそれは殲滅ではない。

 話し合いによる解決策でもない。


 ……分からなかった。


 戦闘に行くみんなに対して、何を言っていいか分からなくなった。

 綺麗ごとも言えなくなった。

 自分は何が出来るのだろうか。

 それすら分からなくなった。

 いつしか僕は言葉を話すことすら止め、無為な考え事をするためにぼーっとすることが多くなった。傍から見て問題児であったのは間違いないだろう。自分だってそう思う。



 ――しかしそんなある日。

 そんな僕は上から呼び出されると、同じように招集された人達と共にある一つの命令を下された。


 ガエル国ハーレイ領へと、空軍元帥ヨモツを撃破しに行く。

 そこに――()()()()()()()()()()()()()()()同行せよ。


 連れて来られた他の人達は見るからに血の気の多そうな人達でガッツポーズをしていたが、僕はハッキリ言って混乱した。

 何でジャスティスがここに複数あるんだ?

 そもそも、どうして僕なんだ?

 何でよりにもよって一番の火力を持つ主力部隊に?

 しかも、恨むべきジャスティスに乗らなくてはいけないのか?

 これは暴力的なことを拒んでいた自分に対し、強制させるものなのだろうか――?

 そう考えて『正義の破壊者』の離脱まで思考を巡らせる直前。


「――ただ一人だけ、奪った可翔翼ユニットを装着する役割が欲しいんだ。そのジャスティスは破壊されるわけにいかないから、戦闘には参加せずに徹底的に僕のサポートに徹してほしい」


 『正義の破壊者』の幹部であるカズマさんが言った言葉に、僕は間髪入れずに手を上げた。

 サポート。

 相手を破壊せずに済む。

 しかもジャスティスという、圧倒的な戦闘力ばかりに目が行くが、他にもジャスティス以外の攻撃を食らわない防御力や、優れた機動力をも持っている機体で、だ。


 これは――チャンスだ。


 僕は笑みさえ零れていた。

 僕のやるべきこと。

 僕自身は戦闘しないけれど、それでも役に立つことがある。


 戦わずにジャスティスを使う。

 サポートに徹する。



 それが僕の役割になった。



 そこから幾度の戦闘をした。

 その度に僕は滞りなくサポートをした。

 優れたサポーターだったと自負している。きっと一般人もうらやむことであろう。残念なのはそのパイロットだと表だって言えないことだ。今は二機しかないのだから、顔を覚えられて暗殺者に殺害される恐れもあるのだから。もっとも、赤い液体の効果で味方には裏切者がいないことは安心材料でもあったのだが。


 そんな中。

 ついこの間に会議があった。

 議題は――『どのようにすれば平和になるか?』。


 様々な人種が入り混じった、会議というよりも討論会、といったようなものであった。

 そこで初めて近くでじっくりと彼の姿を見ることが出来た。


 クロード・ディエル。

 魔王と呼ばれた存在。

 この『正義の破壊者』の代表者。


 今まで後方支援だけだったので、遠目にしか見ていなかったのだ。

 だが、近くで見てこう思った。

 ――ただものじゃない、と。

 彼は見た目はただの少年。

 しかしながら、そのオーラは――その背負っているモノは段違いであると僕は感じた。

 驚いた。

 ただの少年に見えながらも――全く威厳を感じさせないながらも――それでも畏怖の対象となり得ている。

 不思議な力も有している。

 だけど、それだけではない、何かもある。

 そう感じていた。

 それが何なのか、知りたかった。

 だからこそ、彼は臆せずに手を上げ、彼に問うた。

 自分が今まで思っていたことを。


 平和の為には――戦闘以外の用途でジャスティスが必要だ、と。


 その問いに関して否定の言葉を返したのは、しかしながらウルジス王であった。ただ、彼の答えは今まで出会った大人とは違い、きちんと理由づけし、かつ僕が納得出来るものであった。流石はウルジス国の長たる存在だ、と感心したものだ。……感心したものの、やはり自分の意見が否定された悔しさや、間違った考えであったことをすぐには素直に認められなかったが。


 ――だが。

 そこで終わりではなかった。

 僕は思ってもいなかった。



「いや、発想は間違っていないと俺は思う」



 まさかクロード・ディエルが僕の意見を肯定するなんて。


 普通の少年であれば、ウルジス王の言に乗っておいて、そのままで話を終わらせたであろう。

 だけど彼は口にした。

『正義の破壊者』でありながらも。

 肯定した。


 初めて、自分よりも年下で自分よりも優れているかもしれないと思った。

 同時に思った。


 ――この組織に付いていこう、と。


 彼らならばやってくれる。

 平和な世界を作ってくれる。

 そう思わせてくれるには十分な議論であった。

 僕は初めて思った。

 戦えないのであれば、彼らが作る平和の世界の手助けを全力でしよう。

 それこそ、この命を賭けて彼らを守ろう――と。




 ……それなのにっ!

 ()()はどういうことだ……っ!




 僕は自分自身に嫌気がさしていた。


 迎えたルード国侵攻戦。

 出だしは良かった。

 だけど突然、ジャスティスが操作できなくなった。

 そんな中、相手のジャスティスが迫ってきた。

 このままだと破壊を――命を落としてしまう。

 そんな状況になって僕は――


「――助けてください!」


 命乞いをしていた。

 考えて出た言葉ではない。

 咄嗟に出た言葉だった。


 情けなかった。

 命を賭けるとまで思ったのはなんだったのか。

 その後から時間稼ぎのために絞り出したような振りをしたり詰まったりしたが、出る言葉は命乞いでしかなかった。


 同時に気が付いてしまった。

 僕はずっと――()()()()()()()()()()だった、と。


 他人にではない。

 自分に対してだ。


 僕はずっと――羨ましかった。


 ここまで家族を養うことが出来ている立派な父が羨ましかった。

 その父を的確にサポートできている母が羨ましかった。

 父の期待を受けて剣術も長けている長兄が羨ましかった。

 狩猟は長兄よりもセンスがあったのではないかと思われた次兄が羨ましかった。


 そんな彼らへの劣等感を、僕は「自分自身を理解してもらえない」という思い込みで逃げていたのだ。

 思いついたことを自信ありげに披露し、否定されれば他人の所為にしていただけなのだ。

 自分が間違っていない。

 自分は優れている。

 そうずっと思い込んでいた方がまだマシだ。それですらまだ信念がある。

 だけど僕にはそんな信念は全く無い。

 すぐぶれる。

 言い訳をする。

 後からの事象に辻褄を合わせる。


 後から自分自身を納得させるために、言い訳をする。


 だから未だに時間を稼ごうとする。

 稼いで何かなるかもしれない――なんて考えではない。


 僕は時間稼ぎという、自分がやれることをやった。

 だから仕方ないよね?


 ――全ては後の『言い訳』の為だ。


 何一つ、本気で出来ていないのだ。

 僕は何だ?

 何をしているんだ?

 何のために?

 どうして?



 ――……嫌だ!


 嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だああああああああああああ!


 死ぬことではない。

 死ぬ方がマシだ。

 僕は何もしていない。

 何かできること。

 本気で出来ること。


 それを――一度でいいからやりたい!!


 強く思った。

 何も出来ない。

 時間稼ぎなんて中途半端なことではない。

 僕に何かできないのか?


 今まで言い訳ばっかりだった僕ではない。

 もっと本心から。

 自分にだけしか出来ないことを――



 ……その時、聞こえたんだ。

 確かに、聞こえたんだ。

 カズマさんのこの声が。



『僕達「正義の破壊者」は――平和を望んでいる組織だ!』



 平和。

 ……そうだ。そうだよ。

 僕はこれだけは間違っていなかったではないか。

 ずっと最初から――それこそ、根本から。


 僕は争いが苦手だったんだ。

 平和だけは好きだったんだ。


 ――だったら、これだけはやろう。

 平和を望んだ僕の、その時の誓いだけは。



 戦えないのであれば、彼らが作る平和の世界の手助けを全力でしよう。

 それこそ、この命を賭けて彼らを守ろう――



 これだけはやってやる!

 僕の――()()()()()()()()()!!

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