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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第一章
20/292

復讐 01

    ◆




 高校の敷地内で起きた、ジャスティス三機が破壊された出来事は、マスコミによって大きく報道され、破壊されるジャスティスの姿は他国にも衝撃を与えた。その影響で、ルード国に対し不満を抱えていた国で次々と暴動が起き始めた。一人の少年が、絶対無敵と言われたジャスティスをいとも簡単に破壊しているのを見て、自分たちにも出来ると勘違いして一斉蜂起したのであろう。

 だが、それらのどれもが、ジャスティスによって制圧されていた。しかも、容赦のない虐殺に近い形で。

 それにより、ジャスティスは圧倒的な性能であるということが大きくアピールできた。

 しかし、それらが報道されれば報道されるほど、ジャスティスよりも、ある一人の少年への恐怖が増大する。

 クロード・ディエル。

 瞬く間に全世界に彼の名が広まった。

 あるところでは魔王として。

 あるところでは英雄として。

 大半が前者であったが、しかしネットの世界では後者が多く、また国によっては彼を崇め讃える所もあった。



    ◆




「全く、ふざけた話です」


 クロードを支持する国々を潰してきた軍の最高司令官は、いつもの会議室の真ん中で忌々しげにそう呟く。

 あの出来事から、既に一週間が経過していた。

 アリエッタは様々な国で蜂起された暴動を沈めることに追われていた。加えてジャスティスを持ち出して一般人を盾に取りクロードに復讐を行うという失態を犯した軍の尻拭いも行わなくてはならなかったが、それは魔王の恐ろしさ、ということを盾にとって全て正当化、正義として報道させ、うやむやに処理させた。思惑通り、市民は軍部に反旗を翻したりはしなかったが、その代わりに、クロードに怯えることにより家にこもり、商売が成り立たなくなるという社会問題が、主にカーンで発生した。

 この問題が引き続きあるように、クロードの姿はあれから、誰にも目撃されていない。知り合いの家に匿われているのかと捜索を真っ先に開始したが、何処にも彼の姿はなかった。最有力候補であったミュート家は、あの出来事によって真っ先に除外された。

 マリー・ミュートが、クロードに撃たれた。

 大切な一人娘を撃った人物を匿う訳がない。

 それでも、その裏をついているのではないかと疑ったアリエッタは一応の調査を行うように指示をしたが、やはりクロードのいた痕跡は全くなかった。

 彼は何処に行ったのか。

 何処に潜んでいるのか。

 次は誰を――殺すのだろうか。

 市民の噂はやがてマスコミを通じて大きく広がり、今や首都カーンから離れた小さな村や町にも、その恐怖は伝染していった。

 そんな状況を打破しようと、アリエッタは全土に向けて放送をするために、アドアニアのルード軍基地にいた。

「お身体は大丈夫ですか?」


 ジェラス大佐が心配そうに訊ねる。アリエッタはつい先程、この国に戻って来たばかりであり、恐らく十分な休みは取っていないだろう。

 しかし、彼女はそのような様子を見せずに、平坦に答える。


「今はそんなことを言っている場合ではありません。魔王が姿を現わさない以上、私が本格的に魔王討伐に乗り出した、と伝えて人々の混乱を抑えなくてはいけません。私が討伐に乗り出したからと言って、永続的に安心はできないかもしれませんが、とりあえずは何とかなるでしょう。一時的な安寧は、約束できると思います」


 それは事実であろうと、ジェラス大佐は頷く。彼女の人気は凄まじく、魔女と罵られている反面、美貌と手腕でルード国民以外にも厚い信頼を得ているのだ。彼女が乗り出すと言えば、兵士の士気も上がるであろう。


「準備できました」


 機材の用意をしていた軍の放送スタッフの声。

 今の会議室には以前のようにジェラスとアリエッタの二人だけではなく、たくさんのスタッフが忙しそうに動いていた。殺伐としていた白の風景は、黒のケーブルなどで新たな色を追加させ、一種の記者会見場のようになっていた。実際に行うとしたらもっと広いであろうが、ここで行おうとしているのはテレビ会議の延長のようなもので、この部屋に記者やインタビュアーは入れない。そもそも、このルード軍基地自体に記者を入れる訳にはいかないので、軍には放送要員の兵がいるのである。ただ、外部から質問ができない訳ではなく、他の記者会見と同様に、あちら側にもモニターを通じて質問などができる。しかしそれは各キー局だけに限られるため、モニターは六つ。

 そのような理由でこの会議室には、前方に一つの長机、中盤に並べられた六つのモニター、後方にはカメラが一つ設置されている。

 因みに、その会見に出席する、つまり画面に映る人間は二人。一人は当然アリエッタであり、もう一人はジェラスだった。アドアニアの軍人の代表としてその場にいるのだが、彼より上の人間は数多くいる。つまりは、面倒事を押し付けられたのだ。


(そういうことをすると、あのお姫様に怒られるぞ……)


 事実、彼がこの会見に出席する旨をアリエッタに告げると、


「そうですか、では、他の方は仕事が忙しいのですね。それならば減らしてあげましょう」


 一つ頷いて何やら手帳に記していた。


(まあ、私も面識がなかったら、彼女と出席するなんて御免被りたかったけれど……)


「ジェラス大佐」

「は、はい!」


 考えていたことが口に出たかと思い、背筋をピンと伸ばす。


「大声を出して、いきなりどうしたのです?」

「い、いえ何でもありません……それより、何でしょうか?」

「もうすぐ始まる時間ですよ。座りましょう」


 彼女に促されて、ジェラスは着席する。六つのモニターはまだ黒いまま。だが、カメラを一台向けられているというだけでも、大分緊張するものだった。

 そのように変な汗を掻いているジェラスの横で、アリエッタは普段と変わらない様子で、


「では、各局に繋いでください」


 指示を受けた放送兵が丸印を作る。すると、一斉に黒い画面に人の姿が浮かび上がり始める。番組をそのまま映したもの、インタビュアーが一人で映っているもの、何故か判らないがアニメキャラが映されているものもある。


「皆さん、準備はいいですか?」


 アリエッタがそう呼び掛けると、一局以外は全て頷きを返す。


「では、ジェラス大佐、お願い致します」

「え? いいのですか? あの……」


 ジェラスは眉を潜めながらアニメ画面を指差す。


「いいのですか、あれ?」

「あれはいいのです。いつものことですから。どの国でもそうなのですよ。一局は。アニメキャラを見せることでリラックス効果があるとか何とか言っているのですが、流石にいやがらせでしかないですよね」

「はあ……」

「そう言う訳なので、あの局はあれでいいのです。音声もあの局だけは切ってありますよ。ではお願い致します」

「わ、分かりました」


 コホン、と一つ息を吐いて、ジェラスはカメラに向き合う。カメラマンが親指と人差し指を結ぶ。頷き、ジェラスは口を開く。

 「えー、ではただいまより、アリエッタ陸軍元帥による会見を始めさせていただきます。質問は後に時間を取りますので、そちらの方よろしくお願い致します。では、アリエッタ元帥、お願い致します」

「はい」


 返事をして、彼女はすっとマイクに口を近づける。


「アドアニアの皆さん。ルード軍、陸軍元帥のアリエッタです。現在、私はあなた達の国に来ております。その理由は……皆さんも十分にご存知だと思います」


 ちょっと間を置いて彼女はゆっくりと首を縦に振る。


「私はこの問題を非常に重く見ています。魔王の存在は、皆さんの心を非常に不安にさせています。だからこそ、私はここで宣言致します。ルード軍は、あなたたちの安全を守ります」


 淡々とした口調だが、その言葉には重みがあった。これを直接聞いて、口先だけだろうとはとてもじゃないが言えない。しかし、画面を通した者にはそうは聞こえないのかもしれない。

 そのことを想定していたらしく、彼女はこう続ける。


「ですが、この言葉だけで信用する人はいないでしょう。だから私は身をもって証明致します」


 立ち上がり、アリエッタは堂々とした面立ちで宣言する。


「明日、正午より式典を行います。これは元から行う予定ではあったのですが、この件によって中止する方向で動いていました。ですが私は敢えてこの状況を鑑みた上で、実行しようと思います。パレードのように大々的に街を歩いて、大丈夫だとアピール致しますから、ぜひ気軽に参加して下さい」


 この提案には、テレビの前の人々も驚きの様子を示す。

 その驚きに含まれているのは二種類ある。

 一つは、そんなことをやるのか、という驚き。パレードのように、とは言っていたが、結局はお祭り騒ぎをするということ。そんな場合ではないだろうという、表層だけを読み取った者の驚き。こちらは驚きの後に、すぐに呆れ顔になるから判り易かった。

 残るもう一つは、そんなことをして大丈夫なのか、という驚き。こちらは表層だけではなく、きちんと奥まで理解している者の反応。パレードのようなことをするということは、自分の居場所を堂々と明かすということ。ルード国陸軍元帥はいわば要人である。すなわち、遠くから狙撃されるなど、殺される可能性がかなり増すということである。そのようなリスクを背負うのか、という驚きを見せている者は次に不安そうな顔に変化していた。

 ジェラスの考え方は後者であり、そしてアリエッタは、影武者を立てるなどの安全策は取らず、生身で勝負するつもりだということにも気が付いていた。ここで逃げる態度を見せたら信用を失墜させてしまう。故に、彼女は身体を張らなくてはいけないのだ。最も、それを保護するために、周りの人間である自分達はもっと苦労することになるのは間違いないのだが。しかし、一般兵が周囲にいた所で、既に何の安全もアピールできない。

 となると、方法は一つ。


「そして、皆さんの安全を確保するため、この式典には、普段よりも警備は厳重にいたします。その象徴として――」


 アリエッタはその答えを口にする。


「このアドアニアにあるだけの『ジャスティス』を全て動員して、皆さんを守り――」



 ――ブツン。



 突然、目の前のモニターが全て黒くなった。

 停電か、と一瞬思考したが、電気が消えていないため、それは違うと断定する。ジェラスは目の前の放送兵に問い掛ける。


「機材トラブルですか?」

「い、いえ、見た所は断線などの異常は何もないはずなのですが……ちょ、ちょっと待って下さい」


 焦りながら、放送兵は機材を調べ続ける。

 と、次の瞬間だった。



『――ほとんどの人は始めまして、だな』


 その声と共に画面に映し出された映像は、先程とは違った。


 ニュースキャスターもいない。

 アナウンサーもいない。

 インタビュアーもいない。

 アニメキャラもいない。

 いたのは――



「クロード……ディエル……ッ」

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