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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第五章
186/292

飲会

 ※この物語はカクヨムでPV50000突破記念に息抜きで書いた「番外編」です。

 時系列は魔王誕生よりも少し前の時期です。

 一部キャラクターの印象が変わってしまうかもしれませんが、ご容赦ください。

 あくまで息抜きの番外編なので、正史と扱うかは皆さんのお心にお任せします。

    ◆



「飲み会を開かなくてはいけない……」


 とある一室。

 脂ぎった男性の悲痛な声に、部屋にある椅子に座っていた同年代くらいの老齢の男性は耳を疑いながら問いを返す。


「今、何と言いました、ブラッド元帥?」

「よせ。ここは基地内とはいえ、今、この部屋の中には俺達二人だけだ。階級とは関係なしに友人として接してくれ、ジェラス」

「……分かったよ、ブラッド」


 老齢の男性――ジェラスは、ふっ、と小さく笑いを零す。


「そのセリフは同期の男性に言われても少しも嬉しくないな。二人きりとか」

「俺だってそっちの趣味はないさ。……だが、こう愚痴を話せる仲の人間はめっきり少なくなってな」

「ああ、ほとんどが戦場で散ったか、田舎に引っ込んだかしたからな……」


 ジェラスは遠い目をする。

 軍人をやっていればいずれはこうなる。

 それをひしひしと感じていた。


「ブラッド。お前はまだ一線を引かないのか?」

「引かぬ。まだ俺は戦いたい」

「戦いたい、か。……その一心だけで出世したから凄いよな、お前」

「たまたま軍の方針と合っていただけだ。そういうお前だって指導者の道に進まなければ元帥は行けただろうに。


 なあ――『剣霊(けんれい)』」


 ブラッドが鼻で笑う。


「まるで幻惑のようにいつの間にか斬られている――過去に『剣豪』と並んで最強の二人と影で呼ばれていたお前がな」

「……それはお前が呼んでいただけだろう」

「ああ。でももう一人――キングスレイ総帥も呼んでいただろう」


 というか、とブラッドは続ける。


「その二人以外は既にこの世にいないからな」

「……昔の話だ。それこそ」


 大きく息を吐いて、ジェラスは自嘲気味に笑う。


「それに今も鍛えている総帥と違って、私の身体は既に年齢に負けているよ。あの頃の動きはもう無理だ」

「だろうな。だからお前は一線を引いて文官みたいな仕事をしているんだもんな」

「何を言っている? 後進の剣の育成は文官の仕事ではないぞ」

「はっはっは。そうだな。すまんすまん」


 ブラッドが快活に笑った後に前へ乗り出す。


「だが育成だけではなく、前線に立ちたいと思わないか? ジャスティスは老齢には関係ないぞ。どうだ? 俺と共に戦わないか?」

「せっかくのお誘いだが断らせてもらおう」

「……即断じゃないか」


 ブラッドは眉間に皺を寄せると、ジェラスが口元を緩める。


「最初からそのつもりはないよ。今の私は自分が強くなることよりも、後進が強くなることに喜びを見出しているんだ。そっちに集中したいのだよ」

「……相変わらずだな、お前は」

「別にブラッドを否定するわけではないよ。君の元に部下が付いてきているのがその証拠だ。ただの考え方の違いだよ」

「はあ……分かった。これ以上の説得は無駄だな」


 ブラッドは椅子に深く腰掛ける。


「ジャスティスに乗って前線に立たせるのは諦めた。だが――先の話に戻そう。そっちは相談に乗ってくれ」

「いや、その前段が無くても別に相談に乗るのは構わないが……まずは説明してくれ」

「うむ。説明しよう」


 ブラッドは一つ頷き、額に手を当てる。


「キングスレイ総帥に先程呼び出されてな……」


『元帥同士の交流が少ないし、仲が悪いように見える。よし、飲み会を設定しよう。ブラッド、幹事を頼む。参加者は私と元帥達と……あとはセイレンにも声を掛けておけ。あいつは来る来ないに関わらず声を掛けないと面倒くさいからな。あと他に誰を誘うかは任せる。ジャアハン国にはあるというが”ブレイコウ”という、上の者を恐れずどんどん文句も言っていい形式らしいのだが、それで行こう。よろしくな』


「――って言われてな……」

「……それはご愁傷様だな」


 頭を抱えているブラッドに、ジェラスは心の底から同情した。


「何故私なのだ……総帥の意図が分からぬ……」

「いや、よく考えてみろ。君の他の面子を」

「俺の他……」


 ヨモツ。

 アリエッタ。

 ついでにセイレン。


「……仲良く出来る訳ないじゃないか!」

「だよなあ……ヨモツがまともに見えるこのラインナップは凄まじいよな……」

「あいつ、総帥の前ではまともに振る舞っているが、やはり本性を見抜かれているんだな」

「ということだ。私が総帥の立場でも君に頼むだろう。……まあ事情は分かった」


 一つ手を打って、ジェラスは静かな声で訊ねる。


「で、ブラッド、君は私に何を言いたいんだ?」

「頼む! 飲み会について手伝ってくれ!」

「せっかくのお誘いだが断らせてもらおう」

「即断じゃないか! っていうか誘いじゃないぞ!」


 下げた頭をすぐに上げたブラッドは恨みがましい目でジェラスを見てきた。


「いや、だってその面子と飲み会なんて嫌だし」

「正論を吐かないでくれ! 俺だって嫌なんだよ!」

「それに何も助けることなんて出来ないと思うが……」

「一緒に参加してくれ! 頼む!」

「せっかくのお誘いだが断らせてもらおう」

「貴様それをテンプレにする気か!? っていうか頼むよ、この通りだ!」

「いや、頭を下げられても心は揺るが……はあ、分かったよ」


 ジェラスは溜め息を吐きながら了承する。


「幹事も手伝ってやろう」

「ありがとう! 恩に着る!」


 喜色満面のブラッド。その目の端に光るものがあったことには目を瞑り、ジェラスは立ち上がりながら言葉を紡ぐ。


「で、早速だがコンタクトを取ろうか。早い方がいいから時期は今週末にしよう。ちょうど元帥会議で集まるんだったよな? その日で私が店の予約を取ろう。君は参加者に連絡を取ってくれ。ちょうど二分割だな。とりあえず追加の参加者とかはそちらでお任せするな。店は人数どうとでもなる所を知っているから、今から予約してくる」


 早口で捲し立ててジェラスは扉に手を掛け「それじゃ」と片手を挙げて退室して行った。


「……仕事が早いな。さすがジェラスだな……」


 感心した様に頷きを繰り返すブラッド。

 しかし彼は数秒後、とあることに気が付いて首を捻った。



「……あれ? 結局何も精神的な負担は変わっていない気がするぞ……?」



 ――結局。

 準備段階での心労は変わらないことに彼が気が付くのは、更に数分の時を要した。


     ◆



「あ、そういえば」


 ブラッドを言葉で煙に巻いたジェラスは、唐突に閃いた。


「コンテニュー君を上の面々に顔を覚えさせるいいチャンスだな……よし、彼に声を掛けよう」



 ジェラスが目を掛けている一人――当時既に将官の地位まで辿り着いていた少年、コンテニューの顔を売るいいチャンスだということに気が付いたジェラスは、そのままの足で彼のいる部屋まで足を運んだ。

 ――が。


「……」


 そこにあったのは一通の手紙だった。



『ジェラス大佐。


 嫌な予感がしたので旅に出ます。心当たりがありそうなイベントが終わり次第探してください。すぐに戻ります。


 PS,未成年にお酒を飲ませようとしては駄目ですよ。ジャアハン国では犯罪です』




「……どこまで鋭い……というか先を読んでいるのだ、彼は?」



    ◆



 月日は流れ。

 ジェラスは店を予約し。

 ブラッドは胃を痛めながらもメンバーに連絡を取った。

 なんと全員とも了承の意を唱えたという。

 何かのっぴきならない事情で断ってくれればいいのに……と更にブラッドの胃を痛めつけたが、そんなことは誰も露知らず。


 そしていよいよ――当日を迎えた。


    ◆


「……はぁっ……はぁっ……はぁっ……」


 ジェラスは走っていた。

 飲み会当日、急遽処理をしなくてはいけない仕事が出来てしまい、一時間ほど開始予定時刻よりも遅くなってしまったのだ。キングスレイ総帥直々に「遅れても仕方ないから処理してくれ」と言われた内容だったので御咎めはないだろうが、しかしだからといって急がないで良い訳がない。

 何よりも――友人の様子が心配だった。

 なんだかんだ言ってジェラスはブラッドとは親友であり、彼が余計な心労を抱えることに対しても何とかしてあげたいと思っていた。

 その気持ちにより何とか予約していた店に辿り着いた彼は、大きく深呼吸をして息を整える。


「ブラッド……死んでなければいいが……」


 そんな物騒なセリフを口にして、店へと入っていく。

 少々広めの個室、かつVIP相手でも問題ない店を選んでいるので、良質な店員がすぐさま予約していた部屋へと案内してくれた。


「……ふぅ」


 ジェラスはもう一度息を整える。

 年齢が下の者もいるとはいえ、相手は全て上官。

 遅れてきたことの非礼を詫びる言葉を考えながらも、ブラッドをどのように助けるかまで思考した後、腹を括って扉を開く。


「失礼します。ジェラス、ただいま到着いたしました。遅れまして大変申し訳……」


 ジェラスの言葉は途中で途切れた。

 あまりにも目の前の光景が信じられなかったからだ。


 総帥キングスレイ。

 海軍元帥ブラッド。

 空軍元帥ヨモツ。

 陸軍元帥アリエッタ。

 科学局局長セイレン。


 そうそうたるメンバーがそこに存在していながらも――


「……まだ一時間しか経過していないのに……」



 彼らは全員、泥酔していた。



 軍の上層部が揃いに揃って酔いつぶれている。

 この光景は何があったのか。

 まずは各々の状況を認識することに努めよう。


 総帥キングスレイは、机に突っ伏して寝息を立てている。ジェラスより老齢故に仕方ない部分はあるだろう。

 ジェラスと同じ幹事としての役割を担っているブラッドは、ふんどし一丁でセイレンの話を聞いていた。いや、聞いているふりをしているのが正しいだろう。盛んに酒を自分で注いでは飲んでを繰り返している。ブラッドの場合は酒でも飲まないとやってられないという形で自分であおったのであろう。ある意味申し訳がない気持ちになってきた。

 一方、セイレンはいつものように白衣を着て流暢に何やら小難しいことを一方的に語っている。それだけだといつものセイレンのようにも思えるが、彼女もブラッドと同じペースで酒を飲んでは喋ってを繰り返しており、語尾も怪しくなっていることから確実に酔っていると言えるだろう。しかし彼女が酒を飲んでいる姿はある意味犯罪的でもあるが、そこに触れるのは止めておこう。

 残る二人――ヨモツとアリエッタの様子は更に混沌としていた。

 ヨモツは涙声で「もう勘弁してつかーさい……」と懇願していた。泣き上戸なのか、それとも相手の所為なのか。いずれにしろ普段の彼からは想像のつかない弱々しい様相であった。

 そしてその彼と相対しているアリエッタは、壮絶に愚痴を述べていた。彼女の白い肌は赤くなっていて、眼は完全に座っている。彼女については、ここまでお酒に飲まれるとは想像もつかなかった。何となくだがお酒に強いイメージがあったからだ。


 ――さて、そんな混沌としたこの場をどうしようか。

 ジェラスの胃が締め付けられた。

 このまま帰っても良かったのだが、しかし遅れてきたこと、そしてふんどし一枚の友人の姿に罪悪感を覚えたので、その選択肢は真っ先に捨てた。ジェラスがお人よしとも言われるが所以が、このようなところである。


(まずはふんどしを救ってとりあえず場を整頓しよう) 

 

 ジェラスはパンと一つ自分の頬を叩き、セイレンとふんどしの間に割り込む。


「ちょっと失礼……ブラッド、これは一体どういうことだ?」

「ああ……ジェラス……遅いぞ……」


 見るも無残に飛び出た腹を揺らしているブラッドは息も絶え絶えになっていた。


「まずはその恰好になっている理由を簡潔に述べよ」

「盛り上げに欠けたから」

「うん。大体分かった」


 きっと彼は幹事として使命を果たそうとしたのだが、予想外に――いや、予想通りに盛り上がりに欠けてしまい、それを打開する為に脱いだのだろう。脱ぐという行為に頼るのは最終手段だとジェラスは考えていたが、ブラッドは早々に使ってしまったようだ。

 だが、そのおかげなのか所為なのかは分からないが、現状は意味盛り上がっている。


「頑張った……お前は頑張ったよ……」

「そうか……俺は頑張ったか……」


 ふっ、と儚げに微笑むブラッド。


「ならば……ここで散ることを許してくれ……」

「いや、それは駄目だ。起きろ。服は着なくてもいいから」

「……zzz」

「寝るな。起きろ……もう無理か」


 見た感じでもう分かった。

 残念ながら彼は完全に意識が飛んでいた。

 床に四肢を投げ出して。

 ふんどし一丁で。


「あらぁん。ブラッドちゃんも駄目ねぇん。もぉん」

「……」


 その顔を、白衣でぺしぺし叩く少女――いや、年齢的には既に成年をとうに超えた女性。

 セイレンは妙に艶めかしい声を放つ。


「お酒飲み足りないわぁ。でもこれ以上飲むと脳細胞死んじゃうわぁ。これくらいの思考回路だったらジャスティスは支援ロボットとしてだけで戦闘用には転用しなかったかもねえ。思いつきってやっぱ駄目だわあ。誰でも使える便利ロボットのままで留めておく脳よねえ今の状態はあ……まあどうでもいいわねえ。――ということでおやすみなさい」


 と。

 至極勝手に意味深長な言葉をぺらぺらと放ち終わった後、彼女もブラッドと並ぶ形でゴロンと横になった。


「……何だったんだ、この人は……?」


 正直に思ったことを口にしてしまったが、その疑問は別に解決する必要はなく、むしろ彼女を起こしておいてもいいことはないのでそのまま放置をすることにした。


 さて。

 お次は銀髪の美女と泣き崩れている中年の元へと向かう。


「ちょっと失礼……ヨモツ、どうした? いつものお前らしくないぞ?」

「ジェラスさん……俺……自信が無くって……アリエッタに言われた通りの臆病で……やっぱりみんなにばれているのかなあ……?」

「……アリエッタ元帥。彼に何を言ったのですか?」

「ただ単に、人によって態度を変化させるのは止めた方がよいということを言っただけですよ」


 アリエッタは鋭くきつい印象を持たせる口調で答えてきた。


「キングスレイ総帥だけに媚を売って他の人を見下すような発言は控えるべきだ、と。先程はジェラス大佐に対しても敬語を使っていたでしょう? 何故それを他の人にも出来ないのです?」

「だって総帥とジェラスさんは昔にお世話になったし……年上だし……それ以外の人には舐められるわけにはいかない、とわざとやって……」

「だったら全員に敬語を使えばいいじゃないですか。私がみんなに舐められているように見えますか? どうですか?」

「うぅ……それはあんたの性格が……」

「……私の性格が! 何ですか!?」


 ダン、と乱暴にグラスを置くアリエッタ。

 ヒッ、とヨモツが身体を跳ね上げる。


「だってきつい性格で近寄りがたいっていう印象で舐められていないだけで、お前の口調は関係ないだろ……?」

「私のどこが! きついというのですか!?」

「ひいい! そこだよそこ! あっ、俺トイレ行ってくるわ……」

「そういうことを女性の前で言いますか!? そういう所がなっていないのですよ! ヨモツ元帥、あなた年は幾つですか!?」

「あーあー聞こえないうんこうんこー」


 ひどく下品な言葉を放ちながら、ヨモツは退室して行った。きっとこのまま戻ってこないだろう。


「全く……どうしてあの人は……」


 ぶつぶつと文句を口にしながら、アリエッタは一気に酒を煽る。ジェラスはアリエッタについては顔を知っている程度ではあったが、ヨモツとそりが合わないなとは思っていた。この飲み会でそれが顕著に表れたとはいえ、まさかあそこまでヨモツが圧倒されるとは予想外だった。というよりも、ヨモツのメンタルの弱さは剣を教えた時から変わっていないな――というように少しの懐かしみと出来の悪い弟子の様相に、ジェラスは苦笑をする。

 と、そんな彼に、残された彼女は言葉を掛けてくる。


「……ジェラス大佐。聞いてもいいですか?」

「何でしょう、アリエッタ元帥」


「私って……女としての魅力が無いのでしょうか……?」


「……は?」

「だって先程もヨモツ元帥に小学生のようなことを言われましたし、この元帥の地位に上がるために、汚いことは何でもやろう、何なら女の武器である身体も使ってやろう――って決意していたのですが結局の所一回も使わず、というか必要とする場面が来なかった……これは私の魅力が無いということでしょうかぁ……?」


 少し涙声で上目遣いになって問い掛けてくる彼女の様子に、ジェラスは思わず動揺してしまった。

 女性としての魅力。

 それは十二分にある。

 容姿端麗であり、机の上に載せている胸といい、机からはみ出ている綺麗な足といい、男心をくすぐる要素はたくさんある。


「やっぱりこの年までキスの一つも経験が無いことが魅力の無さに繋がるんですね? そうですね?」

「いや、そんなことは……」

「そんなこと? ……じゃあジェラス大佐は私に女としての魅力を感じているってことですかぁ?」


 少々甘ったるい口調とその内容に大いに困惑するジェラス。

 心の中の答えをそのままいうのであれば、イエス、だ。

 だがそう答えた場合、客観的な自分への評価はどうなる?

 そういうつもりはないとはいえ、酔っている美人の年下の上司を口説いていることになる。

 ――訳が判らないことになる。


 老兵は必死だった。

 目を瞑り、額に指を当てる。

 脂汗も滲み出てくる。

 老兵は考えていた。

 どうすればいいか。

 失敗は許されない。

 知られてはいけない。

 あいつ()にだけは。

 知られた時点でそれは失敗だ。

 失敗になる。

 だから考える。

 考える。

 考える。

 考える。

 考える。

 考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える。考える――



「――これしかない、か」



 老兵は考えに考えた末に決意した。

 


「アリエッタ元帥。貴方は――」


「……すー、すー……」


「……」


 決意を込めて答えを告げようとした老兵の目の前にて、銀髪の女性は可愛らしい寝息を立てて机に突っ伏していた。

 彼女も相当酔っていたのだろう。


「……まあ、いいか。良かった良かった……って良くないぞ、これ?」


 ジェラスは気が付く。

 結果としてこの飲み会の現状は、睡眠四人、プラス、逃亡一人、というカオスな状態は継続されてしまったのだ。

 それでも、入出当初よりはマシになっているというのが末恐ろしい。


「にしても……みんな短時間で酔いすぎ」


 始まって一時間足らずの出来事なのだ。

 その間、どれだけハイペースでアルコールを摂取していたのだろう。


「みんなお酒に弱いのかな? それとも――」


「――ストレスが溜まっていて飲まなくてはやっていられない――ということかな?」


「なっ!?」


 ジェラスは驚きの声を上げた。

 想像だにしていない方向からの、想像だにしていない人物からの声だったからだ。

 その人物は身体を起こして、何事もないかのように振る舞っていた。


「やあジェラス大佐。幹事ご苦労様」

「キングスレイ総帥……酔いつぶれていたはずでは……?」


 筋肉隆々の最高司令官は、何事も無い様に肩を竦める。


「なあに、私は寝たふりをしただけだよ。皆の本音を引き出すためには私の存在が邪魔ではないかと思うてな。うむ、なかなか普段は聞けない本音が聞けて大満足だ。目的達成だな」


 そう言うと、キングスレイは席を立つとジェラスの元までやってきて、


「さて、お開きとしようか。このメンバーで一時間も持ったのは奇跡だ。ブラッドに感謝せねばな――これで足りるかな?」


 十数枚の紙幣を手渡してきた。


「あ、いや何を飲み食いしたのかは分かりませんが、これは多すぎますよ。半分以下でも大丈夫かと」

「よい、よい。私がブラッドに依頼したのだ。残った分は君とブラッドで分けてくれ。美味しいものでも食べなさい」

「はあ……ありがとうございます」

「ではお先に失礼する。良い宴であったよ」


 はっはっは、と笑い声を上げながら、キングスレイ総統は澱みなく店を出て行った。

 残されたジェラスは一瞬呆けたが、


「……とりあえず、何だこれ、この飲み会……ああ神様、もしいたのならば今回の飲みに関してのみんなの記憶を無くしてあげてほしいなあ……」

 

 と、最後の最後まで混沌とした状況に、祈りに近い感情をジェラスは口にしたのだった。



    ◆




 後日。

 店で睡眠を取っていた数人は、ジェラスがきちんと家まで送り届けた。

 これだけでも幹事としてきちんと役目を果たした、と彼は安堵の深い溜め息を付きながらも、心の奥底ではキングスレイにこう進言しようと誓っていた。


 ――もうこのメンバー内での飲み会は絶対に開かない方がいい、と。



 番外編 飲会  完

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