過去 01
◆
カチリ。
カチリ。
そんな音がライトウの頭の中に響く。
それは時計の針の進む音にも。
パズルのピースが当て嵌まる音にも。
無機質な何かが前に進む足音にも聞こえた。
何があるのか。
分からない。
だが、真っ直ぐと目的の場所――記憶に進んでいる感触はあった。
カチリ。
カチリ。
迷わないのは何故だろう。
まるで何かに導かれているかのようだ。
そんな未だに響く音と共に、目の前が徐々に開けてきた。
靄が掛かっていた記憶の映像が鮮明になっていく。
今まで全く思い出せなかったのに唐突に分かるようになったのは何故だろうか――なんて疑問は頭から外れ、ライトウはまるで夢見るが如く脳内に記憶を引き出していく。
浮かび上がってくるのは――明るい景色。
綺麗な青空。
暖かい太陽。
匂いさえ想起させる、穏やかな緑の光景。
その自然の真ん中にある大きめの家。
正確には施設だが、彼にとっては間違いなく家であった。
よく知っている。
よく覚えている。
懐かしい。
ふと横目に視線が移動する。
すると、窓に反射して映っている自分の姿が見えた。
短い手足に幼い容姿。
確実に今よりかなり前の時の回想だ。
しかしこれだけでは分からない。正直、自分の姿なんて見た所で分かりはしない。
ただ、腰に刀をぶら下げていないことから、目的の記憶である可能性は非常に高いのは分かる。
更にじっくりと観察してみたかったが、視線が思うように動かない。
(仕方ないか。これは俺の記憶なんだから)
自分視点でしかないのも当然と言えば当然だ。
と。
「――ライトウさん」
舌足らずな横からの声に視線が移動する。
(……ああ、そうか)
そこで彼はようやく理解する。
視線の先にいた人物。
その人物のライトウへの呼称。
そしてその背中にいる人物。
状況を把握するには十分だった。
目の前にいたのは――幼いコズエを背負った、カズマだった。
彼がライトウに「さん」づけで呼んでいる時期と、コズエがまだ歩行すら出来ていない時期。
それらは限られている。
(これは――俺が五、六歳くらいの時の記憶か)