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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第五章
169/292

修練

    ◆



 所変わって、再び『正義の破壊者』の幹部が身を寄せている、アドアニア国とはさほど離れていない国にある、とある一軒家。

 そのクロードが眠る病室から、壁を挟んだ一室。

 そこで刀を抱えながら、じっと目を瞑って微動だにしない人物が一人。

 ライトウだった。

 彼は寝ている訳ではない。

 未だ怪我は治っていないので静養するように言われていたが、しかし、だからといって何もしていないわけではなかった。

 彼は思考していた。

 今まで行っていなかった『自分の思考に対して』の修練をしていた。

 拙くても、荒くてもいい。

 彼は新しいことに取り組もうとしていた。

 そして現在、彼は振り返っていた。


 ――弱い。

 ――自分は弱い。

 ――何て弱いんだ。


 アドアニアでの戦いで、そして先の会話でもライトウは自覚させられた。

 その弱さは肉体的な弱さではない。

 精神的な弱さだ。


 自分は圧倒的に弱い。

 この中でも、誰よりも弱い。


 カズマよりも。

 ミューズよりも。

 コズエよりも。

 そして――アレインよりも。


 守ろうと思った人々。

 自分が守らなくてはいけないと思っていた人々。


 それらの人物の中で、誰よりも覚悟が足りていなかった。

 最年長なのに誰よりも考えが足りなかった。

 なまじ肉体的な力を持っていたが故に、力でゴリ押し出来ていたことがいけなかった。

 刀剣を操るとして型はある。

 だが、いつしか人間離れした自分の脚力、そして斬れ味の鋭い刀のおかげであり、所為で、力任せに斬り捨てるスタイルになってしまっていた。

 対ジャスティスならばそれでいいだろう。

 だが、先の対人では全く使えなかった。

 剣豪 キングスレイとの戦いでは。


「……違う」


 思考を間違えた。

 対人だから駄目なのではない。

 キングスレイは目の前で見せた。

 ライトウの刀があれば、遠隔でもビルを斬ることが出来ると。

 つまりはジャスティス用の戦い方、と言っている時点で既に言い訳なのだ。

 単純に弱い。

 力が足りない。


「……これも違う」


 力はある。

 あるのだが、引き出せていない。

 これが真実だ。

 キングスレイは剣豪とも呼ばれた強豪だ。

 でも客観的に見ろ。

 相手は老齢だ。、

 筋力は確実にこちらが上だ。

 経験?

 それだけで絶対的な差が出来ているはずがない。

 だから敵わないわけがない。


「……」


 ライトウは目を開き、抱えている自分の刀をじっと見る。

 ふと思い出したのだ。

 キングスレイは問うてきた。

『刀の名は何だ?』と。

 奇しくも相手はヒントを与えてくれていたのだ。

 刀の名前など付けていようが付けていまいが、正直どうでもいいのだ。

 要は精神論なのだ。

 それ程までに刀のことを考えているのか? という。

 そして刀を信用しているのか、ということを。

 アドアニアでは、信用している! となどと吼えたが、実際は犬が威嚇するように吠えただけだった。

 キングスレイが正しかったのだ。

 表面上の信用など、ただの薄っぺらいものだ。

 しかし怪我を省みずに「信用している!」と叫んだ。

 そこには表面上だけではない、意志を感じたのだろう。

 だからキングスレイは引いたのだ。

 今の状態のライトウでは話にならない。

 だが、今後のライトウは――刀を信用するという真の意味に気が付き始めている彼であれば、再戦することも厭わない、と。


「……ならばやることは一つだ」


 再び目を閉じ、ライトウは思考する。

 もはや自分が他人を守れるとは思えない。

 守れるほど強くない。

 守られるほど、周囲は弱くない。

 つまりは信用していなかったのは、刀だけではなかったのだ。

 他の仲間。

 彼らの力を信じていなかったのだ。

 クロードは圧倒的な力故に無条件に信じていた。怪我を負って意識不明の今でもそれは揺るがない。

 しかし――むしろ揺るいでいない方がおかしいのだ。

 クロードだって圧倒的な力を持って落ち着いて先を見据えている様に見えても、このような状態になる。

 要するにライトウは、表面上の武力面で守るか否かを判断しており、その判断から未だに抜け出せずにいるのだ。

 それを自覚した所で直すことは出来ない。

 だが、信用することは出来る。

 他の人に回すための思考を、自分に回すことが出来る。

 いや、元々そこまで廻していなかったのだ。

 結局は、ただの自分のプライドだったということだ。


「……駄目だ。色々とごちゃごちゃしてきた」


 大きく息を吐き、思考をいったん中断する。

 段々と支離滅裂となってきて、また整理する。

 それを繰り返ししていく。

 身体を動かしていないのに汗がにじみ出てくる。

 身体が疲労感を覚えてきている。

 正直投げ出したい気分でいっぱいだ。

 それでも、少しずつだが、まとまってきている。

 亀のように遅いが、それでも着実に進んでいる。

 幸い、考える時間はたくさんある。


「もう一度、だ」


 ライトウは修練する。

 戦う。

 新しき力。

 頭を使え。

 自分を使え。

 最大限に。

 引き出さなくては経験には勝てない。


「……本当にそれだけか?」


 経験。

 それだけが足りないのか?

 自分が全力を出す為には何がある?

 目的?

 それもある。

 だが、そもそも。

 そもそも、だ。

 

 自分は何故――刀を握ったのだ?


 キングスレイに勝つ為?

 アレイン達を守る為?


「――違う」


 そんな直近に剣を握ったわけではない。

 ずっと前から――子供の時から刀を握ってきた。

 この刀を。


「……そういえば」


 ふと気が付く。

 自分が手に持っている――今、確かに握りしめている、この刀。

 キングスレイも褒めていたから、恐らくは名刀ではあるのだろう。

 だがそんな希少であるモノを――



「この刀……()()()()()()()()()()()……?」



 どこで入手したのか?


 何故、今まで一度も疑問に思わなかったのだろう。それ自体も非常に不思議だ。

 この刀はライトウの記憶にある中では学校に入る前から所持していた。そんな時期から所持していたということは自ら購入したのではなく、誰かから貰ったに違いない。

 親?

 ――違う。

 孤児院経営している中でそんなモノに支出する余裕はなかったはずだ。それにいくらせがまれても息子に刀を与えるなんて行為をする親がいるものか?

 しかし、記憶の中でも確実にライトウは幼い頃から刀を所持していたことは間違いない。

 肌身離さず。

 寝る時も学校の時も一緒で――


「……いや、ちょっと待て。()()()()()()()()()?」


 今更ながら気が付く。

 法整備が整っている現代。

 当然、刀の所持は違法である。


 なのに――当たり前のように持っていた。

 誰にも注意されることなく。


「そういえば……俺が刀を持っていることを伝えた人にしか、刀について触れてはこなかったな……」


 アレインにカズマ、ミューズにコズエ。

 そして――弟のブライ。

 見えているのは彼らだけだった。

 彼らにしか話していない。


「この刀……やっぱり普通じゃない……?」


 他人の意識から外れる作用。

 刀なのか。

 それとも鞘なのか。


「……分からない……」


 思えば思うほど、謎が深まる。

 この刀はいつ手に入れたのだろう?

 何故手に入れられたのだろう?

 どうやって手に入れたのだろう?

 そして――何故、自分は刀を手にしたいと思ったのだろう?


 疑問が一気に押し寄せてくる。

 今まで当たり前すぎて考えもしなかった出来事が――



 ……ザザッ……



 ――俺の夢は()()だ。()()()()()()みたいになりたいんだ。

 ――だから()が欲しい。。()でも()()ことが出来る()が欲しいんだ。

 ――その為に努力する。だから俺は()()()()()()()も欲しい。



「っ!? 何だこれは……っ!?」


 ライトウは頭を押さえる。

 唐突に脳裏をよぎった映像。

 確実に幼い頃、自分が言った言葉だろう。

 だが、もやが掛かったように重要な所が抜けている。


「……おかしい……っ」


 よく考えずにも分かる。

 刀を手に入れたなんて、幼い頃であっても衝撃的な出来事だろう。

 そんな重要なことを覚えていないはずがない。

 しかも、記憶を探ったら微かだが蘇ってくるということは、確実にあったということだ。


 それを――()()()()()()()()()()()


「ここに……ここに何かがあるはずだ……っ!」


 ライトウはそう確信し、記憶を探る。

 今まで思い出そうともしなかった記憶を引き出そうと、ライトウは目を閉じ、意識をそれのみに集中させた。


 深く。

 深く。

 潜って行く。



 自らの――記憶の海へと。

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