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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第五章
161/292

開発 03

    ◆回想



 数か月前。

 とある閉鎖された広い一室。

 無機質さが異様に不安を掻きたてる空間。

 そこに多くの男女が集められていた。

 老若男女。

 年齢層、性別、共通点はどこにもない。

 しかしそこにいる者達には、ただ一つだけ共通点があった。


 囚人服。

 彼らは犯罪者だった。


 罪の大小問わずに服役していた人間達。暴れられないように手錠は嵌められており、周囲には刑務官も大勢待機していた。

 そんな彼らは唐突に刑務所から出され、この場所に集められていた。

 理由も何も知らされていないので困惑するのは当然だ。

 そして困惑する要素がもう一つ。


 それは中央に鎮座しているナニカの存在だ。


 ビニールシートに包まれた、十数メートルほどの大きなナニカの存在。

 何かの装置だろうか?

 それとも誰かいる?

 まさか処刑道具?

 ――さまざまな憶測の声が飛び交っている中、


『はいはーい。よーく集まってくれたわねー』


 ひどくのんびりと間延びした声が響き、しん、とざわめきの声が静まる。

 囚人達は周囲を見回す。

 しかし、誰の姿も現れない。

 代わりに声が続く。


『あたしはセイレン・ウィズ。科学局局長よー。犯罪者のみなさーん』


 ざわり、と再びざわめきだす。

 セイレンの名はルード国内で知らない人はいない。

 ジャスティスを開発した人物。

 故にルード国に最も貢献している人物であり――最も間接的に人を殺している人物でもある。

 ある意味、自分達よりも罪を犯している人物。

 その人物を名乗る邪気を含まない声が続いて響く。


『みんなどうしてここにいるのかなー、って顔をしているわねー。あ、あたしゃカメラでこの部屋監視しているからプリティーな姿は見せられないわよー』


 いやん、とふざけるセイレンだが、部屋の中の人々は反応に困って誰も一言も発すことが出来なかった。


『……つまらないわねー。じゃあさっさと本題に入るわねー。――オープン』


 パチン、という指を鳴らす音がしたかと思うと、中央に鎮座していた何者かのヴェールが剥がれる。


 そこにあったのは――ジャスティス。

 緑色のジャスティス。

 しかも二機、存在していた。


 ほとんどの者は映像でしか見たことのないジャスティスの、その自分との記憶の違和に戸惑いを覚えていた。

 ジャスティスは夜を静穏で駆け抜ける漆黒のボディ。

 その認識であった。

 緑色など今まで映像でも見たことが無い。


『はいはーい。ということで何をやるかはもう分かったわよねー?』


 そうでーす、と自問自答し、セイレンは言い放った。


『これから新しいこのジャスティスのパイロットについて選別しまーす。もっとざっくりいうと、この中で適性ある人を探しまーす』


 パイロットの選別。

 そう聞いた囚人達の頭の中には、はてなマークが浮かび上がっていた。


 ――パイロットを選ぶというが、どうやって行うのか?

 ――ここで体力測定でもするのだろうか?

 ――いやいやそもそもジャスティスって噂だと誰でも乗れるらしいと聞いていたから選別の必要はないのでは?


 様々な疑問が駆け巡る中で、セイレンは言葉にしていない囚人達が考えていた疑問に答える言葉を放つ。


『これは見て判る通りに極秘で進めていた新型のジャスティスなのねー。で、このジャスティスはちょーっと特殊で、誰でも乗れる訳じゃないのー。で、誰が乗れるかなんて分からないから、とりあえず犯罪者で試してみよう、ってことで――適性って言うのは単純にコクピットに乗って操縦桿を握ってこのジャスティスを動かせる――そんなところまでいけるのかってねー。いけたら適正ありってことなんだよー』


 ね、簡単でしょ? ――とセイレンは軽い声で言い放つ。


『んで、()()()()()()()()()()()()()()()()()よー』


 ね、簡単でしょ? ――とセイレンは軽い声で言い放つ。


「………………え?」


 数秒の後、絶句する人々。

 あまりにも同じ調子で言われたものだから理解するのにも少しだけ時間が掛かったようだ。

 この言葉で完全に皆の思考は停止した。


『先着二名だよー。パイロットとして罪も帳消しだよー。早い者勝ちだよー。バーゲンバーゲン……って違うかー。んじゃー、よーいスタートー』


 しん、と。

 周囲の人々は微動だにせず。

 ただただ、呆然としているだけであった。


『ありゃー? みんな動かないねー。予想外だわー』


 セイレンが心底不思議そうにそう言うが、それもそのはず、この場にいる者のほとんどは、犯罪者ではあるが死刑囚ではなかった。つまり真面目に刑期を過ごせば外の空気を吸うことが出来るのだ。


『うーん……こりゃテコ入れしなきゃねー。――ということで、じゃ、連れてきてー』


 パチン、と指が鳴る音。

 合わせて、部屋の入り口が開いた。


「嫌ぁ! 離してぇっ!」


 一人の少女の悲鳴が響いた。

 綺麗な紅髪。

 それとは対照的な入院服のような質素な水色の衣を羽織った、年端もいっていない少女。


 マリー・ミュートだった。

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