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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
第四章
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乱戦 10

    ◆クロード





「あ、ちょっと待ってください」


 クロードと相対しているコンテニューは、片手を挙げてそう口にしてきた。

 先程、少し芝居がかった様子を見せていたクロードは思わず気を抜いてしまった。

 が、すぐに眉間に皺を寄せながら問う。


「今更命乞いか? それを許すと思うのか?」

「いやいや。真剣に貴方と戦うのに僕も準備が必要なのですよ。生身で戦えるように見えますか?」


 手を広げる金髪碧眼の青年。

 どう見ても見てくれは鍛えていなさそうだ。


「と、言うことで」


 そう言う青年の手には、いつの間にやらとんでもないものが握られていた。

 クロードも実物は初めて見たが、しかし間違いない。

 彼の手にあるもの。


 それは――ガスマスクだった。


「では!」


 そして彼はそのガスマスクを装着すると、素早く足元に何かを投げつけた。

 直後、辺り一面が紫色に包まれる。


「――毒ガスか」


 至ってクロードは冷静だった。

 ガスマスクを被っていた彼が投げつけたのは間違いなくそうだろう。

 銃弾も剣戟も効かないクロードに対し、毒が聞くと思ったのだろう。


(だが無駄だ)


 クロードが素早く周囲五メートルの空気を変化させ、無毒化させる。

 しかし色はそのままにしておく。

 クロードが毒で倒れるものだと勘違いさせておく為にだ。


(これで相手の出方を見るとするか……いや、待て)


 すぐさまクロードは首を横に振る。

 思い出す。

 先程、コンテニューは何をしていた?

 ガスマスクを取り出した。

 見るからにそうと分かるモノを。

 それは何故――クロードに見せた?

 付けてから撒かないと、自分に毒が廻る可能性があるから?

 それもあるだろう。

 だが、何故煙は紫なのだ?

 いかにも毒です、とアピールしてきている。

 ならばもうこう結論付けるしかないだろう。


「罠、か」


 罠。

 クロードに周囲の煙が毒だと思わせる罠。

 しかし、その罠によって何が生じるのか?

 真っ先に思いついたのは一つ。


 単純な目くらまし。


 毒の煙を放ったことで、クロードは最初、毒を食らった振りをしてその煙を晴らさなかった。

 そこまで読んでいたとしたら?

 煙幕で視界を奪い、その間に距離を取る。

 そのまま逃げる手段にも使えるが、先の彼はクロードと戦うと言った。

 ならば、ここから攻撃をする手段を取ってくるだろう。

 ――遠距離から。


 そう悟ったのとほぼ同時に――


 パン、という乾いた音。

 ドン、という低い音。


 二つの音が聞こえて来た。

 そのどちらも――銃声。

 前者は通常の銃。

 後者は大型の、恐らくはジャスティスに備え付いている銃だろう。

 それが四方八方から襲いかかってきた。


「無駄だ」


 しかしその銃弾は全て、まるで透明な盾がある様にクロードの目の前で弾かれる。

 消滅ではない。

 学校やパレードなどで消滅させた時は、鉛玉だということが理解出来ていたから、ただその場で蒸発させていたのだ。当然、その際に少し熱波が来ていたことは、ずっと隠してはいたが。

 クロードは、相手はその点を読んでいるだろうと察し、相手が鉛以外の――例えば融点が非常に高い物質の弾丸を放ってくる可能性もあると推定し、熱ではなくで防御壁へと変化させたのだった。

 イメージは防弾ガラスだ。

 クロードの中での防弾ガラスは破られない、という認識であるため、この防弾ガラスも決して何物にも破られることは無い。

 これがクロードの主観故の特殊能力である。

 一方、先の熱の件は、どこまで温度が上がれば蒸発するかという知識が無くて不明だ、と思っているがために際限なく熱を上げることが出来ていないのだ。

 逆に言えば、クロードが常識を外れれば外れる程、無限大に能力が広がる可能性がある、ということでもある。

 そのことについて、クロードは当然気が付いていたが、考えないようにしていた。

 理由は一つ。

 考えてしまえば有り得ないと結論付けてしまうことが多いからだ。

 そうなれば制約もかなり出来てしまう。

 だからこそ、クロードは能力発動時には思考を最小限に抑えることを心掛けているのだった。


 そんな彼の内情はさておき。

 未だに銃弾は四方八方から飛んでくる。

 ――四方八方。

 もしコンテニュー一人であったら、そのような攻撃は出来ないはずだ。何故ならば、森の中で跳弾をさせられるような物質はないからだ。

 ならば答えは一つ。

 コンテニューはこの森に味方を潜ませていたのだ。

 最初から一対一の勝負ではなかった。

 それはどうでもいい。

 厄介なのは、周囲に人間がいることで、コンテニューを探ることが難しいということだ。

 どこから撃ってきているのか。

 ただ、一つだけヒントがある。


「あいつは……随一のジャスティス使い、って話だったよな」


 ミューズからそう聞いていた。

 見た目にそぐわないほど戦場で功績を上げているジャスティス使いである、と。

 だったらこの戦場でも乗っているのは間違いないだろう。


「ジャスティスと他で銃弾の大きさが違うはずだ。ならば――大型の弾丸がある方にいけばいいんだな」


 敢えて口に出す。

 口に出して相手の様子を伺う。


「……って、分からないか」


 煙幕が張られている中、周囲はまだ紫色に包まれている。

 声が届く範囲にいるのかも分からない。

 それでも。

 クロードは堂々たる様でこう告げる。



「これから――ジャスティスを破壊する」



 ジャスティスを破壊する。


 いつもの宣言を告げた直後、彼は一歩踏み出した。

 ゆっくりと。

 ゆっくりと。

 前へと進む。

 遅々としているのは、余裕を見せているパフォーマンスの為だけではない。


 クロードは前へ進む度に次のように能力を使用している。


 半径五メートル程度の空気を一回り大きな球形の盾に変化させる。

 約二メートル進む。

 先より小さい半径二メートル前後の球形の盾を生成する。

 先に作っていた半径五メートル程度の盾を空気に戻す。

 再び現在の位置から半径五メートル程度の空気を球形の盾に変化させる。


 ――その繰り返しだ。

 その際に周囲の紫色の空気を解毒化することも忘れずに行う。


 一歩。

 また一歩と。

 彼は進んでいく。

 その間にも銃撃は降り注ぐ。

 紫色に包まれているはずなのに、狙った様に盾に当たって行く。

 気のせいか後方に銃弾が集中しているようにも思える。


(もしかすると、球状になっている中に煙幕が溜まっている状態で進んでいるから、気流の流れが変化して俺の動きが見えているのかもしれないな――)


 そう考えた――その時。


 パチュン、と。

 少し擦れた音と共に、クロードの足元に銃弾が埋まった。


「盾を……貫通した?」


 思わず足を止め、足元を見る。

 確かに、銃弾がそこにはあった。

 クロードの周囲は透明な盾で覆われている。

 生成方法も先に述べた通りで、クロードの足元まで辿り着く要素がない。

 攻撃が入る余地はない。


「まさか……?」


 クロードは振り向く。

 そして気が付く。


 自分でも知らなかった――()()()()()()()()()()に。


 本当に小さい直径五センチメートル程の穴が、二つ開いていた。

 加えてその場所のみが明らかに空気の流れが違ったことに。


 物理の盾。

 もしそれが全方位を覆っていたならば、完全なる密閉空間になってしまう。

 故に自分でも無意識に作っていたのだ。


 ()()()()()()を。


「ッ!」


 クロードは慌てて右手を振る。

 すると強烈な風が起こり、一気に煙幕が晴れていった。

 ――空気を突風に変化させたのだ。


 だが視界が晴れた瞬間。


『――狙い通りです』


 その声は先程まで相対していた者――コンテニューのモノだった。


 声の主を認識すると同時に視認する。


 四メートルほど先。

 そこにあった。


 ――剣の切っ先をこちらに向け、突撃してくるジャスティスの姿が。


「くっ!」


 咄嗟に、クロードは思わず足を止めたまま目の前のジャスティスへの意識を集中させた。

 五メートル以内。

 ならば能力が使える。


 そう思ったのと同時に、ボシュッ、という音が聞こえた。


 それが何かを理解する間もなく、彼は目の前のジャスティスのボディをクッキーに変化させた。


 あの時。

 この場所で。

 初めて魔王としての能力をした時と同様に。


 咄嗟ゆえに、同じ行動をしてしまった。


(――何で咄嗟に出てくるのがクッキーへの変化なのだろうな?)


 そう心の中で疑問を持ったのと同時。

 ドガシャアアアアン、と目の前のジャスティスは自重に耐えられず倒壊した。


 破片はクロードが元々張っていた盾に弾かれ、その場で弾け飛ぶか、後方に流れていく。


(わざわざ攻撃せずとも、ただそのまま迎撃すればよかっ――)


 ――クロードの脳裏に違和が生じる。


 違和。

 それはコンテニューの『狙い通り』という言葉。

 その割には呆気なさすぎる上に、大した対応もしていない。


 何も相手の狙い通りになっていない。


 絶対に何かがあるはずだ。

 相手が狙っていた何かが。

 この場所で攻撃を仕掛けたのも――


(――場所?)


 ふと視線を下げた。


 故に気が付けた。

 自分の足元の違和に。


 周囲と土の色が違う。

 更には綺麗にならされていた。

 つまりそれは――土が掘り返されていた証。

 何のために掘り返したか?


 その理由を、彼はすぐに理解した。

 理解させられた。



 ――次の瞬間。

 彼の足元が爆発した。

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