乱戦 09
◆ミューズ
「これはまずいっすね……」
ミューズは段々と冷や汗が止まらなくなってきていた。
一五分のタイムリミットが定められてから、一〇分以上経過している。
ここまで来ればある程度、察しが付いてくる。
「これ、マジに洒落にならないっすよ……」
一分どころか一秒たりとも手を休めることが出来ない。
ずっとキーボードを叩いている。
それでも間に合いそうもない。
(これだけ効率的にやっているのにマジで一秒単位でギリギリとか……完全に無理難題言われているとしか思えないっす……)
ギリリ、と憎しみを込めて一瞬、ちらと一面のモニターのウサギを睨み付ける。
先程から煎餅のバリバリとした音を鳴らして集中力を削いでくるが、それ以外の映像は変化していない。
変わらないことに少しイラつきを感じる。
文字通り、高みの見物をされていることに。
だが、イラついている場合ではない。
『ほらほらー。残り二分だよー』
「……」
イラついている場合ではないと思ったばっかりなのに、イラつかせるような言動をされて額がピクリと動いてしまった。
しかし、相手が言うようにあと二分しかない。
この段階で明確になったことがある。
(これは本当にギリギリっす……)
このまま並行で進めれば、どちらとも一秒単位でギリギリに解除できる。
だが、一つでもミスったら終わりだ。
どちらかに集中すればリカバリも可能だ。
リスクを計算したらやるべきことは決まっている。
どうする。
どうする。
どうする――
「……」
残り一分の段階で、ミューズは決断した。
そして一分後。
『はい。時間だよー』
スピーカーから聞こえるセイレンは、あっけらかんとした声で告げる。
『ということで爆弾は見事解除おめでとー。
だけど――映像音声は駄目だったのねー』
ミューズが選択したのは、残り一分を爆弾解除に全力で注ぎ込む方だった。
その決断をした為、並行で進めていた方を諦めた。
諦めざるを得なかった。
ミューズはギリリ、と歯を食いしばって怒声を放つ。
「ふざけるなっす! 元から無理な難題を押し付けてあたしに敗北感を与えるとかマジで最悪っす!」
『んー、やっぱりそうだったのねー』
あっさりと。
セイレンは認めた。
無理難題を押し付けたことを。
『これくらいならいけるかなー、と思ったけど無理難題だったかー。そうかそうかー』
「……何が言いたいっすか? 自分だったら出来たとか言うんすか?」
『んー、そんなもんかなー』
鼻で笑う声が聞こえた。
『これ、あたしが一五歳の時にやったのと全く同じだからねー。あの時は一分前に全部解除したけどねー』
「はあ……?」
声色からは真実か分からない。
だが、今の自分の年齢と同じ時にやったのを出した、と相手は言った。
それが意図しているのであれば、相手は自分の年齢を知っているということだ。
名前も姿も割れていないのに何故分かったのか?
その答えを――意外な形でミューズは知ることとなった。
『んー、やっぱり――半分別の血が入っちゃ駄目なのかねー』
「……え?」
そして。
絶句するミューズに対して、ルード国科学局局長のセイレンはこう言い放った。
『その程度しか成長していないのね。――我が娘よ』