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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
Justice Breaker 外伝 「"Continue" Story」
116/292

訓練 03

    ◆



 ――月日は流れ、一年後。


 コンテニューは剣術の指導をジェラスに受け、空いている時間には本を読んで勉学に入った。

 時折、ジャスティスに乗って操縦桿を握ったが、それでも実戦レベルは行っておらず、動作確認という表現が正しいことを行っていた。ただそれは汎用のジャスティスの動作確認ではなく、水の中での動作だったり、背中に何かを付けたときの動きだったり、その先を見据えた機体に対してのモノであるとコンテニューは感じていた。そしてその全てでコンテニューは極めて精度の高い動きを行うことが出来ていた。今後、何か新機能が実装された場合でも難なく対応できるだろう。


「大分強くなったね、コンテニュー君」

「ジェラス中佐のおかげです。ありがとうございます」

「あはは。相変わらず謙虚だね」


 室内運動場で、いつもの二人。

 汗を存分に掻いた様子だが、コンテニューはその足でしっかりと立っていた。


「うん。私が教えられることもうほとんどないかな。一年でここまで来るとは思っていなかったよ」

「正直、かなりきつい一年でしたよ」

「あはは。まあそうだよね。うん」


 ジェラスはこの一年、剣術の髄を文字通り叩き込んだ。

 時には厳しい言葉を吐き、相手の心から折るような指導もした。

 しかしコンテニューは一度も弱音を吐くことは無く、むしろ食らいついてきた。

 ジェラスの方が心折れる程、凄まじく鬼気迫る勢いで。


「……でね。君に聞きたいことがあるんだ」

「何でしょう?」

「剣をこの一年、交えて分かったことがあるんだ」


 ジェラスは少年に問う。


「君は何に復讐したいんだい?」

「何を言っているんですか?」


 コンテニューは笑顔で答える。


「勿論、ルード国の敵にですよ。僕はルードの軍人です。その為に強くならなくていけないのですから」

「私に取り繕わなくていい。分かるんだよ。君がルード国の為に戦っているのではないことをね」


 むしろ、とジェラスは少年の碧眼を真っ直ぐに見て告げる。


「ルード国に対して戦っているように見えるんだ」

「……剣を交えるだけでそんなことも分かるのですね」


 驚いたという様子で目を見開くコンテニュー。

 それ自体が答えになっていた。


「……あ、しまった」

「言ってはいけないことだったのか?」

「いいえ、そういうことではないのですが……つい、疲れで思考する前に発言してしまいました」

「疲れか! はっはっは!」


 ジェラスは大笑いをする。

 コンテニューはその様子に笑みを少し薄くする。


「全く、何がおかしいのですか?」

「なあに、嬉しくなってな。君の本音をようやく聞けたような気がしてな。長かったよ」

「ずっと偽りの態度で接していたと?」

「違う違う。本心を隠していたってのが正しいだろう。あれだけきつい訓練をしていながら弱音の一つも吐かなかったのも、その本心隠しの一環だったのだろう」

「先程に『正直、かなりきついです』と言いましたが」

「アレは()()だろう。実際、きつくしたのだからな。それにアレは『一年でここまでの域に達した』という私の褒め言葉に、域に達していないと答えると失礼だし、かといって当然だという反応も難しい、だからこそきついからこそその域に達せたのだろう、という意図を答えるためのある意味社交辞令の言葉だ。本音ではない」

「……買いかぶりすぎですよ。そこまで深くは考えていません」

「それは本音ではないよ。君はそこまで深く考えている。だからこそ、考えていない発言は先程は初めてだった、ということだよ」

「……」

「但し、剣は違う」


 ジェラスは口角を上げる。


「君の剣は真っ直ぐで、でもどこか捻くれていて、かなり戸惑う剣だ。自分の中の迷い、というよりもひた隠しにしているが故の剣に思えた。だが、剣を打ち込むトドメの瞬間の剣の時はいつも同じだった。――私を殺しに来るような、鬼気迫る一撃だった。何も考えていなかった――いや、とあることしか頭になかったのではないか?」


 合っているか? とジェラスは訊ねる。

 コンテニューは答えない。

 初老の男性はそのまま続ける。


「あと、その剣はとても苦しそうにも見えたんだ。きっと誰にも言えないで苦しんでいる、ってね。かなり初期から分かっていたんだが、なかなか君に訊けなくてね……情けないよ」

「そんなことはないですよ」


 コンテニューは首を横に振る。


「ジェラス中佐は情けなくなんかないです」

「そうか。そう言ってくれると嬉しい。……でも、君の言葉はやはり慰めでしかないんだ。今まで聞けなかった臆病な私への、優しい慰め。――だからこそ、今日はきちんと向き合いたいんだ」


 ジェラスは真剣な表情を彼に向ける。


「聞かせてくれないか? 君のその内に秘めた思いを、この私に。どんな事実であろうが、私は全部受け止める。君が秘密にしてほしいのならばこの口が例え拷問に掛けられようが何しようが絶対に割ることは無い。信じてくれ。私は――君の味方だ」


 もっとも、とそこで表情を崩す。


「君が言いたくないのならば強要はしない。もう訊かないよ」

「……ずるいですよ、そういうの」


 大きく息を吸い、それと同じように大きく長く息を吐き、コンテニューは微笑む。


「全く、大人って卑怯ですね」

「そうだ。大人は卑怯だ。こういう攻め方もある、ってね。一つ学べただろ?」

「ええ。理論では分かっていましたが、実践ではこう使うのだって身をもって知りましたよ。やはり体験が重要ですね」


 目を閉じて数瞬の後、彼は意を決した様に笑みを消して告げる。


「色々言えないことがありますが、僕はジェラス中佐の言われた通りです。ルード国に憎しみを持っています。総帥のキングスレイにも直接それは言っています」

「……え?」


 ジェラスは目をしぱしぱと瞬かせる。


「予想外でしたか?」

「あ、ああ。……本当か? 総帥に宣言したっていうのも?」

「ええ。僕が拾われた戦場からこの国に連れられた直後、その戦場を作った張本人であるキングスレイ相手に」

「戦場で拾われた? ということは戦災孤児だったのか……いやいや、それよりも、だ。色々な意味で何でここにいるんだ、君は?」

(もっと)もな疑問ですね。僕ですら半信半疑ですよ、あれが正解だったなんて」


 苦笑を浮かべるコンテニュー。

 そこに嘘だと思える要素は全く無い。

 だが分かることが一つある。


「そうか……だからこそ、強くなって内部からこの国に復讐をしようとしているんだな?」

「ええ。その通りです。どれだけ時間が掛かろうとも、将来、僕と同じような境遇の人を生み出さないためにも」

「……困ったな」


 そう言いつつも、ジェラスは全く困った表情をしていなかった。

 正直な話、目の前の少年の思想は危険極まりない。思想犯で投獄もされるだろう。

 しかしそれを総帥が受け止めているという事実。

 こうしてジェラスに剣術を学ばせていたという実績。


 そして何より――自分が先程述べた言葉。



「私が言えるのはただ一言だ。――頑張れよ」


 ジェラスは密かに彼を応援することを決めた。


 彼は賢い。

 そして何より若い。


 ジェラスも平和平和と口では言っていたが、結局、武力が強いこの国では相反した矛盾を抱えていることにずっと悩んでいた。

 戦争が激化すれば、それだけ死者が増える。

 それ以前に戦争をするだけで死者が発生する。

 親が殺されれば、残される子供がいる。

 ――そんな当たり前を、当たり前として捉えてしまっている。

 彼はどうにかして、自分のような境遇の戦災孤児を無くそうと、身を粉にして努力している。


 ならば密かに応援しよう。

 彼の未来に、投資しよう。

 そう自然に思えていた。


「――ところで、ですが」


 頑張れよ、というジェラスの励ましの言葉に何も返さずに、彼は話を変えるようにそう言った。その切り返しも、自分のこれからしようとすることにジェラスを巻き込まないようにするという意思が見え隠れしており、ジェラスは嬉しさを感じていた。その彼の心遣いに水を差すわけにいかないと、ジェラスはそのまま彼の話に耳を傾ける。


「ジェラス中佐。何故この時期にそんな話をしてきたのですか? 一年といっても正確な一周年というわけではないでしょうに」

「うん。ああ、忘れていた。最初に伝えるべきだったね」


 ジェラスは一つ頷いて、少し小声で語る。


「……ここだけの話だが、そろそろ私に異動の話がある」

「異動、ですか?」

「そうだ。だからもうじき君への指導が出来なくなる……というか君に会えなくなると思ってな。このタイミングしかないと思って思い切って訊いた、ってのが真相だ」

「異動ってことは階級も上がるのですか?」

「上がらない奴もいるだろうが、今回は大佐になるとの話だ。一応秘密な」

「おめでとうございます」

「ありがとう。……と単純に言えないのがなあ」


 ジェラスは不平を漏らす。


「この国からの出向ってやつだな。しかも、まだ相手領土なのでまだ内示が出ない。というよりも、完全に先走り人事だな」

「ということは……」


 ああ、とジェラスは頷く。


「これからこの国は――()()()()()


「……成程。そういうことですか」


 コンテニューは首を縦に振る。


「訓練が出来なくなるのはジェラス中佐が何処かに行ってしまうからではなく、()()()()()()()()()なんですね」

「……半信半疑ではあったが、やはりそうだったのか」


 ジェラスは苦々しい表情になる。


「まだ一一歳の君が戦場に出ることになるとは……」

「その為に軍部所属しているわけですから当然のことでしょう。むしろジェラス中佐は出られないのですか?」

「ああ。老兵はあまり役立たないからな。戦後処理の方に当てられるだろう」

「そういうものなのですね」

「それより……君が戦場に出るっていうのは、そのあれか? スパイ的な――」

「いやですよ。本当にそうだったら言えるわけないじゃないですか。……まあ、機密的な意味で言えば同じでしょうが、スパイではないですよ」


 コンテニューは小さく、ふふ、と笑う。


「そうですか……()()()()()()()でしたね」

「やっぱり君には早い段階で伝えられていたのか」

「……まあ、そんなものですね」


 少々歯切れが悪い様子でそう答えた後、少年は遠い目をした。



「次に攻め込む国は――アドアニア、ですか」

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