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Justice Breaker  作者: 狼狽 騒
Justice Breaker 外伝 「"Continue" Story」
114/292

訓練 01

    ◆




 その後、コンテニューは彼の望み通り、戸籍と幾何いくばくかの金銭、並びに生活拠点を手に入れた。

 と、同時に彼は正式に軍へと配属となった。

 所属はセイレンの所の開発部であるが、彼の存在は当然の如く隠された。こんな幼い少年が軍所属ということ自体が異例であることが主な理由であるが、ジャスティスという二足歩行型ロボットの存在を隠す意図もあった。

 そんな彼の住処と与えられた部屋は非常に質素であり、生活用具以外は何も置いていない。決して大きくはないもののスペースがかなり広く見られる。一方で子供が一人が住んでいるという異様な光景であったが、住んでいる場所は軍人の家族が多くいる地域であったため、周囲の住民は、親が滅多に帰ってこない地位の高い人物の子供なのだな、と気にも留めていなかった。まさか少年自体が軍人だとは誰も思っていなかっただろうが。

 そんな少年は普通の軍人と同じような境遇に置かれていたかといえば、そうではない。

 彼は開発部に所属しているのだが先に述べた通りにその存在を隠されており、ジャスティスの開発に携わる数人にしか存在を知られていなかった。

 彼が主に行う仕事は、開発者とジャスティスの捜査に関しての協議――なのだが。


「僕が戦功をあげるには普通の機体で十分です。これ以上答える必要がありますか?」


 コンテニューは協力を一切拒否した。

 改善とか改良とか、そういうのは不要だと考えているのだ。

 これには開発陣も困惑したのだが、セイレンの、


「んー、別にいいんじゃない? こんな子供に頼る方が恥ずかしいしー」


 という一言で、あっさりと彼に意見を聞くことは止めてしまった。

 では彼がやることとは何か。

 結局できたジャスティスによる試験が主だったモノだが、未だ一体以外完成していない状態ではどうすることも出来なかった。


 そんな中――



「ということでー、コンテニューちゃん、学校に行きなさい」

「嫌です。必要ありません」



 ルード国軍本部 開発塔、地下室。

 ジャスティスを開発しているが故に厳重な入退室と情報の管理を行っている場所。


 その中央部の椅子にただ座っているだけのコンテニューの目の前で、セイレンがランドセルを持って人形のようにピタリと静止していた。

 だが、すぐに「ギギギ」と声に出してぎこちない動きをしながら、


「コノ国ッテ義務教育ナンダヨ。ダカラ行カナクチャダメダヨ」

「完全に棒読みじゃないですか」

「まーねー。あたしもいらんと思っているからねー」

「じゃあ何で言ったのですか?」

「にゃははー。大人ってのは色々あるもんだよー」


 その大人から一番外れていそうなセイレンが言ったことに、周囲の開発メンバーは嘆息という形で表現した。

 お前が言っていいセリフじゃない、と。


「でもさー、これからコンテニューちゃんの学生ライフで惚れて惚れられてきゃっきゃうふふふふー、みたいな青春の甘い一ページを期待した人を裏切るのー?」

「そんな人はいませんし、そんな状況にも興味ありません」

「異性に興味ないってのー? じゃあ同性好きなのね!」

「そんなわけがないでしょう。――どんなに言われても学校には行きませんから」

「やっぱり行かないのねー。でも一応理由を聞いていいかしらー?」

「不要だと言ったでしょう。ここに来るのだって、貴方達の世間体故に来ているだけですから。何もしていなくて暇ですよ」

「何もしなくてお給料もらえるなんて理想的じゃなーい」

「僕はお金が欲しい訳じゃないですからね。早く武功を上げたいのでジャスティスの開発をしてくださいよ」

「そう言われると頭が痛いわー」


 あいたー、と頭を抑える彼女に対し、コンテニューはニコニコとした顔を向けながら、一方で言葉は何も向けない。

 そんな二人のやり取りを横目にしながら、開発者達はせっせと働く。

 関わりたくないといった様子で。


「でもこのままずっと何もしないままでいいのー?」

「流石に飽きてきましたから嫌ですね。早く他のジャスティスを作ってください」

「まあまあまあ、落ち着きなさいなー」


 セイレンはランドセルを本当に投げ出すと、コンテニューに問う。


「通常の義務教育でみんなと一緒に算数のお勉強――なんてしなくていいから、強くなる『訓練』っての方はどうさ?」

「訓練ですか?」

「そうそう。実務的なやつを学ぶんだよ。人の急所一覧、とか、相手の口を割らせる拷問方法とか」

(……子供に何を教えるんだよ!?)


 周囲がドン引きする中、


「いいですね。そういうのならば学びます」

「えええええええ!?」


 思わず声を上げてしまう周囲の人々。


「実戦的なことならばいくらでも学びます。是非とも教えてください」

「いいねえ、その学ぶ姿勢。人間、学びを忘れたら駄目だよー。――みんなもこの子を見習いなさいねえー」

(絶対に嫌だよ、あんた達みたいになるのは!!)


 開発者達の心は一つだった。

 狂っている。

 開発責任者が狂っているのは今更だったが、それに拍車が掛かるかのように特殊な人材がもう一人増えた。しかもこのことは他部門の人間には口外無用と来ている。

 ストレスが一層溜まりそうだな――というのがその場の誰もの共通認識だった。

 そんな他者の考えなど気にもせず、二人は会話を進める。


「人体の急所とかはあたしが教えられるけど――」

「あ、いいです。独学で学ぶので本をください」

「相変わらず冷たいねえ。まあいいわ。適当な本を見繕ってあげるからそれで勉強なさいなー。で、実戦の剣術とかの訓練は……そうねえ。一応総帥経由で頼んでおくわー」

「お願いします」


 コンテニューは笑顔のまま頭を下げる。


 こうして彼は、軍部内で特別な訓練を受けることとなった。

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