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使者はお嬢様?!

「ふむう。アっちゅう間に当日になってしまいましたね」


「あー、やだやだ。こういう格式ばったことが俺は嫌なのに。それも、ちょっと悪い奴が来るんでしょ?」


「まあ、当人が悪人かは……あれですが」


 ローベスさんは腕を組んで難しい顔をしている。


 これから俺を眠り姫? にした人間の使者がやって来る。それも俺の恢復祝いに、だ。

 それもあるが、こう偉い人との会話なんぞよう出来んぞ……。緊張でトイレにもう一時間で三回は駆け込んでしまった。


「良いですか? 会見はカズが同席します。それとわたしも、そして一応はフェリさんも。マイさんもトーヤ様を救った一人として同席します」


「んまあ、何か仰々しいよね」


「それに警備の兵も何人かつけましょう」


「う~ん」


「な、何かありますか?」


「それは……良いんじゃないかな?」


「と、言いますと?」


「だって、カズ、フェリ、マイちゃんの三人は俺を救ってくれたわけだし、それを紹介することは分かるのさ。で、その間は若き執政! 宰相! 秘書! でもあるローベスさんが代わりをしてくれたんだから当然必要じゃない。でもさ、警備兵は物々しいよ」


「そう、でしょうか? 念には念を……ですけれども」


「まあ、あの三人もいるし、ローベスさんも実は強いって聞いたよ?」


 このローベスさんは代々、領主に仕えてきてくれた一族ということもあって武芸にも嗜みがある、ということを仲良くなった兵士たちから聞いていた。父は隠居して軍学の研究をしているらしいが、若くして自分の息子を信頼しているということはそれだけの能力があるという事だと思う。


「まあ、人並ですが」


 ちょっと恥ずかしそうにしてえ、このこのォ。


「それに、向こうも単独で来るわけだしね。こっちがそんな大層な警備をしていたら逆に弱虫だと思われるかも知れないからね」


「そう……でしょうか?」


「ありがとう、気を遣ってくれて。わがままな領主でごめんね」


「いえ、構いませんよ」


 少し肩の力が抜けたローベスさんは、部屋を出て三人を連れて来る様に命じ、部屋の様子も見に行った。


「もう少し、か」


_______________________________

_________________

_____


 そしてその時が来た……。


「来ましたよ」


 俺は施設の中にある部屋で待機していた。

 とうとう来ちゃったよ、この瞬間。というか早いんだよ……。来るのが……。

 あああ、もう嫌だよお。


「大丈夫ですよ!」


 カズが笑顔をこぼす。


「ん、あたしたちいる」


 マイちゃんも普段と変わらない。

 俺だけじゃないか……。こんなにドキドキしているのは!

 しかもこんな温かい言葉まで頂けるとは! 光栄です!


「はい、こちらです」


 フェリちゃんは一応、ここの受付でもあるので案内人を頼んである。

 こっそりこっちにウインクをする。

 その行為に俺は胸が打たれそうになったが、そのサインの意味を冷静にキャッチした。

 それは、この使者は呪術師ではないということだ。

 フェリちゃんは呪術の家に生まれたので、その力がある。当然、その力を持つ人のことも分かるということらしい。


 続いて入って来たのは、これまた天真爛漫といった……。少女であった。


「ここが! う~ん、何かあれね。汚いわね!」


 って女かよ!!

 金髪がトレードマークのポニーテール元気っこ。声が高く、年は俺たちよりもやや下か?

 健康そうな太ももがなんともたまらねえ。


 それに続いて、こりゃ参った、という表情をしたローベスさんが続いて入って来る。

 これは単に、予想外の少女が来たということで少しながらもショックを受けているのかも知れない。


「お初にお目にかかります。トーヤと申します」


 俺は席を立って、目の前の少女に告げる。

 カズ、マイちゃんも敬礼をして姿勢を正す。カズ、あんなカッコよく決めることが出来るのか……。


「う~ん、本当は初めてじゃないんだけど。本当に記憶ないのね、こいつ」


「はあ、そう、ですねえ」


 ローベスさんに対して物おじしない口調でそう話す。

 というか、今この子、俺のことを「こいつ」って言わなかったっけ?


「すみません。いかんせん、記憶がまだ戻っていませんで」


「へ~、そうなのね。いまいちわかんない。あ、立ち話駄目だから。もう座るね!」


 おいおいおいおい。

 完全にもうあの子のペースじゃねえかよ。

 ローベスさんも挨拶とかで苦労したろうなあ。


「それで、今日は……」


「そうそう! あたしの名前はミナリーよ! あのスリッシ家の長女よ!」


「そう、ですか!」


「そうよ!」


 やりづれええ……。あんまり話聞かないし……。


「スリッシ家はもともと貴族の家なんです。詳しくはまた説明しますね?」


「あ、うん、ありがとう。フェリちゃん」


「そうね~、ちゃんと覚えててね! そうそう。この施設は地味だけど、あたし嫌いじゃないわ! ちょっと田舎っぽいけれどね。でもトーヤがまた元気になって良かったわ!」


 ねー、と言う少女。

 勝手に水もがぶ飲みしているし、これはどうしたら良いもんなのだろう。

 というか、知事様は何を思って彼女を寄越してきたんだ!


「ありがとうございます……。そうそう、こちらにいるのがカズで、屈強な男です。俺を救ってくれた三人の一人です」


「おおおおう!」


 ちょっと威圧でもしたのだろうか。


「そ」


 と言って、水の入ったグラスを眺めている。


「こちらがマイです。弓が得意で、このたび銀行をつくったのは彼女の陳情でもあります」


「ん」


「そ」


 お互いに軽い挨拶しかしない。どこか滑稽に思える。

 興味なし、みたいな感じがよく伝わって来る。


「そして後ろにいて、案内をしてくれたのがフェリです。ここの受付もしながら、勇気のある女の子です」


 あえてまだ俺はこの少女を警戒している。

 それ故に、フェリちゃんが呪術師であるということは伝えない。


「へえ」


 とこれまた気のない返事。


「そして、僕の秘書でもあり執政でもあるローベスです」


「そうなのね~」


 と、また退屈そうにしている。

 この子、分かってんのかな、この状況を!


「う~ん、美男美女ね! ここに揃っているのは。あたしも含めてだけれど。トーヤもカッコよくなったしね。うん。でも元気そうで良かったわ。確かお父様が犯人を捕まえるように尽力しているそうなの。感謝してよね」


「ありがとうございます」


 とは言うものの、誰もがツッコミをしたかった。

 お前らがやったんやないかーいって。

 恐らくは犯人を捜すという事はポーズでしかない。それは誰もが分かっていた。

 問題は目の前にいる金髪で目の蒼いこの少女が、それを意図して言っているのかどうなのか、という点だ。信じたいけれどもなあ。

 それと気になるのこの、ミナリ―の父だ。きっと権力があるに違いない。


「ん~、本当はそれだけを言うつもりだったの。でも、気に入ったわ! トーヤ、二人きりで話がしたいの」


「ミナリ―様、それは駄目です」


 すぐさま控えていたローベスさんが制止に入る。

 

「いや、良いでしょう。この子、武器もなさそうだし。聞かれたくない話があるのかも。ほら、記憶にはないけれど会った事があるみたいだから」


「そうよ! 良いでしょ! イケメン眼鏡!」


「な、なりません!」


「少なくとも、それがしかマイ殿がいる状態でないと……」


「そうですよ……」


「ん、領主。あたしが残る」


 みんな、思う事は俺への心配だ。

 だがこうなってしまったら、止められないことも皆は知っている。


「大丈夫。こんな可愛い人と二人っきりで話せるんだから、お願いしたいもんさ。ですよね?」


「ふふ……。あーはっはっは!」


 急に少女は笑い出した。


「何がおかしいのでしょう」


 ローベスは顔をこわばらせて尋ねる。


「いやいや、ごめんね? 父様から実は言われたことが一つあるの。トーヤは領主になって魅力が増したって。そう聞いてるっていうのね? だから、本当にそうなのか。人となりを見てきて欲しいって」


「ええ?! そうなの?」


「そうなの。だってあなた民から慕われているって評判よ? そんな人がら、仁徳。あたしだって知りたいもん! でも分かったわ! トーヤは変わってない。誰にでも優しい心を持ったままの領主よ!」


「そう、かなあ」


「そうよ。良からぬ噂はわたしも聞いてるもの。それでもわたしと二人になって身の危険があるかも知れないって言うのに信じてくれた」


「そりゃあ、まあ。でも信じないといけないしねえ。それと何かあってもここにいる皆は必ずまた、俺を救って笑顔でいてくれるって思ってるから」


 そうちょっとまた恥ずかしいことを言ってしまったが、ミナリーはほおっと声を出して、軽く息を吐く。


「うん! ますます魅かれたわ! あたし、しばらくここに住むから! 決めたわ!」


「「「は?」」」


 みんなが素っ頓狂な声を上げた。


「ふふふ! 楽しい生活が始まりそうね!」


 胸を張ってそう言うミナリ―。


「こ、これからどうなってしまうんだ」


 と言いながらも、これから起きるかも知れない明るくて楽しそうな生活に、胸をちょっと弾ませている自分がいた。

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