新プロジェクト?!
「うう~む」
ローベスさんは頭を抱えていた。
それもそのはずで、俺がまたマイちゃんのお願いを聞いて突拍子もないことを話してしまったからだ。
それからというもの、役所はもうてんてこ舞いになってしまった。
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「なあにい!? 店を増やしたい?」
「そう。みんな言ってる」
「それは確かにそうだけれども。お店をしたいって人、多いの?」
「うん、多い。例えばお米。これも秋にしか育たない。他は収入が少なくなる。でも、他にお店を出すものがない」
「ああ、確かに」
その間の収入は随分と不安定になってしまう。
いくら秋には多くの米が売れるとしても、だ。それでも良くはない。
とにかく店が増えて人が多くなればこっちも持って来いだ。
なんとかしたいという気持ちはある。
「幸い、このバックスエッジの土地は豊かですので、米以外にも農家の人は様々なものを育てたりもしています。ただ……」
ローベスはそう話すと、メガネをくいと人さし指で持ち上げた。
「結局は例の森へ行って何かを取ってきたりとか。まあ、そういったことになりますな」
「そう。だから、農家の人はみんな農家だけでやっていく。他にやれても、田んぼをお休みさせているときに何か別の物を育てるくらい」
それ田んぼのお休みになってねえじゃん、という突っ込みをこの子にして良いのかどうかは分からないので今は置いておこう。
「つまり……」
そう言って俺はぐるっと周りを見渡す。
ただ、もう誰も俺たちを気にすることなく、もとの喧騒があたりを支配している。
あちらこちらからは、元気な人々の声がする。
「この、いや。俺の町には、ビジネスチャンスがないってことか!」
「へ?」
「ん?」
ローベスさんも、また声を上げた。
マイちゃんは相変わらず小動物のような愛らしさで、首を傾げている。
「ま、また変なことをお考えになったのでは……」
「ふふふ! じゃあ作ろうじゃないか! 最大のビジネスチャンスを!」
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そして俺は役所に戻り、一晩考えてある結論に至った。
「バックス銀行をつくります!」
「はあ?」
ローベスさんがこれまた変わらぬ声を出す。いやあ、このリアクション! 良いね!
「それは、何でしょう」
「ビジネスチャンスを作るものさ!」
「いや、その具体的な話を……」
「つまり、我々がビジネスをしたいという人たちにお金を貸すのです」
「出挙、みたいなものですか?」
「え、なにそれ」
「ああ。稲を農家の人に貸すのです。そしてその秋には利子をつけて返してもらうのです」
「ああ! そうだね。それのお金バージョンになったようなものさ。つまり金貨を貸し付けて成功したらその分の利子をつけて返してもらう」
「そ、そんな……。さっそく、協議はします」
そう言って、色んな人を集めて話し合いをしてもらった。
「良い案だと思います。ただ……お金が返ってこなかったら」
「そうです。でも、色んな人が様々なことに挑戦できます」
「新しい品種が生まれたり、すごい店が出てくるかも」
「みんな。失敗したら責任は俺が取る。だからやってみてくれないかな」
もう俺の腹は、マイちゃんのお願いと言う点もあるけれど決まっている。
やらなきゃいけないんだから。それで良くないなら、また一つ学べるというもの。
「はあ……。トーヤ様がそこまでおっしゃるなら……。ただし貸せるかどうかの審査は厳しくしますよ!」
「向こうの世界? にもそういうのがあったんで。どうか出来たらと思います!」
「そう、ですか。でも協力しますよ!」
「よし、やりましょう!」
ほかの職員の人たちも了解してくれた。
そしてすぐさま、「バックス銀行設立のお知らせ」のビラを各所に貼る。
当然俺も、その手伝いをする。
「それ、なに?」
軍の訓練所にも貼っていた俺は、マイちゃんに声を掛けられた。
「前に話してたでしょ? そのビジネスチャンスを作ったのさ!」
「ほ?」
まあまあ、これを読んで!
そしてあらかたの場所に貼りつけては、その都度みんなに説明をした。
反対意見を受けることも覚悟していたけれど、みんなは応援してくれると言ってくれた。
これがどう出るのかは分からない。それでもやるしかない。
「おおおおお! 終わりましたぞおおおおお!!」
遠くで豆粒くらいの大きさなのに、カズが声を出している。それがまた聞こえるというのだからすごい迫力だ。
俺は代わりに手を挙げて応えてあげる。
「貼り終わりましたぞおおおおお!」
「うん、ありがとう!」
「俺には、そのう、よく分らんのですけど。これで町が良くなってくれたらいいっす!」
休みの中でも俺がビラをまいている事を聞いてこうやって駆けつけてくれた。
「ははは! こんなお方一人でやられているなんて聞いたら。お守りせずにはいられませんでした!」
「その割にはずいぶんと先行していっちゃったよね!!」
「それはそのう、勢いですね!」
「うん、勢いは大事」
そう言って笑いながら役所へと帰った。
そこでは明日の開設へ向けて準備が慌ただしくなっていた。
そして翌日。
役所には、相談も含めて多くの人が来ていた。
「領主様! ありがとうございます!」
「領主のやつ、しっかしまあよう考えつくな、こんなこと」
みんながそう言ってくれる。
役所の受付もしているフェリちゃんが隣にやってきた。
「すごいですね! 大入りです!」
おどけて笑うこの少女にも感謝しかない。
「マイちゃんのお願いで考えたんだ。みんなには急にごめんね」
「大丈夫です! みんな領主様なら考えがあってのことだからって言ってましたから!」
「ありがとう! そう言ってくれると助かるよ」
「でも、もしかしたら……。失敗するとかって考えてなかったんですか?」
「あったけれどさ。でもみんなは俺を信じてくれたじゃない? もしかしたら、呪いにかけられた俺はもう昔の俺じゃないかもって。それに、記憶のない俺を受け入れてもくれた。俺だって何か返したいじゃない? そんでさ。俺もみんなを信じたいのよね」
と言ったら少しキザかもしれない。でもそれが俺の本心だ。
フェリちゃんは顔をぱあっと明るくさせた。
「ふふ。その言葉だけでみんな嬉しいですよ! じゃあ、今日は頑張ります!」
その日、役所は俺が来てから一番人が入った日になった。
そして……。
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今まで人の足りなかったお店では、さらに別の村の人を雇って事業を拡大させた者。
他の村でも支店を出す者。
多くの雇用と、お金を生む結果になった。
「ま、まさか……。たった十日で。貸した金額の半分近くの返済が……」
ローベスさんは目を丸めていた。
俺はマイちゃんに市場の様子を聞くために呼んでいた。
そのマイちゃんに、今回のことを深く聞いておきたかった。
「どうだったかな?」
「みんな、商売はんじょーっていってる」
「ひとまずは、良かったのかな」
バックスエッジの豊かな土地と、森で作られたものは否が応でも外で売れる。
そうした手助けを出来たら良いと思った。
「隣の村にはあまりリンゴとか、入ってこない。だからみんな喜んでる。叔母さんも」
それを聞いてほっとした。
それでも、成功しているのは今だけだ。俺は同時に大きな期待を背負った形になった。
「信じてよかったよ。みんなを」
「ん」
少し、マイちゃんが笑ったような気がした。
「さあああ! 祝って飯にでもしましょう!」
「真昼間からですか?」
カズが機を見て乱入してくる。
「悪くない。カズ、良いこと言った」
「おおおお! マイ殿が褒めてくださるとは珍しい!」
「仕方ないですね、さあ、行きましょうか」
ローベスも満更ではなさそうだった。
フェリちゃんにも声を掛けて、久々にみんなでこの時間を共有しようと思う。
俺だけの成功ではなく、みんなあっての成功だから。




