人気度と新たな問題?!
「ひょえ~、ここが市場ですか」
「左様です。ここが、キヨグ市場です。恐らくは、一番賑やかな場所かと」
見てみると、人! 人!
活気があって、自分たちの住んでいる政庁のある場所からは考えられない世界だった。
それでも、前にいた時の世界はなあ、もっと都会の場所もあった。
あれくらいにしなきゃならんですよ。
「オーム街道なんで、ここは元から人が集まりやすい場所なんですよ」
「へえ」
としか言えない。
記憶がないとはいえ、たぶんそこまで詳しいことは当時の俺も知らなかったとは思う。
「首都に繋がる道なんですよ。都に繫がる道は大きく五つあるのですが、そのうちの一つがオーム街道ですね。そしてここには多くの物が集まります。ただくれぐれも、領主であるというこはバレないよう……に」
「あらああああ! もしかして領主の人ですか!」
すまねえ。
ローベスさんが話すよりも先にもう見つかってしまってます。
そりゃあ、ローベスさんは顔が知れてるだろうし、俺も他の人からしたらそうだろう。
それに目立つなと言われても、馬に乗っちゃってんだから誰がどう見てもお偉いさんに見えでしょ……。
「ああ、まあ、そうですね」
「あらああ! いやいや、あたしはさ、そっちの方まで行ってないから。まだ顔を見たことがなかったんだけれど! 中々若くてカッコいいじゃない!」
「ええ! そうですか?」
「ほら! 持っていきな!」
そういうと、陽気なおばちゃんは俺にリンゴを渡してきた。
「ん! これはいい味! 赤の色も宝石みたいだ……。きらっきらしてる」
「そうだろう! なんたって、この土地の土は本当に良いからね!」
がはははは、と大きな声で笑うおばちゃんに俺は手を挙げて改めてお礼を言う。
「もう、くれぐれもそんなに軽率に動かないでください」
「そうは言ってもねえ。目立っちゃったのは仕方ないから」
「まあ、そうですけれど……」
「ほら、先を行こうよ」
「とは申し上げても、先程のやりとりで随分と皆さんこちらを見ていますけれどね」
それもそう。
お店のみんなが、露天そっちのけで俺たちの方を見ている。
まあ、中には最初から気づいていた人もいたのだろう。
「領主様が! 復活されたのですか!」
「おい、お前それはもう話題になっただろ」
「俺たちのことは忘れていても、俺たちは覚えているからな!」
「ありがとう! ありがとうー!」
王様か何かになったような反応。
こんなの、アイドルとかじゃないとあり得ないよなあ。
「あんな言葉遣いで……。本当に」
「まあまあ、良いよ良いよ。それよりはここがそれだけ活気があるのは良いことだね」
「まあそうですね。ここには多くの商人が来ますから」
俺たちに気づくも、客を呼ぶ声が絶えない。
それだけ元気な場所だともいえる。こういったことがないと、経済って回らないんだろうな、とも思う。つまるところ、ここをいかにして発展させるかが俺の仕事になるだろう。
そんな中で俺は露天の奥に見知った少女の姿を見つけた。
「あれ? マイちゃん?」
あ、しまった。
つい親し気に呼んでしまった。
「ん。領主」
あまり多くは語らないが、やっぱこの小さくて守りたくなる感覚!
可愛らしくて良いなあ。俺ってば、こんな子に守ってもらっていたのね。
そんなマイちゃんの手が俺に突き出される。
ゆっくり彼女の小さい手の指先が一本ずつ開いていく。
ローベスさんも、ひょいとのぞき込む。
そこには、先程とよく似たリンゴが……」
「あ、リンゴ」
「そう。領主、好き?」
「好きだよ! さっきもね、ここの農家の人かな? 元気なおばちゃんにね、もらったんだよ。ほら、これこれ」
そう言ってさっき貰ったものをポケットから取り出す。
「ん。それうちの」
「へ?」
「うちの作ったやつ」
「ああ! そういえば!」
とローベスさんが自分の両手を合わせた。
「マイさんのご実家は、豪農でした。様々なものを育てておるのですが、ははあ。あのリンゴもですか」
「そう。あっちにいたのは叔母さん」
「そうだったのかああああ!」
「お母さんたちは、お米作ってる」
「ひょええ……。マイ一家の多角経営が見られるぜ」
「それを今日は手伝っている。普段は軍のとこにいるけど」
マイは自分を鍛えるために始めた弓で軍に入ろう、というところで俺を救ってくれた。
文句なしで取り立てることになった。
「それで領主。今日は何しに来た」
「今日はこの市場の視察かな。でもあれだね、活気はあるけれど。もっとこれを大きくしたい」
「だったら、相談がある」
俺はマイちゃんからの提案に、一応隣のローベスさんを見る。
良いんじゃないですか、という目をしているのを確認。
「良いよ! 話してみて!」
「この市場に出店している人で、困ったことがあるってよく話してる」




