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市場へと続く道

 住民たちは俺が復帰してから更に活気が出てきた。

 なんか、結局は県知事とかいう輩の手にかかって逆に良かったんじゃないかとさえ思えてしまう。


「それでは今日は市場に行ってみましょうか」


 かねてから行きたかった場所、それが市場だ。

 この土地はどうやら、田んぼから生み出される米の収穫のほかに果物も豊富だ。

 これがようやく、各農家が栽培に力を入れてくれている。ゆくゆくはブランドが出来たら強みになるだろうと思う。


 そして重要な領主の財源となるのが、この市場の営業をするための税金だ。

 他にも、消費税もとっている。


 これがまた大きな財源になるのだから、市場が活性化することはまさに大事なことだ。


「農業とかじゃない! 強みがこの町にはある! どうよ、このキャッチフレーズは」


「お見事です」


 ローベスさんはそう言って頭を垂れてはいるけども、すぐに真顔になるところ見ると……。

 全然つまらなかったということだろう。


「あれだよね」


「はい?」


「上司のつまらない言葉にいちいち笑ったり反応したりしなきゃならないのって辛いでしょ」


「ふぇええ!? いやいや、そんなもう! ね!」


 ね! とか言っちゃってるよおい。

 ローベスさんは嘘とかつけないような人なのね。まあ、それはそれで良いけど。


「いやあ、そんなあれですよ。苦労掛けてすいません」


 にこっと笑いかける。


 こうして馬を並べて歩くのは、もう住民たちには見慣れた光景になりつつある。

 普段は主に別々に巡察をしていたらしいけれども、俺が復活してからは二人で一緒に出ることが多くなった。まあ、それも当たり前か。右も左もわからないんだし。


 そんなこんなで、この土地の話をたくさんしてもらいながら、市場までたどり着いた。


「これが関所ですか?」


 アーチ状になった木の関がある。

 そこには警備をする人たちがいて、みな一様にこちらを視認して頭を下げてくる。


「ようこそ、お待ち申しておりました」

 

 髭をたくわえた、これまた聡明そうな男がトトト、とやってきて挨拶をする。

 この人物が関所の警備兵長らしい。


「これ、本物の剣なの?」


 腰についている、その剣の方に集中してしまった。

 

「ああ、はい! そうです! これは、帯刀は失礼でしたね」


 そう言って、部下を呼び寄せると、刀を渡そうとする。


「ああ、いや。良いです。大丈夫ですから」


「そうですか? しかし、少しばかりは警戒されたほうがよろしいかと」


「そりゃあ、あんな事があったからね。でも大丈夫。ここの人たちを信じてるからさ」


「それはそれは……」


 周りでそのやりとりを見ていた警備兵も、ほっと安心している。


「そこの人たちも、俺と話す時はそういう堅っ苦しいのいらないからねー」


 おおおおおおお

 何とお優しい

 復活されてもなおそのお慈悲を忘れないとは……


「トーヤ様、お言葉ですが。いささかそれは軽率すぎるかと……」


「良いんじゃない? 俺は向こうがそういう風ならこっちはちゃんと信じたい。人をね」


「そうですが……」


「まあ、もしまた俺に何かあったら、その時はまた助けてよ」


「こっちの苦労もあるんですからね?!」


「はっはっは! その時は我々もかけつけましょう!」


 警備兵長がそう言って笑う。

 腕っぷしのある人物は声が大きくて良いなと思う。


 もちろんっすよおお!

 次は呪詛なんかに負けませぬ!


 多くの警備兵がそれに続く。


「やれやれ、トーヤ様と一緒にいると。器の大きさと言いますか。色々と驚かされますね」


「そう? まあ、こういう領主がいても良いんじゃない?」


「ははは。そうですね。でも、こういうお方だからこそ。上の人は怖いのでしょうね」


「どうかな? 俺なんてただの若造だよ。さ、行こう」


 それからは関所を出ただけでも、トーヤ様コールが地鳴りのように続いた。


「あいつら~、警備してるんかと言いたくなりますね」


「まあ、良いじゃない。嫌われるよりは良いかなって。その分苦労掛けます」


「良いですよ、我々はみな、そのお人柄についていきます」


 俺は後ろを振り返り、何度も彼らに向かって拳を突き上げた。

 そのたびに彼らは反応してくれた。

 領主が親しくて優しい、それだけであれだけの騒ぎになるわけだから、この世界の上下関係ってとても厳しいのだと思う。

 イレギュラーな存在だとは自認してるけど、少しでも良い領主に近づけたら良いさ。


「いざ! 市場へ!」


 もう、市は目と鼻の先にある。


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