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そうだ、森へ行こう!

 群青の空!

 う~ん、今日も良い景色だ。


 のどかな村ともいえるここでは、遠い町で起こっている戦の話などまったく関係ないといわんばかりの状態であった。


「とても遠いところで戦があるとは思えないけれど」


「それがあるのです」


 ローベスさんそう俺に告げる。

 顔は深刻そうにしているが、努めて明るくしようという心遣いも感じられた。


「まあ、今のこの状況も。本来ならば戦になってもおかしくありませんからなあ!」


 一緒に見回りに来たカズが、そう振り返って言う。

 三人とも馬に乗っているが、背格好と言いシルエットは武将のそれである。

 案外、馬の乗り方は感覚で覚えていたので、それほど苦労はない。

 それよりもきついのは、この広い土地の地理を全く把握できていないことだった。


 それだけに、見回りに行きましょう、と誘ってくれたローベスさんは本当に優秀だと思った。


「そうですねえ。こちらからしたら、御大将が傷つけられたようなものですから。しっかりと県知事らに抗議をせねばなりません」


「そしてそれが上手くいかねえでシラ切るってんなら……」


「でしょうね?」


 そう言って俺の隣でローベスさんはちらと目くばせをする。

 先頭を歩くカズはどんな顔をしているんだろう。


「う~ん、かといってもねえ。まず、勝てるかわからないよね」


「そりゃあ、まあ」


 カズでさえ、う~んといった感じだ。

 当然、県知事は多くの兵を有しているだろう。いくらここが広く、兵が集まりそうとはいえ、正直厳しいと思った。


「あとは、県知事に喧嘩を売るっていうことは国への反乱になりますよね」


「まあ、そうですねえ。実際に、今起きている小規模な乱は、県知事が多くの税を要求しすぎたことが問題になって周りが蜂起したって感じですから」


「国を相手の戦ですか! おおおおお! 領主殿ォ! さすがです!」


 そこまでお考えとは、というがそんなこと考えたくても考えたくない。


「いやいや。戦争はしないって。そんなことをしたら、ねえ? ここの民が犠牲になってしまう」


「それですね!」


「あああああ! お優しや領主殿オオ!」


 カズのキャラがいまだにつかめない。

 それでも、前を向いて警戒を怠らずにいるあたりは優秀だと思う。


「まあ、ここに住む人らを兵士にとれば必然的に犠牲が出ますからね。そうなれば、農家は米を作るだなんてこと出来ませんからね」


 もっともなことを言ったと思う。

 昨夜、あれだけの人たちが自分のことを迎えてくれた。

 その温かさが嬉しかった。だからこそ、この人たちを危険には晒したくない。


「おお! 見えてまいりました! あそこが、カンギの谷です。あそこで領主殿が目覚めたのです」


 見事な谷があった。

 やや険しそうで、大きな岩がごつごつしていて、いかにも山登り専門ですよ! みたいな場所だ。

 カズにお姫様抱っこをされながら降りたのでよく分らなかったが、あんな場所にいたのはちょっとした恐怖だ。


「そして、その先がまた森になっています。果実があり、意外と取りに来る人たちは多いです。山はトーヤ様のものですので、一応少ない料金で入れるようになっています」


「お金取るんだ?」


 谷の向こうにある森を想像してみた。

 恐らく、話からすると相当に良い場所なのだろうと思う。


「はい、一応これも税ですので」


「うん。ならそれも無くしちゃおう」


「はい?」


「ぬな?!」


 二人が同時に声を出した。


「い、いや。確かに財政に大きな差支えがあるわけではないのですが……。それでは、取り放題に……」


「生態系も心配ですなあ」


「良いじゃない。そういった場所には禁止区域を作っちゃえば」


「そこを警備する者はどうしましょう?」


「ローベスさん、誰か雇えないかな? 腕のいい人を募集してみてよ」


「それは構いませんが」


「これで良い人材を確保しよう。それに、人を雇えばいいこと尽くしだし、そういった需要を作ることって大事だと思うからね」


「予算的にいけなくはありませんが……。検討しましょう」


 そう言って、さっそく俺たちは森の共有化と、禁止区域の査定に入った。


 森を八つの地域に分け、二か所を禁止区域にして植生などを考慮する。

 それを数週間ごとに変えていき、バランスを保つようにする。

 こうした案で進み、あとは多くの人を信じることにした。

 他の土地からの人間や、禁止区域に行こうとする者を止めるための警備も設置した。

 通称「番人」だ。

 カズとローベスさんが集めてくれた逸材だ。


 そして当日。


 命令が出された。


 山には生活の楽ではないものも行けるようになり、多くの人が果実などを栽培することが可能になった。市場がより活気に溢れ、上場の結果になっている。

 懸念していた、密猟者なども出ていないというから、ここの人たちは人が良い。


「領主様あ、ありがとうよ」

「さっすが領主様よ!」


 役所の前には、みんなの採った果物などが置かれたりするようになった。


「よもや、これほどとは……」


 ローベスさんも驚いている。


「計算できない、効果」

「いきなり、こんなことをしちゃうなんて……」


 すっかりここに居ついた、フェリとマイも絶賛してくれた。


「いや、これはただ……予想以上にうまくいってしまっただけで。あとはここの人たちが優しいからね。俺は助けられただけだよ」


 そうは言うけども、嬉しいことは嬉しい。

 こんなに誰かから評価を受けたことはなかったからなあ。


「よし! もっとより良い領主になるためにがんばんぞ!」


 俺はいつもの皆に、そう笑いかけて誓った。

 

 


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