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対面

 俺は一通りの作業を終えて、広場で少し飲んでいた。

 ジュースくらいが今の俺には一番心地良い。


 他の皆も、うまい具合に時間を調整して警備をしたり祭を楽しんだりしている。


「とりあえずはこんなものか」


「そうですなあ!」


 カズは俺個人の護衛について一緒に振り回してしまっている。

 お試し合戦では人気を得た彼だったが、こうして変わらずに仕えてくれて、俺の露店巡りにも付き合ってくれることに感謝しかない。


 次はどこの方へと行こうか思案していたその時だった。


「ちょっちょっと!」


 大きな声がする。

 

 広場を少し離れたところで連れ立って歩いていたとはいえ、人はそこそこにいる。

 声がかき消されてしまいそうな程のものだったが、聞きなれた声に足を止めた。


「あれ? ローベスさんじゃない! 楽しんでる?」


 と、振り返るとトレードマークの眼鏡もずらしながら、取り乱した様子が窺える。


「何かあったのかあ!?」


 カズも首を傾げている。

 俺も思い当たる節を想像して、、、


「あああああああああああああ!」


 その場にいた人たちが、俺の方を見る。


「あ、あれって領主様じゃ?」

「領主じゃねえか!」


 周りがひそひそと話をしている。

 それに俺は、お決まりの笑顔を浮かべておくがそんな気分ではない。


「ガミィ様がいらっしゃいました!」


「ですよねえええええええええええ!」


 そうだった。

 県知事様がやってくるということを、俺はすっかり忘れていた。

 あれだけの大勢の前で乾杯の音頭を取って、色々と他の人たちのことも見ていた。

 住民のことや、そうじゃない人たちのことをしっかりと目に焼き付けておきたかった。

 故に……。

 そのことをすっかり忘れて、カズを連れまわしてしまっていたのだった。


「す、すまん! 直ぐ行く!」


 しかし、そうはいかない。

 周りを、おじさまおばさまに囲まれてしまった。

 ええい! ここは強行突破! とはいかない。しっかりと対応をせねばならない!

 

 結果、俺は急いで報告に来てくれたローベスさんと合流してから三十分を経過してようやく、政庁へと向かったのだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーー

ーーー


「善い」


 俺は政庁にあるいつも俺が恐縮して座っている、広間の椅子に腰かけている人物を真っすぐに見つめることが出来なかった。


「いや、遅れてしまったのは私ですので」


「そうか」


 ガミィという男は、思ったよりは細身で切れ長の目をしていた。

 そして声はドスのきいた低いものであったが、それを隠すように努めているのが分かる。

 決して、仕事が出来るだとか明るいといった風ではない。どこか政務自体が、ここに来ること自体が面倒くさいといった感じの表情を浮かべている。


「で、トーヤはどうであった」


「どう、と仰いますと」


「阿呆」


 極力、省略したいことはしたいのだろう。

 効率が良い人なのだと思う。

 極力は阿呆なフリをしたかったけれど、この人は隠し立てはさせないぞ、という心構えが垣間見える。


「非常に好評を頂けて良かったです。ここの住民にも、バックスエッジを知って来てくれたという人にも」


「だろうな。美味であった」


 すると、俺の後ろのドアが開いた気がして振り返る。

 ミナリーと、リンが来たようだった。

 こうした話し合いの時に途中で参加することは基本的にご法度ではあるが、相手が相手だ。

 心配したのだろう。

 同じく、離れた所でいつになく真剣なまなざしを向けているカズの側に立った。


「善い仲間をもったな」


「はい。良い住民もです」


 俺なりの嫌味を言ったつもりであった。

 こうした効率の良さそうな人間は、どうして俺を殺そうとしたのだろうか。

 税金を俺が多くは出さないと主張したことで、殺そうというのはコスパが良くない。

 俺は、その疑問を抱かずにはいられない。


「ふん、トーヤよ」


 言ってくれるな、といった感じで冷酷な目を向けている。

 護衛の兵は、カズの隣にいてガミィの座っている周りには誰もいない。これほどがら空きにしている者もいないだろう。腕に自信があるということだろうか。


「何でしょうか」


「お前、ここをどうしていきたいんだ」


 そう言うと、ガミィは立ち上がるなり、ふらっと俺の方へ向かってくる。


 腰には剣も差していない。

 それは俺も同じだ。


 周囲の空気は一瞬にしてさらに凍ってしまった。


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