希望と絶望の距離
「よし!良い感じにできたんじゃないか!」
俺はそういって、無理を承知で頼んだ急造のステージと、区画割を改めて眺めた。
今回は俺もかなり動いていったので、腰が痛い。
とはいっても、設計などは俺ではないのでただ資材を運んだだけだ。
これには、リンの部下たちが大きな力を発揮してくれた。彼らの中には、もともとこうした工作系の部隊にいた者も多く、そうした技術を得た者もいた。
「俺の戦いについてくるとな、サバイバル的な力が身につくんだ!」
なんてのはよく話していたが、全くそのその通りだと思った。
現に、簡易的な舞台を作るだけだったが、ものの二日で完成した。
中にはもうバックスエッジに来たという人もいて、この見事な完成具合に舌を巻く人たちもいた。
「もうちょい時間があれば、もっと良いのが作れるんスけど」
そう言いながらバックスエッジ一の棟梁でもある『オーカ建設』の棟梁がやってきた。
ごめんね、と謝ってくるものの。むしろよくこれだけのことをしてくれたと思う。
「いやいや。むしろありがたいです。こっちが無理を言ってしまったことなので」
「ああ、構やしねえっすよ」
「他にも仕事を抱えていたでしょうに」
「なあに。こいったことをやって、初めて一人前の大工になれるってもんだ」
「あ、そうそう。お詫びはちゃんと致しますので」
「なあに?!」
急に声のトーンが大きくなる。
カズとは違うものの、その迫力に圧されてしまった。
「な、なんかありましたか!」
「そんなもん受け取れねえって。今回は報酬もなしで良いからよ」
「ええ! そんな。向こうの方もやってもらったんですから」
「いやいや。これは俺たちなりの御祝さ。みんなもそのつもりでやってんスから。それだけ、領主ンことが俺たちァ大好きっすっからね」
「そんな……。どうもありがとうございます」
周りの人たちも、口々に
「俺たちもええからよ」
「代わりに明日は目いっぱい楽しむぞお!」
「よっしゃ! 領主に乾杯!」
「あはは……どうも~」
そうやって、体育会系の人たちとの話も、何とかこなして俺は明日の祭を待つことにした。
その道中も、俺は幾人もに声を掛けられては足止めを食ってしまった。
それも悪くはない。
どこか高校の時にした文化祭のような雰囲気さえある。
しかし、自分がその中心に座して催しをするとは夢にも思わなかった。
まあ、前の時は夢であったんだけれども。
親しい友などのことは一切思い出せない。
それでも、自分がうっすらと何かをしたことや本で覚えたことについての記憶が若干残っていることは不思議なものだった。
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「という訳で。色々な方々から品物が届いています」
「えええ」
「すっごいですね!」
特別会議が開かれていたいつもの会議室。
ローベスさんから、お祝いの品が届いていることを知った。
フェリちゃんは、その品物の名前が呼ばれるたびに目を丸くしては、喜んでいる。
とても貴重な帝都の絹などが贈られたという。
他にも工芸品などだ。
「硯を入れる箱なんて、価値が全くもって分からないんだけれども」
実際に色鮮やかな金色と朱色の波が、黒を基調としたその箱には描かれていた。
そして、銀の粉みたいなものが雪を表しているのか、ふりかけられていてとても幻想的だ。
「ざっと、二百万ゴールドはするかと」
「はい!?」
何という代物か……。
そんな物の名前とは対称的に、贈ってきた人物の名前にいちいち反応しては難しそうにしているのは、ミナリーでもあった。
この間は宰相としてほぼ陳情を受け付けるなどし、人手不足となった場所を補ってくれていた。
「っとに、どこでそんな貴族たちと知合ってきたのよ。中にはうちの親族までいるわよ」
「そうなの? その際にはよろしく言っといてね」
「そんなん会えるわけないでしょ」
「え、そうなの?」
「さしずめ、あんたが皇帝と会った時にでも話したんじゃないの?」
「ああ」
そういえば、挨拶と言うか表彰? が終わった後に、皆が俺にサインやらなんやらを頼んできたりしていたっけ。その時の人たちか? う~ん、しかし顔が思い出せない。
「そして、もう一人。厄介な人物も」
「厄介な?」
「ユーチェ・ガミィ」
「「「な!」」」
皆が一様にその言葉に反応する。
「ローベス、それは本当か!」
リンに至っては、刀をもう抜かんとしている程だ。
「うぬうううううう! どんなつもりで」
「そうですよ! 何ですか! その水を差すような行為は!」
カズはまだしも、フェリちゃんまでお冠だ。
「ん。許せない」
マイちゃんまでも?
一体、何ですと。
「はあ……、あんたご愁傷様ね」
「いや、だからそいつって誰?」
贈り物を届けてくれたというその人物。
皆が一瞬で息を詰まらせた。
「中は! 中は何があ!」
カズがそうローベスさんに食って掛かる。
まあまあ、落ち着きなされ若者よ。
「財宝。それも正真正銘。ちゃんとした、ですよ」
「なあにい!?」
「何か裏があるのでは!」
「捨てましょう! そんなの!」
「送り返す」
皆が一応にそう告げて、贈り物を否定する。
財宝には罪がないのに。
「はい! 待ちなって」
パンっと音がしたのは、ミナリーが手を叩いたからだ。
「まず、こいつが何にも分かってない」
「そうそう。俺何も知らないけれど」
「良い? ユーチェ・ガミィってのは、あんたを呪うように仕向けたと言われている知事よ」
「ほうほう。なるほど……ええええええええええええええええ!」
何かうすうすそんなんじゃねえかって気はしていたけれど……。
そんなピンポイントに!?
「で、どうすんのよ」
「まあ、財宝自体は変な呪詛がないんでしょ?」
「はい。それは、そうだと思います。禍々しい気配は、この周辺地帯にはないはずですから」
フェリちゃんの力はそんなに広範囲なのかと感心してしまう。
もはや、この子も護衛につけても良いんじゃなかろうか。
「だったら良いんじゃない? 好意には甘えちゃえば。だって、財宝捨てるのもねえ。色々と問題になりそうだしさ」
「まあ、そうですね」
皆も渋々といった表情をしているが、納得はしたようだった。
「それとですね。来賓と言うか、何と言いますか。その来るらしいんですよ」
「ん? 何が?」
「いやその。ガミィがですよ」
「どこに?」
「祭に……」
「はあああああああああああああい!?」
俺は、皆よりも焦って大きな声をあげてしまった。
ここに来て、大きなハードルが……出来てしまった。




