ふたつに2つ
祭の準備は着々と進んでいた。
やや悲しいというか、なんというかモヤモヤとしたのは俺がいなくても案外スムーズに話がまとまっているということだった。
祝勝会と言うこともあってか、主に担当はローベスさんと決まっていた。
だからということなのか、俺自身の関与は少なくなっていた。
それでも、忙しい中でこうして報告に来てくれるのはとてもありがたい。
「あとは、おおまかな店の配置などを決めるだけです」
「さすがに仕事が早い」
「まあ、ミナリーもサポートをしてくれましたので」
「ああ、確かに」
ここ最近は彼女のことを見かけていないような気がする。
カズも、設営に協力したりしていてすっかり俺の護衛なのか便利屋なのか分からないようなことになっている。ローベスさんから、お叱りがあるかとも思ったがやはりそうでもないっぽい。
「それ故にわたしはこちらの方に集中できます」
「そうだね~。でも、こんなに大層にやる必要なんてあったのかな?」
「ありますよ! ありますとも!」
「そうなの?」
「ええ。フェリさんの話によりますと、もう連日このバックスエッジには人が来ようと問い合わせの手紙が来ていたり、中にはツアーで旅行に行こうなんていう企画があったりと」
「ええ!? そんな事態になっていたの?」
どうやら、俺の想定していないところで効果があったとは……。
「そうです! そしてトーヤ様のお人柄にも、皆が感銘を受けてくださったみたいで。中には移住をしたいなんて申し出もあったくらいです」
「そ、そこまで! え、それはどうしたの?」
「それは丁重にお断り致しました」
「あ、やっぱりそうなのね」
「はい。さすがに、どこかの領地の働き口を奪ってしまうのは、何かと角が立ちますので」
「確かに。よほどの理由がない限りは厳しいっていうところか」
「そうですね」
そう言って、ひとしきり話を聞いて、そろそろ話を終えて寝ようかという時だった。
「おおおおいっす!」
カズが慌てて駆け込んでくる。
「ん。どうしましたか」
本来であれば、ノックもなくいきなりドアを勢いよく開けたことをローベスさんは注意したと思う。
それを何とも言わないあたり、ローベスさんが丸くなっているのか、カズを絶大に信頼しているのだと思う。
「いやいや。それがよお、なんというのでしょうねえ」
「何だ? 話していいよ」
「ええ。どうやら、予想以上に集客力がありそうとかで。それでこれだけの広さで済むのかどうなのか、これではケガ人が出てしまうかもしれませぬ」
「ぬう。確かに……フェリさんたちに、大まかな予想はしてもらっていたのですが。しかし、これは何としても成功させたいイベントです」
「因みに、今回のメイン会場はどこなの?」
「ああ、それはですね。例の市場です」
「それは、前に俺たちが行ったところ?」
「そうですね」
ううん、と俺は記憶を探ってくる。
確かにあの市場は敷地面積がとにかく広い。
それだけでなく、主要街道の要所ともなっていて、本当に大きな場所である。
「まあ、何せ店もたっくさん出るみたいで、ええ」
カズも頭をかきながら、ばつが悪そうに話す。
いつもの彼の勢いはどこへやら、といった感じだった。
「何か知恵はないものか」
「俺はもういっそ! 定員になったら閉め切っちまうのも手だと思うぞお! なあに、警備は任せろおお!」
「ふむう。それもそうですねえ。まあ、飽くまでもこれはバックスエッジでの祭ですから、それでも経済効果はかなりありますし」
「そうだけれども……」
と言って、先程の話を思い出す。
確か……あの人たちは俺の人柄とか、あの戦い方を見てこんな辺境な地まで来たいと言ってくれていたんだ。だとしたら、こんなところで追い返すようなことをしてはいけない。
「そうだ!」
「「え?」」
「市場の作業はどれくらいで終わりそうなの?」
「もう、明日には! 俺が終わらせますぞお!」
カズは得意げにそう答える。
自慢して力こぶを隆起させるあたりが子供っぽくてどこか笑ってしまいそうになる。
「祭りまではあと三日あるか」
「いや、まさか」
「それが終わった後に! あの入会地になった山の周辺にもう一つ開催地を作ろう!」
「えええええええええ!? そんなまた急に!」
「急だからこそ、俺も手伝う。ちょうど、市場をメインにして、政庁を挟んで入会地の手前に、第二のステージを作ろう」
「今更色んなものを組むのは……」
「いやあ、組まなくていいよ。場所に、ただただ店を並べちゃえばいい。線を引いて区画だけ作ってさ」
「まあ、ただ露店を出すというだけでしたら」
「おおおおおおお! 領主殿! 名案にござる!」
「し、しかし。他にどんな店を?」
「それは市場のメインと被っても良いんじゃない? そういった人たちで、別の場所で売りたいって人もいるだろうし。それに、集会所を作ってさ。椅子と机だけ並べるとかね」
「おお……なるほど」
「ちょっちだけステージみたいのを組んで出し物をしたりしても良いし、そういうのをしているところがあったら声かけてみてよ」
「は、はい!」
「おおおおおおおおお! こうしちゃおれぬ! 某! 今よりメインの方を設営し、いち早く第二の方を手伝いますぞおおおお!」
「あ、ありがとう。でも無理は禁物だからね」
「はい!」
飛びだしていくカズを二人で見送る。
「素晴らしい案だと思います。本当に領主様は突拍子もないことを考えますね」
「そんなことはないよ」
明日からの労働への不安はあった。
それでも、この現状をとても楽しいと思う。
いつの間にか、俺たちを祝う祭から、趣旨は変わりつつあるけれど。それでも、バックスエッジに人が来てくれる。それだけでどこかこの土地の人たちに報いることが出来た。そんな様な気がする。




