異世界転生…じゃない?!
「ここは……」
俺は眠気と闘いながらも、あたりを何とか見渡す。
確かそうだった。
俺はトラックかなにかに当たって、どうにかなっちゃったような。
だけれども手足は動く。
うんうん!
何とかなるかも。いやあ、今の医療ってのはすごいね!
「おおおおおおおおお! 領主さまああああああ!」
耳元で馬鹿みたいに大きな声がする。
「な、ななななんだ!」
声のする方を向くが早いかどうか、すぐにガタイの良いそれが胴を貫いて衝突してきた。
「おぶうう!」
「おおおおお! 本当に領主殿なのですねえええええ!」
うるせえし、それに何より今日二回目の衝突だし何なのよこれは!
いくら心の広い俺とは言え、こんなラグビーばりにぶつけられたらまた死んでしまうかもしれない。
「ちょま、ここって病院とかじゃ」
「おおおおお!」
ダメだ。この角刈りの金髪は俺に縋りついたまんまで、おんおんと泣いている。
こんなの周りの人間が見ていたらどう思うのか……。
て、見とるし!
銀髪の少女がこちらを見ている。いかにもロリロリしいといった感じの子。
その隣には、これまた綺麗なピンク色の髪をした大人の女性といった感じの人も。これは終わったあああ!
「カズ、ちょっと……領主が困ってる」
「おお、すまねえ。でもこれが泣かずにいられるかってんだ! ちきしょおおお!」
カズと呼ばれたこの大男は、少女たちの方を向いたかと思えば、またすぐに俺に泣きついてくる。
これはどういう状況なのだ!
「あの、すでに混乱しているんですけれど」
「そうだよね! ご、ごめんなさい。何も知らないでこんなことになっちゃって」
「うん。領主は何も知らないはず」
「おおおおおおん! そうなのですか領主様あ!」
「え? 何も知らないって? いや、俺の名前は頭山正っていう就活生さ!」
「「「あ~」」」
一同、さっきのテンションとは全く違う。
というよりは、少し悲しい人を見るような目で俺のことを眺めている。
「あ、あれ? それであの、トラックに撥ねられまして、そこからは……よくわからなくて」
口から言葉を紡ぎだせば出すほどに、三人の空気が重くなっていく。
そしてそれがどんよりとしたものへと深化していってしまった。
「領主。まだ呪いが解けていないか」
少女が言う。
「いや、呪いとか全く分からないんだけど。それに、ここはどこ? とても日本の街並みじゃないような……」
そこは荒野と言って良かった。
それでも少し先には豊かな緑が広がっていて、更に行けば農村にもぶつかると思う。
よほどの田舎にしかない光景だった。
化石でも堀りに来たんかいな、こんな所にまで。
「そう、ここは領主様の居たところではないの」
ピンクの少女がそう窘めてくる。
「は?」
間抜けな声をあげてしまった。
「そうなのですううう! 領主殿! あなたは呪いにかけられ、そしてこうやって記憶を少し失っておられるのです!」
「想定はしていたけど、ちょっと悲しいよね」
「うん。でも、良い。また思い出せば」
「そうだ! そうともお! 領主殿であることに変わりはないのさあ!」
三人はなぜか合点したかのように互いに笑いあう。
やべえ、俺は一ミリも理解できねえんだけれど……。
「あのぅ、俺が呪われている、とは何なのでしょうか?」
「それは、このあたしが話しますね? あたしはフェリです、領主様! そしてあなたは、ここ一帯を治める領主様なんです!」
「う~ん、やっぱり一ミリも分からねえ。だって、俺は今就活生であってね?」
「はい! ですから、それが呪いなんです♪」
な、何言うてますのん、この子は。
フェリとか名乗ったこのピンク髪の子は、さらっと恐ろしいことを言ってのける。
「あたしはマイ。領主は、ある人たちの呪いでずうっと眠らされていたの。そしてその間、領主はずっと夢を見させられていたの」
「ゆ、夢? いや、どんな?」
「があああっはっはっは! 何をおっしゃるのですか! 夢と言うのは、今まで頭山殿として過ごされていたこと全てがですよ!」
「えええええええええええ! 何それ! 俺のあの頭山正っていうのと就活生ってのは、夢だったの? 信じられない! だって、あれだよ! 学校とかも通ったし、友人だってすごいリアルで」
「それも夢。領主、完全に呪いの影響を受けている」
マイと言った少女がそう話す。
「リアルすぎでしょ! 痛覚とかありましたよ!」
「じゃあ、領主様。その友人の名前、思い出せますか?」
「当り前だ! えーっと……はてな?」
確かに出てこない。
公園で遊んだあいつの顔も、名前も、特徴も!
「でしょう! 領主殿! それは悲しいことですが、我々が呪いを解きました! さあ! 村へ帰りましょう!」
「信じたくねえええええ! 俺の人生って夢落ちだったのかよおおおおお!」
「領主の呪い、かなり重たい」
「そうねえ。でも、あたしたちの領主様よ! うん!」
俺はふと嫌な感じがして、背中がぞくっとした。
寒気と言うか……。
「あの、もしかしてだけど。俺ってこれからは、ここの世界で、その領主ってのをしなきゃ……ならないのかな?」
「おうです!」
「はい!」
「そう」
ええええええええええええええええええ!
聞いてねえよそんなことおおおおおおおおおお!




