再び栄光を
とんでもないことになったと思った。
なぜか俺たちのことが大々的に新聞で報じられてしまったのだが、それがとんでもない規模にまで発展してしまっていた。
既にバックスエッジの宿舎前には、俺たちを応援しようという人たちが集まっていた。
ここまでとんとん拍子に来て、あと数十分で決勝戦と言うところまで来てしまった。
「ここまでにどんな軍学を学んできたのですか!」
と、どれだけの記者に言われたことだろうか。
その都度、そんなことはない、と否定した。
「そもそも、最初は上手く作戦がはまっただけで。その後はほぼ平地の場所だったので、自力に勝った自分たちが勝利を収めてきただけです」
特に、カズはもう何人もの相手を組み伏せてはそれをやっつけて、リンは素早い動きをしつつも、剣捌きがたくみで相手をなぎ倒していく。ミナリーは俺のそばについて、アドバイスをしながらもやってくる敵を寸でのところで抑えてくれた。マイちゃんは弓で前線や、後方支援と縦横無尽に動いてくれたし、周りをよく見てくれてそれを報告してくれた。
そして負傷した兵士たちを甲斐甲斐しく手当してくれて、すっかりチームの華になったフェリちゃん。
兵士として選抜されたみんなも、経験値が高いので個々の能力も非常に高かった。
つまるところ、俺は指示を出してはいるものの、仲間に救われているということが勝因だ。
というか、カズに至ってはこの国で一番強いんじゃないの……というくらいに強い。
三回戦では、帝国の剣術大会でベスト4になった相手に対して、両肩を掴んでよいしょっと持ち上げてしまうほどだった。
「そんで、ラストはどんなやつよ」
ここまで来たら、もう相手がどんな奴かは関係ない。
とにかく強いことは確かだと思う。
もう既に、バックスエッジの評判は広めることが出来た。
それでも、快く俺たちを迎えて、この前この合戦に送り出してくれたみんなに、朗報をもたらしてあげたいと純粋に思う。
「今度はあんた中々の上ものよ!」
「どういうこったよ」
もう外にはみんなが待っている。
兵士たちも、ここまでの戦いで疲労しているものもいる。
それでも、この名誉の決勝戦までこられたことを誇りに思っているのばかりだ。
故に緊張などはしていなかった。
そう、一番緊張しているのは間違いなく俺だ。
「相手は、スリシップ王みたいね」
「へ? あれ、そうだっけ?」
「そうよ。スリシップ公、なんて言われていたから気づかなかったかもしれないけれども、正確には後続の人間よ」
「えええええええええええ! それを領主なんていって良いの?」
「そうね。現皇帝の祖父の孫にあたる人よ。あんたと同じように若いけれども、今は落ちちゃっているわね。たぶん、ここで負けたら皇族から外されるわよ」
「え。何で?」
「そりゃあもう、皇族なんてたくさんいすぎて、お金が掛かっちゃうのよ。だから血筋の遠いものとかは、必然的に貴族に身分を落とすわけ」
「そうか。だからこそ、この戦いで勝ちさえすれば」
「そうね。皇族としては、名誉が得られるはずよ。故に、彼にも負けられない正義がある」
「ぬうう。某、武者震いがして参りましたぞ」
大丈夫。
カズはいつも通りだと思うから。
そういう目線を彼に送る。
「そうだな。俺も思っていたところだが、実はこの前奴の戦いを観ていた」
「それは抜かりがない! さっすがあ!」
実はそのころ俺たちは、取材やらまた市場の視察などで忙しくしていた。
「スリシップ公の所有する兵は、恐らく帝都の兵だ」
「なにい」
「顔つきだけではない。腕も違う。つまり、皇族ではあるが辺境の地に今は身をやつしているが」
「うん。兵士はちゃんと帝都から派遣され来た者を使ってるってわけだね」
「そうなる」
「これはますます不利になったのう」
カズは顎に指を押し当てて、うんうんと唸っている。
いや、何度も言うがお前は大丈夫。
奴らと渡り合えるから。
「でも、だからこそ面白い。完全に俺たちなんか注目されてなかった。それがどうだ? ここまで皆のお陰で来られたんだ。向こうにだって正義はある。だけれど、俺たちだってバックスエッジに勝利の報告をしたいじゃないか!」
「うん、領主。良いこと言う」
「俺も、あの人たちには恩義がある」
「応! 某もやったりますぞ!」
「まあ、こうも熱くて結構なことね。でもあんたはこういう時にちゃんと成果をあげるもんね」
「でへへ。なんかこういうのに憧れがね。でも、本当に向こうは俺たち以上にプレッシャーがかかってると思う。俺たちは挑戦者の気持ちで行こう。負けたら仕方がない。でも勝てば超凄い!」
うんうん、と皆が俺に視線を集めてそう頷く。
「でも気合だけじゃ勝てないかもよ」
「そう、今回は特に前面に山がある。その脇には川があって、ここを渡るか山を越えるしか……相手の陣地には行けない」
「山に陣取るのが良いけれど、水の手が絶たれるのも嫌ね」
「ううむ。やはりここは、山越えをすべきでは?」
カズの意見も分からなくはない。
一思いに山を越えて敵陣に逆落としをかけるのも悪くはない。
「だが、相手は皇族だ。プライドはあるだろうな」
リンの分析も最もだ。
だからこそ、俺は作戦を考えた。
「皆聞いてほしい。今回は山が左手から正面にかけて。そして右側には川がある。決勝と言うこともあって、今までよりも広い。問題はどこで兵がかち合うか、なんだ」
「そうね……」
「つまり、広く展開しすぎると、兵がつくる陣は薄くなってあっさりと抜かれてしまう。逆に、前方で塊すぎてしまうと、敵を視認できずにそのまま索敵したままで、本陣に来られてしまう。仮に俺がそこにいなくても挟み撃ちの状態になるから」
「ならどうすんのよ」
「この戦……。一つだけ案がある」
俺は胸に秘めた、一か八かの考えを実行する準備に入った。
泣いても笑っても、これで最後。
バックスエッジの民の代表者として、彼らの期待に応えよう。そう思うと、緊張はどこかへ消えていた。




