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決戦前夜!

 帝都の繁栄さたるや、素晴らしいものだった。

 人、モノ、金がそこにはすべて揃っているようだった。

 市場、などという規模ではなく、都に入った瞬間にどこもかしこも露店と言う露店が軒を連ねていた。


 『紺屋 利重』などの染め物の高級専門職人の店などが多く揃っていた。

 この町で暮らしていくには、相当な金がかかるなあ。

 などと感慨に耽っていたにもそこそこに、俺たちは帝都の郊外へとさっさと戻っていった。


 それもそのはずで、約三十ほどの領主が今回は参加をしているという。

 単純に、一人の領主が百人程度の人間を従えてきているのなら当然それだけで大変なことになる。

 故に、帝都をぐるっと回って、どちらかというと隣町に近い広大な場所が待機所として選ばれていたのだった。なので、俺たちは帝都の市場視察という名目でほんの少しの間だけ、市場やそれを組織している大徒だいとといわれる役人の話を聞いたりした。


 カズ、フェリ、マイ、リンの四人を従えていた俺は、敢えて帝都を横切って今夜の宿泊地へと向かった。


_______________________________

_________________

____


「受け付けは済ませてきたわよ!」


 俺たちは『バックスエッジ様』と書かれた一室で作戦会議を行った。



「ん、ありがとうな」


「えへん!」


 自分が一番盛り上がってんじゃねえかよ、と言いたくなった俺。

 しかし、この一室は会議をするのには十分すぎるほどの広さであった。

 ここも、昔の司令部があったところらしく、収容人数はかなりのものだと担当者が話していた。

 そしてここの近くには兵舎がある。

 三千人なので二か所に分かれているらしいが、トーナメントの振り分けに便利なようになっているらしく、運営には支障がなさそうだった。


 さすがに二十年ごととはいえ、イベントごととしては大きいほうなのでこういったことも考えられているのだと思う。これを運営する担当者はきっとすごい切れ者に違いない。


「いやあ、しかしだよ! 疑問と言うかね! 納得がいかんのよ!」


「へ? 何のよ」


「何のよじゃないでしょう! 俺が指揮を執らなきゃならんってことよ!」


「良いじゃないか。所詮は祭りだというようなことを、ずうっとここに来るまで言っておったではないか」


「いや、そうだけれども……。リンさんにやってもらうのが……よろしいかなあ、なんて」


「ははは! 断る」


「何で!」


「カズは納得いかんだろう」


「応! 某は殿の指揮で戦いとうございます!」


「あはは……。カズさんは本当に領主様一筋ですから。でも、あたしも領主様の恰好良い所を見てみたいなあ、なんて」


 フェリちゃんまでがそんなことを言う。


「待て! まだマイちゃんがいる。マイちゃんの意見も聞こうじゃないか」


「ん、領主が良い」


「ほおら! 聞いた? ね、聞いた? 領主『が』良いって言ったのよ! 領主『が』じゃなくてよ? あの大人しい子がよ? これはもうあんたしかないわよ! いい加減腹ァ括れ!」


 ぐうう……、そこまでとは……。


「わ、分かったよお……。まあ、学級委員くらいは向こうでもしてたから。その延長戦だと思えば……」


「「「ジローーーーー」」」


 皆の目線が痛い。

 いやいやトーヤ、それは違うぞ、とでも言わんかのような目。


「あ~あ。どうしようっかな~。明日のお昼からだよね?」


「そうよ。第二試合。相手は、どちらかと言うと帝都に近いロケデって土地の領主よ」


「その人はどんな人なの?」


「さあ? でも、父親は代々平凡な領主だったみたいだけれども、母親が名家の出身らしくてね? 左大臣の姪っ子だったとか。それで一気に力をつけて、ロケデの他にも飛び地でいくつか領地を獲得しているわ」


「ええ……。そんな奴かよ……」


 あまり良い相手はしないけれども仕方がない。

 めいめい、作戦という作戦よりは帝都には何があったとか、戦いが楽しみだとかそちらの方で意気揚々としていた。


「あのお……。作戦は……」


「なあに、出たとこ勝負だ!」


 リンはそう言えるけれども……俺はそれで、そっか! ありがと! なんて肩の荷が下りたりはしない。


「じゃあ、そろそろ寝ましょ! 寝不足は敵よ!」


 今の敵は味方の皆だよ……とでも言いたげな目をする。


「あの、わたしは何にも出来ないんですけど、応援してますね!」


 フェリちゃんは優しいのう……。


「さあ、女の子は女性宿舎に行くわよ~」


「殿ォ! 我々は今日! 隣同士で眠りましょうぞ!」


「ああ、うん、そうねえ……」


 あ、でもこういう時って、好きなことかを言い合う、修学旅行のあれに似ているな!

 女性陣はミナリーの先導でさっさと行ってしまった。


「なあ、カズ。聞いて良い?」


「なんなりと!」


「好きな人いる?!」


「殿です!」


「あっりがとう!」


 そりゃそう言うよねえ、と思いながらも少しこのカズの変わらないテンションにどこか俺は救われたのだった。


_____________________________

_______________

___


「あががががががが」


 俺は二戦目だったので、最初の試合を観覧していた。

 が、これはどうだろう……。

 ガチの合戦、戦いだった。

 指揮系統がきちんとしており、この日のために設けられた観覧席からは互いの軍の動きが手に取るようにわかる。


 こりゃ偉いことになった……。


「あのお」


「ん?」


「俺はもっとこう、喧嘩に近いものを想像していたんだけれども」


「それはもっと乱戦になって指揮が乱れてどうしようもなくなった時じゃない?」


 ミナリーは戦場を見てきたかのようにそう告げる。

 残酷だ。こうなることは目に見えている。

 他のメンバーはというと、既に兵たちと合流して待機している。

 ミナリーだけが隣にいて腕を組んでいる。


 うう……。

 腹いてえ。

 宿舎から、この合戦場へと来るまでの道のりは平たんなものだったが、俺にはもうその道すがらずっとこれこそ夢であってほしいと願った。


「やあ、君がトーヤかい?」


「あ、はい」


 そう言って振り返る。

 煌びやかな青の模様で竜が掛かれていて、銀色の磨きのかかった胴を身に着けている。

 胸には赤いバッジ。

 これがこのお試し合戦の領主であることを表している。

 そしてこのバッジが相手の手に渡った時点で、勝敗が決まる。

 つまり、この人物は……。


「次に君とやる、ロケデの領主だ。ローズウィクスだ。ローズと言って構わないよ。よろしく」


「ああ、こちらこそ。バックスエッジのトーヤです」


 と、手を伸ばそうとした瞬間。

 慌ててローズは手を後ろに回して引っ込めた。


「ああ、すまない。一応ね。念には念を入れてさ」


「そうですね。わかりますわかります」


「気を悪くしないでほしい」


 とんでもないキザな人だなあ、と思う。

 でも根は悪くないんだとも感じる。

 確かにそういえば、後ろには護衛と思しき者たちがざっと七人はいる。

 

「じゃあ、またあとで。正々堂々と」


 そう言って、彼は周囲をまたきょろきょろとしながら、観覧席を降りていく。


「か~! あれぞいいとこのボンってやつね」


「ミナリーがそれ言う?!」


「どういう意味?」


「でも、確かに高貴な感じはしたかな? それに」


「それに?」


「ちょっといいこと考え付いた!」


「ええ?」


 ミナリーが目を丸くするのと同時に、大きな太鼓の音が何度もする。

 一回目が終わった合図だ。


「さあ、行こう!」


 俺はニヤッと笑ってミナリーに合図すると、みんなのいるところへと急いだ。



 


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