言葉で伝え
俺は待った。
待つことは元から得意なほうではないけれど、それしかないのだからと諦めている。
それにしても、時間が長く感じてしまう。
「やっぱり、いきますか」
やけにカズの声がおどろおどろしく思うのは気のせいではあるまい。
既にミナリーが盗賊の籠る根城へと向かってから、三十分が経つ。
俺はある意志を持ってここに来た。
これだけの兵を連れて。
常備兵と、義勇兵を合わせて三百にはなると思う。
敵は百くらいらしいから、数の上では圧倒的にこちらが有利である。
そして、ミナリーが穏便に行くように説得をすると言ってから、それだけの時間が経ってしまった。
「まだ早い。それに……」
「それに?」
「いや、何でもない」
横顔からは不安そうな感じをするカズが、こうも馬に乗り鎧をまとうと、ひとかどの武将の顔つきになるのだと知った。いや、正確には「改めて」知ったのだと思う。
「まだ少ししか経っていない」
そうマイちゃんもフォローをしてくれる。
うう、この時代にはろくな時計がないから、いちいち聞かなければ分からない。
それが余計にやきもきとさせる。
「さっき」
「ん?」
「さっき、ミナリーに何話した」
「ああ。そうだね。抵抗だけはしないようにって」
「そんな! いざという時はどうされるおつもりで!」
「その心配には及ばないさ」
「しかし、盗賊で……」
「奴らには、くさっても自尊心がある。もしも和平の外交使者をひどい目に合わせただなんてなったら、面目丸つぶれさ。それこそ盗賊に成り下がっちまう」
「いや、すでにもう……」
「何か、考えがある。領主には」
マイちゃんはそういうと、この山にある砦を見つめた。
「こんな場所にあるとはな」
そこは、昔、早馬を繋ぎとめるための駅があったらしい。
馬がいて、そこには駅長もいた。言わば、交通の連絡を請け負う人たちだった。
国から派遣されていたらしいけれど、交通の要所が移ったことで跡地だけが残されたという。
「あ! か、帰ってきました!」
兵がそう告げる。
遠くからだが、ミナリーが軽い足取りで帰ってくるのが見えた。
他の人たちからも安堵の言葉が聞かれた。
「まずは第一段階」
「ってとこね! 頭目はあんたに会ってくれるそうよ。感謝なさい」
「ありがとう、じゃあ行ってくる」
「え、ちょっちょ……どこへ」
カズが慌てて俺の服を引っ張る。
下馬しようとしているんだから危ないじゃないか……。
「何って、向こうさんは俺をご指名なんだ。光栄なこった」
「いやいや、そうじゃなくて。領主殿は自分から死地へと赴かれるのか!?」
まあ、これも当然のこと。
だからこそ、ローベスさんを抑えるようにフェリちゃんにお願いをしたわけで。
こんなことしたら、また叱られるからね。
「まあ、俺をなんかする気なら、もうミナリーちゃんは帰って来てないんじゃないかな?」
「そういう……ものですかあああ!」
心配そうにするみんなに、一応笑いかける。
俺が一番怖いんですけれどもねえええええ!
でも大丈夫……ミナリーは帰ってきた。それに彼らはプライドがあるんだ! だまし討ちはしないはず!
だよねえええ!
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カズのやつは暴走していないだろうか……。
一応マイちゃんとミナリーにお願いはしてきたけれど、こんな一人で行くなんて、言われてみりゃあ捕まりに行くようなもんだよなあ。
俺はゆっくりと道なりに上がると、赤い門に辿りついた。
そして出迎えてくれたのは……。
「よう来なすったのう」
眼帯を付けた……ロリっ子だった!
え、なにこのツインテール……。
かわええ。
「僕が、この一団を束ねる。リン。よろしくね、トーヤさん」
うそおおおおおおおおおおおおん!
こんな子がああああああああああああああああああ!
ミナリーいいいいいい!
俺は聞いちゃいないぞおお!
こうして俺は、リンというこのロリっ子とそのお供に、がっつりと両脇を固められて砦へと向かった。
その道中は、無言でしかない……。
俺はどうなっちまうんだよおお……。




