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新たな種火?

 ミナリーちゃんはあれから、あっさりと故郷に手紙を出すと、すんなりとOKが出たらしい。


 手紙には、娘をよろしく頼む。というこれまた丁寧な字が綴られていた。

 どこか豪放磊落な人だとは思う。あっさりと年頃の娘をこんな田舎に送って勉強? させようというのだから、きっと豪胆な性格でなければそれは出来ないと思う。


 まあ、どこかそんなところをこの子も受け継いでいるのだろう。

 彼女はまさに自由奔放と言った感じで、このバックスエッジの至る所を見て回っていた。


 俺よりも詳しいんじゃないだろうか。


 そして取りあえずは、本人の希望もあって渉外担当の任務に就いてもらった。

 もともと、外部とのやりとりはローベスさんの領域でもあったので、少しでも負担が減るのならばそれに勝ることはない。


 少なくとも、知事たちから信任を得て、派遣されたのだ。多少の力はあると思う。

 たぶん……。

 まあ、それを言ったら俺自身なんもしてねえじゃないの、て話なんだけれどもね。


「ちょっと! フェリちゃんが呼んでるわよ」


「え?」


 俺は、書類に判子を押す手を止めた。

 

「あんた、何やってるの?」


 声の主はまさに考えていたミナリーだった。


「ええっと。判子を押してたよ」


「はあ? 何その仕事。パパもそうだけれど、何か良く分らないわね。それが仕事なの?」


「一応目は通してるよ。銀行のこととか、収入の報告とか」


「でも、あんたは何もしてないじゃない?」


「まあ確かに……でも先週に巡察はしちゃったから。今日は籠ってやろうかなって」


「そう、イケメン眼鏡から言われたの?」


「あ、うん」


 そう。この判断は俺のものではなく、散々横道にそれまくって色々なことをしまくってしまった俺への戒めのようなものだった。


「で、ミナリーは何を言いに来たの?」


 未だにこの言い方には違和感がある。

 仰々しい言い方が嫌だ、というミナリーと、ここで働く以上は俺が領主なのだからとローベスさんが言ったことであっさりと敬語で話すということがなくなった。



「さっきフェリちゃんが何か陳情があったって」


「ああ、そうかあ」


 陳情は日によって数件あったりするし、全くない場合もある。

 むしろここでは、住民同士のトラブルもほぼないし、そういったことには苦労していなかった。

 それだけに、何のことだろうかと思う。


「直接フェリちゃんから聞いたの?」


「そうよ。結構深刻な話だからって」


「それを何でミナリーちゃんが知ってるわけ?」


 ミナリーは渉外、つまり外交系を担ってくれる。

 それに対して、フェリちゃんは受付事務をしている。どこで交わったというのだろう。


「今回の事はどうやら、あたしにも関係してるってことじゃない?」


「フェリちゃんの判断で?」


「そうそう! あの子、あとからあたしを交えてあんたと話がしたいって言ってたし」


「そうか。なら分かった。彼女の仕事が終わり次第、こっちに来てもらって話をしよう」


_____________________________

________________

_______


「山賊?!」


「みたいです……」


 丁度、隣の村々との境界線にどうやら山賊? の一派がいるという。

 

「ある農家の夫婦の人たちから話がありまして……」


「そしていてもたってもいられずに、突っ込みに行ったと?」


 と、ちょっと照れながら頬をかいている大男を見る。


「うおおおおおおおお……申し訳ありませぬ! ついつい、いても立ってもいられず……」


「まあ、良いけれどさ。その怪我は大丈夫なの?」


「はは! 少々力みすぎましたね!」


 馬を駆って出たのは良いものの、それが普段自分が乗っている馬ではなく、操るのに苦心した結果、見事に放り出されてしまったらしい。しかも、そこが傾斜になっていて、余計に傷を負ってしまったとか。


「はあ……」


「そんなあ、ため息を吐かないでくださいませええ」


「そうじゃなくて。良いかい? カズは大事な仲間なんだから。勝手に飛び出して取り返しのつかないことになったらどうするのさ」


「おおおおおおおおん! 領主殿! そこまで心配してくださるとはああああ!」


 男泣きを始める。


「この木偶は大丈夫なの? 心配だわ」


 ミナリーは腕を組んで、やれやれと言った風にしている。

 顔には似合わずに貫禄がある。

 これが都会で鍛えられた技と言うか、豪胆さなのだろうか。


「まあ、いつものことですから……」


 今日はローベスさんが巡察で一日帰ってこない。

 とはいえ、明日には帰ってくるだろうし、早馬で今回のことも既に知っているだろう。

 とすれば早く帰ってくることも想像できる。


 フェリちゃんは笑顔でカズを慰めていた。

 良いお嫁さんになるぞ、フェリちゃん。

 少し目線が合ったかと思うと、彼女はさっと目線を外した。

 なんでええ……。


「それでローベスさんはいないし、カズを追ったり連れ戻したりとみんな忙しくてフェリちゃんがミナリーちゃんに伝えてくれたんだね、今回のことを」


「はい! それに、ミナリーさんはわたしたちよりお若いのに大役を仰せつかった方なので。力になれるかなって」


「フェリとか言ったわね!」


「はい……」


 その声のトーンにフェリちゃんは一瞬たじろいでしまった。


「あなた、大物になるわよ! 胸じゃなくね!」


 そう言うと、フェリちゃんは恥ずかしそうにして両手で胸を隠した。

 おいおい! なんてことを言うのだ!

 俺っちも凝視してしまうじゃないか……。


「おら、変態」


「……」


「あんただよ!あんたしかいないでしょ!」


「ん? ああ、あ、俺?」


 どうやらそうらしい。


「今回は、調査が必要ね」


「というのも?」


「大男ともさっき話したの。農民の人の話では、物取りだけしかしないそうなの。それも少ない物量よ


「どういうことだ? 相手は盗賊で、農家の人たちを襲って物を奪ったんだろう?」


「そう。でも、すべてが盗まれたわけではないの」


「残されていたものがあった?」


「そうね。それも、きっかり十五分の一」


「六、七パーセントか」


「そう。米とかね。奪われてるのよ。倉庫にあったうちの十五分の一ね。周りのところもそうだったみたい。被害に遭ったって人たちがね、そう話してたの」


「そんな前から起きていたのか」


「みたいね~」


 それが続いたので、ここに助けを求めてきたのだろう。

 しかし、ただの盗賊とも思えない。


「何でその十五分の一しか奪っていかないんだろうな。それってでも……」


「ここで徴収している米の利率と同じみたいね」


 そう言われてドキッとする。

 この子はあの短期間でそこまでのことを頭に入れている。

 カズはそうか、といった感じで手を合わせている。

 ただ、カズは職業軍人なのでそういった年貢を納めなくてよい特権を持っている。

 フェリちゃんは気づいていたのだろう。

 深刻そうな顔をしている。


「年貢でも取ったつもりなのかね?」


「ふふ! そうかもね! でもトーヤ!」


「は、はい」


「ここはあたしに任せてみない?」


「え?」


「あたしの実力と、トーヤの知恵があれば! 昔みたいに解決よ!」


 それからミナリーは部屋にこもって情報を集める指揮を執ると言って行ってしまった。

 昔のことはわからないけれど、どこか不思議とこういったことがあったような気がした。

 しっかし、次から次へと問題が発生するな……。


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