始まりは雨…?
悲しい空だった。
この雨はきっと、自分のために流してくれている天の恵みなのだろうと思った。
「そうだなあ。これじゃあちょっと難しいかもしれないねえ」
そうやって彼らは言った。
要するに面接で不合格だったということ。もう、こんなことは何回目だろうか。
涙が出そうになる。
高校を卒業してから働いた会社は半年で倒産。
一念発起して大學に進学したが、その先の就職活動で足踏みをして留年してしまった。
「ああ、もうこんな日には上を向いて歩くしかねえな~」
涙がこぼれないように、とはよく言ったもの。
結局のところは雨が急に降ってきて傘がないというだけだった。
「もうだって~、どうでもいいもの~! 俺っちは~!」
勢いに任せて真昼間から声が出る。
でも大丈夫。
なぜなら、雨音で俺の歌をかき消してくれるから。
一人暮らしをするようになって、ますます独り言は増えていき、勝手に何かしら口ずさむことが多くなった。
「ああ、雨音が近づいてくる」
さー、という音は次第に音を増していき、ごおおおおんという地響きにもならない音になって自分に近づいてくる。
「これからどうしようかな~。まあでも、どうにかなるっしょ! そうそう! これでくじけちゃいけねえ! 次だ次! 気合入れt」
バシイイイイイイ!!!
「あ、ぐあ……」
全身に力が入らないばかりか、どうにも頭から汗がとめどなく流れ出している。
(え、ちょ……)
声を出そうとするも、それが出来ない。
逆に喉がヒリヒリと痛むようだった。
「ああ! はい! 急に歩道から飛び出してきて! はい!」
「おい! あんた、大丈夫か!」
「もう救急車は呼んだのかよ!」
色んな人が駆け寄って来てくれているのがわかった。
(それにしても、これ俺……事故ってやつだよな)
「まさか急に飛び出すとは……」
「ああ、俺はなんてことを……兄ちゃん! 大丈夫かよォ!」
「上ばっか見てたからなあ。でも今は止血だ!」
(しかもこれ、俺が上向いてたうちに車道に飛び出してたパターンじゃねえか……)
これでは何とも申し開きのないことだと思った。
(運転手さん、申し訳……ない、あなたの責任ではないです、よ)
ああ、意識が遠のいていく。
やはり色んな声がする。
それが頭の中でこだまのように響いてくる。
視界ももう見えない。
(お、俺……。さっき頑張るぞい、って言ってたばかりなんですけど……)
体が軽くなった。
そうか、これでとうとう俺も……。
綺麗に、憑き物が取れたようにいい気分になり、俺はその流れに身を任せた。




