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 青い天国からの脱出についての考察



 千紗を家まで送り届けて僕は部屋の中でごろりと横になった。アレは一体なんだったのだ?全ての真実は?千紗はあのおかしくなったことは覚えていないといった。ひょっとしたら僕一人の妄想なのかも知れない。だけどあの絵にはしっかりとAILという文字が浮かんできたままだった。あの絵が…あの絵は絶対に千紗の何かに関わっている。そういう気がした。だけど確認のとりようもないし真実を知っている人間も知らない。それに日崎美沙。一体何がどうしてこうなったんだ。あのとき千紗の指は十本べたりと床に転がっていた。日崎美沙じゃあるまいし指が再生するわけがない。つまりまともな頭で考えれば絵から文字が浮かんできたまでが真実だということだ。いやそれすらも有り得ない話だが。

 だけど、それは僕の住むこの世界に大きく関わっているはずなのだ。

 僕は考えをまとめる為に窓を上げた。一度頭をすっきりさせなくては。窓の外は夜だというのに壁はまだまだはっきりと見える。

 壁。そういえば門番のマスレと名乗った男。あいつは何もかもを知っているのかも知れない。壁がある理由もなにもかもを。ちょうど明日は学校休みだったし、僕はマスレに訊くことにした。あいつは不気味で怖い人間だったがそれ以上に今日あったことの方が気になったのだ。


 次の日の朝僕は早速マスレと初めてあった壁に向かった。だだっ広い草っぱらだけでなにもありはしないし、マスレがここにいるという保証もなかったがそれ以外はない。この前マスレとあったときに襲われたあのぐにゃりとした感覚にまた陥ると思うと気分は進まなかったがマスレは確実になにかを知っているのだ。

 それにしてもあいかわらず壁は大きな存在としてこの場に存在していた。真下から見上げると頂点の位置が掴むことができない。そういえばマスレがこの壁は決して壊すことができないといっていた。僕は足下から手軽な拳ぐらいの石を拾うと少し距離をとって思いっきり投げつける。

 ガツン、と石は跳ね返ってそこらに転がる。僕は近寄ってさっき石が当たった場所を見ると本当にキズ一つ付いていなかった。さっき石を投げつけたのがウソみたいにだ。

「やれやれ、この前いったことを忘れてしまったのかい。その壁は壊すことは無理だって」

 後ろから声がして僕は振り向いた。マスレはこの前と同じ真っ黒なワイシャツに真っ黒なチノパン。ワイシャツなど長袖なのに暑くはないのだろうか。

「久しぶりだね。佐藤君。二ヶ月ぶりかな」

 マスレは笑った。だがこいつの笑い顔ほど悪意を感じるものはない。

「睨まないでくれ。僕は直接君に恨まれるようなことはしない。」

「マスレはなんでも知っているのか?」

 自分でも趣旨がよくわからない質問だった。マスレは口の端を少し吊り上げた。

「ふぅ・・・愚問だね。この世界のことをなんでも知っているのは君の方だろう。」

 どことなく今日のマスレは芝居がかっていた。

「その言葉の意味がわからない。僕は壁のことを知らなかったし」

「おっとそこでやめてくれ。最初にいうけど、君は知らないんじゃなくて忘れているだけだ。それにそんな目をしたって僕にしてあげれるのはタバコでわっかを作ってやることぐらいさ。君自身が全部決めないとね」

 そういうとマスレはポケットからタバコを取り出すとなれた手つきで火を点けた。

「吸うかい?」

 マスレがタバコを差し出してくる。僕がそれを口にくわえると火を点けてくれた。

 僕は大きく煙を吐いた。

「初めてあったときと逆だな」

 それにマスレは不思議そうな顔をした。

「…なんだ思い出したか」

「なにを?」

「僕は初めてあったときに君にタバコを貰ったんだよ。そういうことをさ」

 僕はぼんやりとかすみがかった記憶の中を探った。

「…わからない」

「ふぅん、まだ虚側の方が強いんだね。」

 マスレはわけのわからないことをいう。

「で今日はなにか話があったんだっけ。僕の秘密なら教えられないけれど」

「青い天国からの脱出のこと」

 マスレは眉をぴくんと上げた。

「へぇ。それがどうかしたのか?」

「あれを千紗に見せたら…」

 僕は美術館であったことを説明する。

「なるほどね。君の世界はそうなのか」

「僕の世界って世界には僕以外にもたくさんの人間がいるだろ。」

「そんなことはない。この世界には君しかいないよ」

 マスレはそういうことをいった。

「じゃぁ目の前にいるのは誰なんだよ」

「僕自体が影なのにそれのさらに影。だからもっとも存在が薄いのさ」

「何をいっている?」

 僕はマスレと喋ると全然会話にならない。マスレは自分の知っている事実に基づいて喋っているのだろうがそれは僕の知らないことなので会話としてはまったく意味が通じない。

「君は、一つ目を見つけた。この世界に何個あるかは知らないけれど、それを全部集めて考えればいい。そうすればこの世界の本当がわかるよ。最後に叫んだ君の言葉を僕は一応考慮したんだ。歯車識とはいえどれだけ介入できるかはわからなかったけれどハザキレイナに嫌われたくはなかったしね。だけど、ちゃんと道は二つ用意させて貰うことにした。本当はもう関係ないのだけれど。僕は口を出さない。ハザキレイナがやっただけの行為を僕も君にやる。僕とハザキレイナは対だから。ハザキレイナが歌を教えたので、僕は少し、真実を見せてあげた。まぁあんなにデフォルメされたらなにがなんだかわからなかっただろうとは思うけど。それは関係ないんだ。結局この世界の舵を取るのは僕でもハザキレイナでもない。この世界の王は君だけなんだから。」

 …マスレは自分のことばかり喋っていた。それでもつまり…

「昨日の出来事はお前の仕業ということなのか」

「いや、正確にいうとそうじゃない。君が起こしたんだよ」

「じゃぁ昨日みたものはなんだったんだよ」

「君が忘れてる記憶から歌を引っ張ってきただろう。君にとってのかつての喜びを。そういう歯車の回転に対応してハザキレイナは歌った。同時に君の痛みも歯車を回してそれを僕が具体的に示した。それがあの映像ってことだよ」

 あいかわらず要領を得ない。

「というか、僕とハザキレイナは基本的に積極的に君には関わらないんだよ。そういう約束だし、だからもう今日は去った方がいい」

 そういうとあのときのように強制的に視界がぐにゃりと歪む。そして気が付くとまたあのときのように草むらに倒れていた。

 なにが真実なんだ?だがマスレの言葉を信じるのならハザキレイナ、あるいはマスレと積極的に接触することがこの世界の真実を知る近道なのだ。壁のあり方やそういうものを全て知る為に

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