両替機
休日、日曜日。
私は娘と一緒にデパートの屋上に来ていた。
ノスタルジックな雰囲気を残した場所といえば聞こえは良いが、時代に取り残された感じのする空間だ。
私はそんなに嫌いではない。
そんなデパートの屋上にあるゲームコーナーに、私と娘は足を運んでいる。
10円玉を入れて遊ぶゲームを中心としたレトロなゲームばかり。
今どきの流行からすれば、随分とかけ離れた機械。
ルーレットゲームや国盗りゲーム。ほとんどがボタンを押すだけの単純なゲームだ。
そして、10円玉1枚から遊べるラインナップは私のお財布にも優しい。
ゲームコーナーに足を踏み入れた私と娘が最初にすること。
私は娘に100円玉を渡す。
まずは両替だ。
私は娘に良く見えるようにして、100円玉を両替機へと入れる。
10円玉が10枚、取り出し口から出てくる。
「うわぁ」
娘が感嘆の声を漏らす。
私は近くに置いてあったカップに10円玉を入れる。
「さっき見た通り、100円玉入れてみよう」
私は娘の手にした100円玉を指さして、その指を両替機の投入口へと動かす。
「うん」
娘は何故か緊張した面持ちで、握りしめた100円玉を投入口に持って行く。
小さめのサイズの両替機だったおかげで、娘は背伸びしなくても手が届く位置に投入口はある。
100円玉が投入口に吸い込まれ、代わりに10円玉がダダダッと音を立てて払い出される。
「はい、カップ」
私はカップを一つ娘に手渡す。
娘はそれを手にして、取り出し口から10円玉を1枚1枚カップへと移していく。
取り出し口から全ての10円玉を取り出した娘はカップの中を覗く。
「いーち、にー、さーん、・・・・・・」
中にある10円玉を数え出す。
「じゅう!」
数え終わった娘は満足げな笑顔をこちらに向けた。
「よし、じゃあ好きなゲームで遊ぼう」
そう言うと娘は一目散にゲーム機に向かう。
娘の向かったのはルーレットゲーム。
盤面のルーレットに数字が書いてあり、光のルーレットが止まる数字を予想して、そこにベットして遊ぶゲームだ。
当たるとメダルが出てくる。
私は娘が視界から消えないよう気をつけながら、他のゲームで遊ぶ。
選んだのはパンチングゲーム。筐体に付いている大きなボタンを叩いておもりを打ち出して、当たりに止まれば景品が貰えるゲームだ。
1回30円だが、当たりの場所に止められればポンカンアメが貰える。
私が30円を入れてボタンを叩こうとしたところで、何かが肩に触れる。
振り返ると娘がいた。
「どうしたの?」
私は聞く。100円分使い切るにはまだ早い。
「おとーちゃん、100えんちょうだい」
娘は無心する。
・・・・・・これは、あれだ。おそらく、10枚全部1ゲームでベットしてしまったって奴だろう。
私は、ちゃんと説明しておけば良かったと少し後悔する。
「あのゲームは1枚ずつ入れて遊ぼうね。それならたくさん遊べるよ」
私はポケットに手を入れ100円玉を1枚取り出すと、娘に手渡した。
「おとーちゃん、ありがとう」
娘はぱっと笑顔になり、受け取った100円玉を持って両替機に向かった。
私は、娘がまたゲームに向き合ったのを確認してから、パンチングゲームのボタンを叩く。
打ち出されたおもりは当たりから少し下の部分で止まった。はずれだ。
娘がどうしているかと娘の遊んでいたゲーム機の方を見ると、そこにはもういなかった。
どこに行った?と周りを見渡していると、不意に肩を叩かれる。
娘だった。
「おとーちゃん、100えんちょーだい」
またしても娘の無心。
ちょっとペースが速い。
「もう使い切ったの?あんまり無駄遣いしたら駄目だぞ」
そう言って、私は何気なく娘の持っていたカップに目を遣る。
そこには大量の10円玉が残っていた。
「あの『りょうがえき』ってゲームがおもしろいの」
娘はたくさんの10円玉が払い出されるゲームがお気に召したようだった。
良くある話(短編的に)