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裏野ドリームランドの怪〜真夜中の子供たち〜

作者:ミカ=エル
裏野ドリームランド

某県の海沿いの町にある数基のジェットコースターと大観覧車がウリのかなり広大な敷地を持つ遊園地だ。
若者の街であり海沿いという立地から警備員やスタッフの人数も多い。
また、人が集まる土地や施設に有りがちだが、色々な噂がある場所でもある。
これはそんな人気遊園地の日常の話の1つである。

「確かジェットコースターで事故あったんだよね、ここ?」

「ここってさ〜、昔ジェットコースター落ちたんだよね?」

「あ〜。なんか子供が何人か死んだとか?」

「え〜?死んだのは母子だって聞いてるよ?」

「母親がかばって子供だけ助かったんだろ?」

「ジェットコースターが逆さまになった状態で止まっちゃってそこから子供が落ちて死んだんだよな?」

「え〜?事故はあったみたいだけど死んだ人居たっけ?」

「最速で走ってたのが急に止まっちゃって吹っ飛ばされた人とか大勢が窒息したりでかなりヤバかったとか聞いたよ?」

『ジェットコースターの事故で死人が出たらしい』という噂が街や園内のあちこちで囁かれている。
だが、事故の確かな事は分からず仕舞いで大抵はこんな形で話が終わる。

「どのジェットコースターなんだろうね?」

「何人死んだんだろうね?」

「親子とかだったら可哀想だったね」などと。
そして皆が皆してその日1日を楽しんで帰って行くのである。
そしてスタッフもそういった話を聞き流して気にせず1日の仕事をこなしていくのである。

そんな遊園地に今日も休園日である月曜日の前、つまりは日曜日の夜がやって来る。

「おはようごさいまっす!田崎です、いつもは日勤なんですが、今日と来週夜勤になりました、よろしくお願いします!」
事務所にて警備員がミーティングを行い日勤と夜勤が交代する際のその日の申し送りをしている。
その日は1人が結婚し長期休暇に入った為に日勤から代わりのスタッフが来ていた。

「では夜勤はいつも通り9人で仕事、3人一組で東西の見回り組と事務所待機組のローテーションで行くからな。今日もよろしくお願いします。」

「「よろしくお願いします!」」

「さて田崎、ここに居る9人で全員なんだが、君は俺と青野と組んでまずは東からの見回りだ。よろしくな」
夜勤のリーダーである野沢が言う。

「よろしくお願いしまっす。夜は初めてなので主に日勤と違う部分を教えて下さい」

「あぁ、分かってる。まぁ、そんなに大きな違いは無いが一番はマシンが全部止まってる、という事かな。掃除やメンテナンスは終わらせて全員が帰ってるはずだが、ちゃんと電源が切れてるかや安全装置、鍵の確認なんかがまず最初の見回りではやる事になる」

「後は変な場所に人が隠れていたり不審物が無いかの再チェック、入り込んで来る奴が居ないかの警戒だな。結構歩き回るし気にする事も多いが日勤やってるんなら大丈夫だろ。青野だ、よろしくな」

「はい、よろしくお願いします」

「あぁ〜。後は音や声に惑わされたり誤魔化されたりしない事、かな。」

「あぁ、今日は特に日曜だしなぁ〜」

「は?はぁ。気を付けます?」

そして東西の見回り組が事務所から出て行く。

「さて。見回り組は行ったな。こっちも気を引き締めないとなぁ。」

「日曜日、だからなぁ」
「俺は結構楽しみだったりするんですけど」

「まぁ、楽しみな部分はあるな、確かに」

「じゃなきゃやってられんでしょ、さすがに」

そして、特に問題もなく時は過ぎて行き1回目の見回りの時間がやってくる。

「閉園時間過ぎたばかりのこの時間帯ならまず大丈夫なはずなんだがその辺の死角になってる金網のとことかな、あっちに見えてるトイレの裏とかな。昼間と同じ場所でも気を付ける理由が違ったりするから注意してくれ?」
最初の見回りと言う事で丁寧に見ながら教えていく田崎のチーム。
まだメンテナンスをしていたり店舗の締め作業をしていたりであちらこちらの建物で明かりが漏れている。

「まだ意外に明るいですね。夜中だとどのくらい暗くなるんでしょう?」
田崎がキョロキョロしながら言う。

「あぁ、この辺りは建物は非常灯だけになるから結構変わって感じるだろうな。アトラクション周りは一部明るくしてあるとこもあるからあまり変わらないかな・・・明るい方が色々と見やすいから問題のありそうな場所は街灯を増やしてあるしな」

「わざと暗くしてあるとこもあるんだがそういうとこについてはまた夜中の見回りで説明するから」

「あ、はい。そんなところもあるんですね。正直あんまり夜中に暗い所は行きたいとは思いませんが」

「お?なんだ結構怖がりか?」

「え?あ〜いや。人並みには。だと思うんですが。こういう所に遊び半分で入り込んでくる若者より幽霊とかお化けとかの方が怖いですよ」

「う〜ん、そうかね?俺は生きてる人間の方が怖いけどな」

「俺もですね。あぁいや?ここで働くようになってからかな、そんな風に変わったのは。昔はやっぱり幽霊とかの方が怖かったかも」
青野はそんな風に言う。

「えっ?昔とここに来てからでなんで変わったんですか?何かあったんですか?」
興味を引かれ反射的に聞いてしまう。
すると、青野は野沢に顔を向け、アイコンタクトを取る。

「ん?あぁ、まぁ、な。日曜日だから今日も出るだろうから言っておくとな?ここには、な、出るんだわ」

「えっ?出る?、って?・・・え?まさか?まさかぁ!ですよね〜?そりゃ俺もここにそういった色んな噂があるのは知ってますけど何か変な目にあったとか無いですし、聞いたことも無い、ですよ?」
数瞬ぼーっとしたが、その言葉の意味を理解して少し慌てる田崎。

「あ〜。まぁ、昼間は警備までそういった話が来るのは珍しいんじゃないか?大抵のことはインフォメーションやメインスタッフだけで対応してるだろ?ただ、ミラーハウスから出たグループの内何人かが半狂乱になったり、とかは俺らでも聞いてるぞ?」
それも聞いたことないか?と尋ねてくる。

「あ、はい。そんな事は何回か、園の中だけじゃなくて外でも騒ぎが起きた、みたいな話は聞いた事ありますけど?飽くまでもグループ内のゴタゴタで警備スタッフが呼ばれるような事態にはなっていない為に本当に話だけ、ですが」

「ああ。それもな・・・なんと言うか・・・ここの怪異?の1つだ。」
リーダーの野沢が言う。

「え」

「あ〜。ミラーハウスのアレはな、幽霊なのか妖怪なのか全く別のやつなのか分からんからな、とりあえず怪異、とだけ呼んでるんだ俺らは」

「はぁ。えっと、他にも?」
よく分からない、というのが正直な感想だったが恐々と会話の一環として聞いてみる。

「あぁあるな。けど、まぁ。わざわざ体験してない事を話すこともないだろ。そんな話をペラペラ他所でされても困るしな?今日はいくつか体験するだろうしその時にまた、な」

「はぁ。・・・てかいくつか確実に体験しちゃうんすね?日曜日って毎回そんな感じですか?」

「あ〜、それはなぁ。ま、お楽しみに、って事であまり無駄話ばかりしてないで集中していこうな?」

「あ、はい。・・・気になりますが」

「はは。まぁ、ちゃんと説明はしてやるから安心すると良い。危ない事も・・・ま、無いからな」

「うわぁ。今の間はわざと、ですか?大丈夫なんでしょうね?」

「はは、まぁ、楽しみにしていろ」

「はぁ」
途中で西側からの見回り組とすれ違い情報交換、ついでに田崎がまたからかわれて。
そんな感じで田崎の初見回りは進んでいった。



「あの猫は仕方ないですかね〜」
「まぁ、捕まえられれば捕まえたかったけどなぁ」
そして見回りから2チームともが戻って来る。

「おかえりなさい、お茶要ります?」
30代、前半くらいだろうか。
インフォメーションセンターの服を着たスラっとした髪の長い女性が見回り組を最初に迎える。

「ただいまっす。俺は貰います。」
「あ、下さい」「ただいまです。俺はいいかなぁ」
「こんばんは。下さい」「ただいま〜百合子さん、一杯下さい」
「ただいま、です?あ、れ?事務の方、ですか?お茶、出来るならお願いします」
他の見回り組の人間が口々に答える中1人、田崎は戸惑い質問と答えを同時に口にする。

「おかえり。猫が何匹か居たって?」
「おぅ。入り口側インフォメーションの1匹は捕まえて駐車場の向こうまで連れてったらしいが、他のは逃げられた。あのいつもの真っ白な綺麗な奴も居たぞ」
すでに野沢と青野達は待機組のメンバーと情報交換と雑談に入り始めていた。

「えぇ。大山百合子と言います。よろしくね田崎くん。お茶持ってくるから皆で待ってて?」

「あぁ、はい。よろしくお願いします」
夜には事務員が居るのか、と驚きつつ田崎もそこに加わっていく。

「あぁ田崎、あの人にはあまり自分の方からは話しかけるなよ?頼むから。」
野沢がさっそく、といった感じで言ってくる。

「は?あ、はぁ。」

「ああ。それだけは警告しとくぜ?深入り、と言うか事務的な付き合い以上の会話はしない事を俺からも勧めるな」
今回の待機組だったリーダーの富田もそんな事を言ってくる。

「え?はぁ、分かりました・・・?・・・2人とも真剣ですね?何かあるんですか?」
揶揄われてる、という感じではない事に気が付いて不思議に思い尋ねてみる。

「あ〜、まぁ、な。帰り際に話すわ。今じゃちょっと、な」

「そうだな。帰り際にちゃんと説明してやってくれな?・・・田崎は来週も日曜日助っ人来てくれるんだもんな?」
野沢がそう言って言葉を濁すと富田もそう言う。

「はい。今日と来週、ですね、とりあえず頼まれてるのは。」

「明日とか、つまり月曜の夜は無しか?日曜だけ?」

「はい。その予定ですけど、あぁ、でも来週は月曜日も出るかもしれません。なんとなくチラッと出られるか?みたいな事は聞かれたので。」
富田が続けて聞いてくるのでそれに答える。
ただ、月曜は閉園日で自分もいつも通り休みを貰っておりゆっくり休むつもりでいた。

「ふぅ、ん。まぁ月曜は基本的に少な目の人数で回してるしな、何曜だけは休むという人間も居るには居るからな」
少し考えながら富田は言う。

「日曜、月曜何かあるんですか?」
さすがに気になり聞いてみる。

「あぁ、まぁ
「お茶持って来ましたよ、どうぞ?」
そこへ紅一点、ではないが大山がお茶をお盆に載せてやって来た。

「ん」
「あぁ、ありがとう」
手と一言で済ます富田とありがとうと言いながら受け取る野沢。
「あ、ありがとうございます。お疲れ様です」

「はい、お疲れ様。まだ今から、だけどね?」
感謝する田崎にそう返す大山。

「あ、はい。まぁ、そうですよね。まだ夜になったばかりだ」
笑って返してきた大山に確かに、と返す田崎。

「何の話をしていたの?」

「あ、はい
「あぁ。田崎は今回、助っ人だけどな、月曜とか来週はどうなってるのか確認してたんだ」
田崎が何か答えるよりも早く野沢が答えていた。

「ふう、ん。そういえば田崎くんはいつも昼勤だもんね。なるほど」
笑顔で野沢に返す大山。

「あぁ。それよりも、いや、そうか。やっぱり田崎の事も知ってるんだな」
何か聞こうとしたのかもしれないが途中で言葉を変えてそんな事を言う野沢。

「えぇ。そりゃぁね。それに田崎くんは貴方と同じで私の•€?¥#場所を綺麗に掃除してくれてるのよ」
ん?
すぐ近くに居るのに良く聞こえなかった部分に田崎は首を傾げる。

「あ、あぁ、なるほど。・・・そうか。・・・しかし、いつもの事だがお前は・・・いや、なんでもない」
それを聞いて思わず、といった風に口にする野沢。

「ふふ、変な正樹くん」
野沢正樹。
それがリーダー野沢のフルネームだ。

「変なのはお前もだろう。いや、お前が変だろ?」
少し怒ったようないじけたような感じで野沢が返す。
田崎はそれを見て反射的に聞いてしまう。

「2人は、その、結構親しいんですか?」
と。

「ん?あ、あぁ、いや、まあ、な。なにしろ長い付き合いだから、な」
「そう、ね。元カノ、ってところかしら?」
困ったように答える野沢とやはり困ったように、だが面白そうに答える大山。

「いや、お前はまたそんな風に」
今度は完全に困った風に野沢が言う。

「不倫、とかじゃなくて?」
また思わず口に出してしまう田崎。
どう見ても50代に入ってるかな?という野沢と高く見ても30代後半になるくらいの大山ではそんな感想が出て来てしまうというものだ。

「ばっ!お前は」「ぶっっ」
慌てる野沢と笑う富田。

「あはは。これ以上は正樹くんが困るしあんまり無駄話ばかりしてるのも悪いから私は一旦引っ込むわ?注目されちゃってるし。田崎くんもまたね」

「あ、はい。お疲れ様です」
「はぁ、お前は。もう来なくて良いからな」
「お疲れさん」
左手をヒラヒラ振りながら立ち去る大山に対称的な返事をする田崎と野沢。
一言だけ発する富田。

そうして大山百合子の姿が奥へと消えてしばらくして。

「さっきも富田と言った事だけどな?アレと親しくなるな、とは言わんが自分についての事を話したり必要以上に仲良くはなるなよ?」
そんな事を再び野沢が言ってきた。

「あぁ。気をつけてくれよ?」
それを聞いて富田も改めて真剣な顔で言ってくる。

「え?・・・あれ、って大山さんの事ですよね?はぁ、まぁ、分かりましたけど。野沢さんはかなり親しげですよね?元カノとか言ってましたし。」
なんか理不尽さを感じてそんな風に答えてしまう田崎。

「あぁ、俺とかは別に良いんだ、どうせ寮暮らしだしな。お前は違うからな。気をつけないとマズイ」

「そうだな。寮暮らしの連中ならお互いに気をつけてられる、ってのもあるしな普段から。あ、俺も自宅組だからな?万が一にも巻き込んでくれるなよな?」

「え?は?」
野沢はまさかの寮暮らしなのか。
そして富田はやはり自宅通いなんだな。
いや、違う、そうじゃなくて、と。

「富田さん、なんか怖がってます?」
そう。
真剣な顔で話をしている富田だが、どこか不安げで。
怯えているような感じさえ受けるのだ。

「あぁ、まぁ、な。・・・そうだな。日月は怖いな、やっぱり」
考えながら、言葉を選ぶようにそんな答えを返す富田。

「日月は怖い、ですか。はぁ」
よくわからない、としか言えなかった。

「お。昼と同じやり方だと思うが次の見回りは最初と違って東側だけの往復だ。」

「はい。よろしくお願いします」
今夜の田崎の居るチームは東側から全体、東側全体、西側から全体、西側全体、待機&正面ゲート付近(朝の清掃作業含む)で終わるシフトであった。

今回の見回りも東西共に問題なく終了。
そんな時間を過ごしている内に各所の作業も終わり警備としての細々とした作業に入る。

「あ。夜食は配達されるんですね。」

「あぁ、結構早い時間にな」

夜間警備の9人分の仕出し弁当が皆に配られる。

「さて、これからが本番だ。皆、気合い入れてこうな」
「「おいっす」」

次は夜中の全体見回りがやってくる。

「田崎、次は俺達は西回りだ。最後に待機組なのは助かるな」

「はい。ただ、細かい点検作業とかもあって結構大変ですね」

「この広さだからなぁ。この人数でやらんと正直手が回らないだろうな」
全体の見回りと細々とした点検作業という名の見回りモドキもありなんだかんだで動いている。

「最初に注意したがこの時間帯は特に音とか惑わされないようにな」

「あ、はい。」
そう言えばそんな注意もされてたな、と思いつつ返事をする田崎。
例えば何か囮を使って逃げ出したり、逆に向かって来たりとんでもない悪さをしでかす輩もいる、と。
田崎は知らなかったがそれは飽くまでも『表向き』の理由であったが確かにある事案なのでそれだけを通達されていた。

そして、見回り中にソレに気が付いて声をあげたのはやはり田崎であった。

「すみません、なんか・・・音楽が、聞こえません?ずいぶん小さいですけど」
野沢に聞く。

「あぁ。これは・・・回ってるな、多分」
慎重に答える野沢。

「これは回ってますね、きっと。声は聞こえませんけど」
それに青野が普通に答える。

「回ってる?ですか?」

「あぁ、あ、いや、実際には回ってないらしいんだがな。回ってるんだよな、これが」
田崎の質問によくわからない答えを返してくる青野。

「はあ?」

「万が一もあるから先に見に行くか。見ないわけにもいかんからなぁ」

「ですね。誰かが本当に動かしてる可能性はありますからねぇ。迷惑な事に」

「回してる?あ、メリーゴーランド、ですか?」

「そう。これは今夜は『あたり』かもしれないな。ミルキーウェイや他のコースターも注意しなければいけないか」

「です、ねぇ」
田崎の質問にプラスしながら話が進んでいく。

「え?コースターも、ですか?まさか」
ミルキーウェイというのはこの遊園地では大型のジェットコースターで速さよりも長さがウリの物だ。
高さはそれなり速さもそれなり、で家族連れには人気である。
他の二基のコースターは東側にあるのだが、このミルキーウェイは真ん中よりも少し西側にある。
長さがある為東西というよりは中央に位置するような感じだ。

「いたずらで動かせるもんなんですか?」
疑問に思い2人に聞く。

「まぁ、鍵もあるし普通に考えれば無理なんだがな。辞めたスタッフやバイトスタッフなんかが合鍵を作って、とかな。乗る為じゃなくて動かす方法を知りたくて働く、なんて奴は意外に多いしな」
野沢が困ったようにそう答える。

「そうそう。意外にどこの遊園地でもあるみたいだよ?やっぱりジェットコースターとかメリーゴーランドとか。後はコーヒーカップや観覧車か。」

「まぁ、観覧車はさすがに夜中動かさないだろうがな、目立ちすぎるだろ」

「そ、そうなんですね。ああ確かにコースターは花形スタッフ、とか言いましたっけ」
確かに乗るのは出来るが動かすのは誰でもは出来ないからそんな夢を持つ人間は意外に多いのかもしれない、と思いつつ田崎も言う。

「あぁ。だから、まぁ、それも気をつけなければいけないんだが、な。」
言葉を濁す野沢。

「ま、行って見れば分かるさ」

「はい」

そしてメリーゴーランドに近付くにつれその異常さが田崎にも分かった。

「電気って・・・どう見てもついてない、ですよね?」

「あぁ。ついてないな。大丈夫だ。動いてない」
野沢がざっと見回して言う。

「でも、動いてますよね?」

「あぁ、回ってるな」
さらなる田崎の質問に今度は青野が飄々と答える。
確かにメリーゴーランドは回っていた。
営業時間のしっかりした回り方とは違い、かなりゆったりとした感じではあったがちゃんと回っていた。

「なんですか、これ?なんでですか?風?・・・じゃ、ないですよね。なんか音楽も聞こえるし」
そう。
電気は明らかについていない。
だが、スピーカーから、だと思われるがそれも疑わしくなる程に微かに音楽が流れている。

「まぁ落ち着け。これはな。すぐにメンテして貰った事があるんだが実際には動いてないそうなんだ。1ミリも。」
野沢が田崎にそう言ってくる。

「え?動いてない?1ミリも、って?動いてるじゃないですか?」
訳が分からず混乱する田崎。

「あぁ、まぁ、他の遊園地でもたまにあるらしいんだがな。なんと言うか・・・「そう見えるだけ」「そう言う風に見えさせられている、見せられている」らしいんだな、これが」
困ったように説明する野沢。

「そうそう。不思議な事にこれだけ回ってるように見えるのに実際には何の磨耗、損耗もないらしいんだな。音楽も流した形跡が無いらしい」
分からんよ、と言ってお手上げ、する青野。

「って。よく落ち着いてられますね!?今の説明だけ聞くと集団幻覚とか、になるんじゃ?」
それはそれで大問題、警備員としての問題になるような気がして慌てる田崎。
だが。

「あ〜。大丈夫だ。言ったろう?見せられている、って。原因はただの怪奇現象だから。食べ物とか、ましてや俺らの精神的に何かの問題があるわけじゃない」
野沢が手で落ち着くように示して言う。

「いや、って怪奇現象、って。ただの怪奇現象って」
余計に訳が分からず混乱する田崎。

「あ〜。まぁ、そうなるか最初は。」
どうします?と青野が野沢に聞く。

「ま、ここは不埒な人間の仕業じゃないと分かったから次行くぞ。」

「はいよ」

「えっ・・・はぃ」
電気は来てないと確認済みなのでまさかのスルーで先に進む野沢達。
その背中に

「あははは〜」「楽しいよ〜」「〜〜!」

「えっ?」
思わず振り返る田崎だが。
そこには動かないメリーゴーランドがあるだけであった。

「あぁ、気にしない事だ。言ったろ?あまり耳に入るものにとらわれるな、って」
野沢が言ってくる。

「あ。はあ。・・・はぃ。分かりました」
よく分からなかったがそう答えるしかなかった。
どう見ても確かにメリーゴーランドは動いていない。

「子供達がな、集まってくるんだよ。どこからか」

「はぁ。」


「ゲームコーナー異常なし」
いくつかのゲームが電気もないのにピカピカボンボン動いている。

「ミラーハウス異常なし」
子供の声、女の子達の声などは聞こえない、決して。
「周りも大丈夫」
白い影のようなものが歩いていたりはしない。
そう、決して。


そして話題に出た大型ジェットコースターの場所に来る。

「これ。走ってます、よね!?」

「あぁ、走ってるな」
「走ってるね〜」

ガタガタ、シュオオー、というような独特の音が聞こえて来る。
レールの横に位置どり確認しようとする。
その音が段々と寄って来る。
そして、音が通り過ぎて行く。

「・・・え?」

「異常なし、だな。」
「異常ありません、ね」

「え?いいえ、いいやいや。明らかに異常じゃないんですか、これ!」
音が通り過ぎて行ったが音だけであった。
当然の事ながらどこも動いていない。
それどころかコースター自体も走ってなかった。
走る音がしただけ。

「いや。コースターは異常無し、だ。・・・それよりも早く立ち去るぞ。アレはやばい。今日はあたり日だ。アレはやばい。やばいのが居る」
少し焦った様子で先を促す野沢の顔が青い。

「うぁ。わかりました。見ないように見ないように。何も聞こえない聞かない。聞かないぞ」
青野が周りを見回して急に真っ直ぐ前だけを見て歩き出す。早足で。

「えっ?えっ?どうしたんです?何が・・・う?」
田崎もソレをやはり見てしまった。

「いいから行くぞ。慌てず騒がず真っ直ぐに、だ。良いな?」

「えっ?あ、あぁ、はい。え?でも」

「いいからっ!アレは居ないモノだ。アレも今のモノじゃない。もう居ないモノなんだ」
野沢が田崎の懐中電灯を持ってない方の手をとり引っ張って行く。

そんな風に無言のまま歩くことしばし。
やがて東側からの見回り組と出くわした。

「そっちは・・・そっちはヤバかったらしいな。こっちはいつも通りだったが。大丈夫か?3人とも真っ青だぞ?」
今回の東側リーダーである富田が心配して聞いて来るが3人ともすぐには返事が出来ない様子だ。

「大丈夫?最初に色々あると辛いよね」
警備員の紅一点(と言っても40代だが)である田所が田崎に聞いて来る。

「い、今の、って。自殺者、じゃないんですか?まだ生きてたかもしれないのに、っていうか生きてたみたいだったのに!」
それで田崎が復活して声を張り上げる。

「あ〜。アレか。まさかの。アレはヤバイな。俺らは遠回りして歩くか」
それを聞いて富田がメンバーに言う。

「田崎、あのな
「あぁ。田崎?何がどこまで見えた?」
野沢が話しかけようとしたところで富田が言葉を挟んだ。

「え?何が、って。どこまで、って。女の人がコースターのレールで首を吊ってて。揺れてて。目を開けてて?生きてたみたいだったのに・・それで・・・手を伸ばしてきてて・・・」
何か変だ、と途中で思ったのだろう。
考え込みながら言葉を紡いでいく田崎。

「そうだ。田崎。あそこはコースターの下だったよな?結構離れてたよな?周りに灯りは無くて懐中電灯の灯りだけだった。俺も誰も懐中電灯は向けてないぞ?」
青野が一言一言恐々と紡いでいく。

「え?あ、確かに・・・え?でも、見えましたよ?見ましたよ俺?野沢さん達も見ましたよね?」

「あぁ。見た。と、言うかアレも「見せられた」んだよ」
野沢がやっと落ち着いた感じで言う。

「え」

「10年近く前かな?あそこで夜中に首吊りがあってな。女子トイレに隠れて時期をうかがってたらしいんだが、誰も見つけられなくてな。見つけた時にはあんな感じだった。アレは幽霊だ」
富田が引き継いで説明する。

「女性警備員も雇わないといけない、という風になったのはその後みたい。でもね、女性同士だからか女性警備員が行くと現れやすい、というのがあるのか・・・今は私だけになってるわ」
田所もそんな風に言う。

「有名、なんですか?」

「あぁ。訳がわからない噂話が広まるくらいには、な」

「ジェットコースターで死亡事故なんて起きてないのにジェットコースター絡みの女性の幽霊の噂話とか聞いてないか?」

「あ」
心当たりはあった。
ジェットコースターで死んだ人が居る。
ジェットコースターで異変が起きるらしい。
その2つは共通してるのに中身がまるっきり違う怪談話が巷では囁かれていた。

「正確にはジェットコースターで死人は出ているが事故とかジェットコースターそのもので死んだわけじゃなくてな」

「なるほど、そこは分かりました。・・・ってか怖くて仕方がないっす」
また顔を更に青くして田崎が言う。

「あぁちなみにジェットコースターが動いているような音がしているのはまた別口だ。アレとは違う」
青野が少し揶揄うように言う。

「や、やめてくださいよ、分かりましたから」

「ははは。まぁ、危険なのはアレくらいだとは思うけどな。気を付けて回ろうな」

「おう」「あぁ」「「はい」」
「ですね」

また東側西側組に分かれて見回りを続ける。

そして残りニ基の内一基もまた動いているような音を立てていたり、ワンコインで動く子供の乗る遊具が動いていたりしたが特に気にすることもなく、なんとか無事に見回りが終わる。

「はぁ〜参ったっす」

「参ったな」
「まだもう一回回らなきゃならないからなぁ」

「あ、そうでした」
愕然とする田崎。
しかも今度はアレが居るそばでUターンして戻るような感じで回らなければならない。

「まぁ、この時間まで入り込んでる人間が居ないし少しの場所を無視するくらい良いだろ。他の場所で何かあったり人間が居たらまずかったけどな。確実に被害者が出るかもしれんし」
野沢が考え込みながら言った言葉に田崎が反応する。

「そういえば昼間は?昼間はあの場所、大丈夫なんですか?俺は全然知らなかったですけど昼間野沢が人間も知ってるんですかね?」
被害者、という言葉で気がついたが、ああいう幽霊は生きてる人間を引っ張るんじゃなかったか?と。
確かそんな話を聞いた事があるような気がする。

「あぁ。伊勢さんとかベテランなら知ってるはずだぞ。昼間はあの場所、ピンポイントにあそこに行かなきゃ大丈夫じゃないか?聞いた事ないしな。清掃以外じゃ人が歩く場所ではないし」

「そうなんですね。一応気を付けてたほうが良いのかなぁ」

「いや、どうなんだろうな?意識をすると見えたり見られたりするってのもあるみたいだしなぁ」

「あぁ、波長があう、とか聞きますね〜」

「あ〜。参ったっす」

「あぁ。まぁ次を乗り切れば、な」

「ですね」

「お疲れ様。大変だったみたいね?」

「あぁ、まぁな。お前はまだ居るのか」

「毎回の事だけど失礼しちゃうね」
野沢が大山とそんなやりとりをしつつ。



そしてそれからは田崎達には何事もなく。
2度目の見回りで富田達が猫に驚かされたらしいが、特に問題も起こらずにそのまま昼勤の人間がやって来て終了時刻を迎える。

「「お疲れ〜」」「お疲れっす」「「お疲れ様〜」」

なんと言うか夜組はある意味戦友のような感じで結束が固いのは昼勤組からは不思議に思われていた事だ。
その理由を垣間見た気がする田崎であった。

「おう、田崎、お疲れさん。ちょっと出てから話、良いか?」
野沢と富田が着替え終わった田崎に声をかけてくる。

「あ、はい、お疲れ様です。なんでしょう?別に良いですけど」

「おう。じゃぁ帰ろうぜ」

「出てから」と言うから駐車場かどこか建物を出てすぐかと思った田崎だったが2人が話をしたいと言ったのは完全に遊園地の敷地を出た後の話であった。
近くにある小さな公園で缶コーヒー片手に男3人で話をする図が出来上がった。

「で、なんでしょう?あ。一応先に言っておきますけどちゃんと今度の日曜も出ますよ?」
この状況になんだかなぁ、と思いつつも最初に考えていた事を田崎から切り出した、

「あぁ。それはありがたいな。感謝する」
「あぁ、ありがたいな。それじゃなくて、だな」

「え?違うんですか?」
驚いて質問する。

「あぁ。来週も、となると尚更話しておかないとな。大山百合子、についてだ」
野沢がそう切り出す。

「え?あぁ、大山さんについてですか?野沢さんの元カノだから手を出すな!、っていう?」
少し揶揄い気味に言ってみるのは何処か重たい空気を吹き飛ばすためか

「いやいや、元カノなのは当たらずも遠からずだがな。そういう事じゃないんだな、これが」
富田が慌てて言ってくる。

「ん?富田さんも知ってるんですか?」

「あぁ。俺とこいつと大山百合子は所謂同期入社ってやつでな。良く知ってるんだ。3人とも地元だしな」
まぁ警備は同期入社って言っても年齢はバラバラだがな、と笑う。

「なるほど。同期なんですね。それで。・・・でも富田さんはあまり話をしてませんでしたよね?」
あまり親しくなるな、みたいな事を言いながら自分もそれを貫いているような富田。
逆に親しげではあるのだが何か怒っているような困っているような態度で接していた野沢。
確かに田崎にはそれが気になっていた。

「ああ。まぁ、な。説明は野沢に任せるわ」

「あぁ。そう、だな。・・・大山百合子はもうだいぶ前に死んでいるんだ」

「・・・・は?」
いきなり野沢の口から飛び出した言葉に目が点となる田崎。

「地元組、だと言ったが大山も、百合子も自宅から通っててな。ある時の帰りに暴漢に襲われてな。」

「地元組だとニュースを覚えてる奴も居るとは思うんだがな、当時はネットなんてなかったしすぐに犯人も逮捕されたからそんな大きな事件の扱いにはならなかったんだよな」

「あぁ。それで。百合子はな。帰りに襲われて。無残な姿で当時はまだアトラクションもここまで多くはなかった園内の一角に捨てられてて、な。」

「え」

「まぁ、見つけたのは俺達じゃなかったんだが、な。こいつはその後からずっと寮に住むようになったんだよな」
富田が言う。

「あぁ。・・・俺は夜勤明けの休みで何も知らずに惰眠を貪ってたんだ。」
辛そうに言う野沢。

「それは俺も同じだ」
当時から2人は同じシフトに入っていたらしい。

「じゃ、じゃぁ、あの大山さんは」
声が震えるのはどうしようもなく。
聞く田崎。

「幽霊、になるんだろうな」

「1、2度若いのが声をかけて自分のアパートの部屋を教えたりしてな。・・・何があったかは分からんが「殺される」とか叫んで辞めてった事があるんだわ」
富田が説明を追加する。

「え」

「あぁ。言ったように実際には何があったのか何かがあったのかもしらない。もちろん、彼女を信じたい気持ちもある。が、幽霊なんだよ。間違いなく」

「あぁ。だから、な?」
うわぁ。
というのが田崎の正直な感想だった。

「この話は他の警備員は?」

「夜勤は全員知ってる。と、言っても今はお前が一番若いしな」

・・・それはつまり若いのは皆辞めてったという事、だろうか。
それとも事情を知る人間で固めているということか。

「わかりました。とりあえずは。どちらにしろ来週の日曜、もしかすると月曜もですが、それだけの話ですし。必要以上に話さなければ良いだけですもんね。」

「あ、あぁ、そうだな。」

「信じてくれる、のか」

「今更、ですよね、それは」
夜に何を体験させられたと思っているのか。
それに思い返してみれば夜勤スタッフは全9人、と言われていた気もするし。

「ありがとう」
「なかなか度胸あるじゃないか」
野沢からは感謝を。
富田からは揶揄いを。

「いえ。怖いから、ですよ。ちゃんと忠告は聞かないと。忠告さえ聞いていれば乗り切れるというのは知ってますから」
笑いながら2人に言う。

「そうか。じゃあな。また次の日曜に」

「はい。お疲れ様でした」

「お疲れ」
そして明るく別れる3人。



この田崎、結局日曜だけで月曜は出勤しなくて済んだのだが。
「田崎くん、君、夜勤でも問題なく働けて評判も良いみたいだから◯日から夜勤でよろしくね?」

実は客が入った日曜よりも休園日の月曜の方が怖いのだ、と知るのは少し先の話である。

〜fin〜
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