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第六話・それってただの肉食系女子じゃないですか!


 ゴーレムを倒したラフィンたちは奥に見える祭壇へと足を運んだ。

 祭壇の天井部分には色鮮やかなステンドグラスが設けられ、射し込む陽光がなんとも神秘的な光景を創り出している。

 アルマはやや緊張した面持ちで祭壇の中央に佇むと、両手を己の胸前辺りで緩く合わせて目を伏せた。それと同時に静かに祝詞を紡げば、淡い緑色の光が宙へと集束を始める。

 程なくして集束した光の粒子は人の姿を形作り、ホモ神こと――テリオスをそこに出現させた。


「おおぉ……あのニイちゃんが神さまなんか?」

「そういやプリムとデュークは初対面なのか」


 ラフィンはラルジュ山で、アルマは儀式の時に神々と顔を合わせたが、プリムとデュークは今回が初対面だ。プリムもデュークも興味深そうに、そして多少なりとも緊張した様子でテリオスを見つめる。

 するとテリオスはラフィンたちを見下ろして、そっと優しく笑った。


「ゴーレムとの戦闘、お見事でした。よくここまで来ましたね」

「え、えっと、これで終わりなん? なんやファヴールの祈りってエラいあっさりなんやな……」

「ええ、そうですよ。ファヴールの祈りは我々神が持つ加護の力を高めるもの、目に見えた派手さはありませんからね」


 テリオスが語る言葉にプリムとデュークはもちろんのこと、ラフィンも納得したように何度か小さく頷いた。

 神々から与えられる祈り、それがファヴールの祈りではあるものの、その効果はよく知らなかったと言うのが現実だ。各地に存在する神殿で捧げる祈り――その程度の認識しかこれまでにはなかった。


「じゃあ、神殿以外で使っても意味はないのか?」

「いいえ、そうではありませんよ。ファヴールの祈りを捧げることで辺り一帯に光の魔力が満ちるのです。その魔力は魔物を大人しくさせてくれる他――自然に恵みを与えて作物を育て、乾燥地には雨を降らせるなどの恩恵をもたらすのです」

「んと……とにかく困った時に使えばええってことやろか」

「そうです、ファヴールの祈りはその場その場で最適の効果をもたらしてくれるでしょう。だからアポステル、これからは往く先々で人々のために祈りなさい」


 テリオスの説明から察するに、ファヴールの祈りはまさに奇跡の祈りのようなものなのだろう。その場に合った最善の奇跡をもたらしてくれるのだ。

 例えば雨が降らずに作物が育たない地で祈れば雨が降り、逆に長い雨が続き毎日が雲に覆われる地であれば太陽が顔を覗かせる。そういったいくつもの奇跡を起こせるもの、それがファヴールの祈りだ。

 アルマはテリオスの言葉に表情を和らげると、何度も頷いた。


「今回アポステルがここで祈ってくれたので、我が持つ加護の力も高まったようです。その調子でこの先も頑張ってくださいね」


 テリオスはふわりと穏やかに微笑むと、静かに祭壇の上へと降り立つ。てっきりこのまま姿を消してしまうのだろうと思っていたラフィンたちにとっては、それは聊か意外な行動だ。

 けれども、テリオスはにこにこと笑ったまま白く丸いテーブルと椅子を出現させると、先程ラフィンたちがゴーレムと交戦していた空間へと放る。ふわふわとまるで羽でも付いているかのように宙を舞うテーブルと椅子を見て、ラフィンは不思議そうに目を瞬かせた。


「とはいえ、お疲れでしょう。街に戻る前に少し休んでいきなさい。今なにか食べるものをお出ししますから」

「えっ、ほんまにええの!? うわあぁ、おーきに神さま! ウチもうクタクタやわぁ」

「すみませんね、本来なら番人など置きたくはないのですが……アポステルを守護する者を鍛えるには必要な試練だと言われているので、ご容赦ください」


 思わぬ誘いにプリムは表情を輝かせると、相手が神だと言うことも忘れたように両手を挙げて喜んだ。そんな彼女を見てラフィンは呆れたように双眸を半眼に細め、デュークは微笑ましそうに笑う。

 しかし、アルマだけはどこか複雑な面持ちで黙り込んでいた。

 当然、そんな彼の姿にラフィンや対面しているテリオスが気付かないはずもない。テリオスは不思議そうに首を捻り、その様子を窺った。


「……アポステル? すぐにでも街に戻りたいですか?」

「……え? あ、ああ、いえ! 違うんです、あの……」

「構いませんよ、どうしました?」


 どうやら、話をあまり聞いていなかったらしい。なんとなく上の空といった様子だ。

 アルマは「ううぅ」と小さく唸ると、ややしばらくの沈黙を経てから意を決したように顔を上げる。その目は真っ直ぐにテリオスを見つめ、そんな双眸に射抜かれた神は内心でひっそりと胸など高鳴らせていた。

 忘れてはいけない、テリオスはホモ神なのだということを。そして今のアルマはファヴールの祈りを捧げた影響で少年の姿に戻っている。


「あ、あの! テリオス様にご相談があるんです!」


 アルマのその言葉にテリオスはもちろんのこと、ラフィンたちもまた不思議そうに目を丸くさせた。


 * * *


「……なるほど、あのイイ男――いえ、ラフィンを見ると近頃ドキドキすると……」


 ラフィンたちが椅子に腰掛けて紅茶を楽しむ中、アルマは祭壇の奥部分でテリオスと共に床に座り込んでお悩み相談をしていた。

 テリオスは神だ、もしかしたら自分のこの異変の正体や対処法が分かるのではないかと期待したのである。


「は、はい。普段はそんなことはない……はず、なんです。でも女の子の時にラフィンを見ると、こう……」

「(恋か、恋ですね。元が男の子なのですからこれは精神的ホモというものになるのでしょうか、アポステルがその道に目覚めてくれるとは何たる僥倖……)」


 テリオスが内心でそのような妄言を吐き散らしているとも知らず、アルマは耳までを真っ赤に染めて俯いてしまうと一度ぎゅ、と口唇を噛み締める。恋する乙女、もとい恋する乙男といった様子だ。

 しかし、次の瞬間――テリオスも予想だにしない言葉が待っていた。


「ラフィンが――ラフィンが可愛くてどうしたらいいのか分からないんです!!」

「…………は?」


 女の子の時にラフィンを見ると、ドキドキする。

 そんなことを言われれば、誰だって「ああ恋してるんだな」と思うものだ。

 だと言うのに、アルマは唐突に「ラフィンが可愛い」などと言い出したではないか。それには流石のホモ神テリオスも目が点になるような錯覚を覚えた。


「だって……挑発するなとか言っておいて自分は言ってくるし僕の女の子な部分を見ると顔を真っ赤にして悶えてるし大慌てでベッドから落ちたりするしなのに普段はカッコよくてでもだからこそ可愛い姿を見るとこう――」

「わ、分かりました、分かりましたから少し落ち着いてください」


 息つく暇もなく早口に言葉を並べ立てるアルマを前に、テリオスは引き攣った笑みを浮かべながら両手を己の胸前で軽く振ってみる。アルマの顔は赤らんでいて、興奮しているのは一目瞭然だ。鼻息もやや荒い。

 この時、テリオスは思った。

 ――女の子の時だけじゃないじゃん、今も明らかに興奮してるじゃん、と。


「そ、それで、アポステルはどうしたいのですか?」

「抱き締めたいです」

「……」

「抱き締めてぐりぐりしてベタベタに甘やかして撫でまわして寝込みを襲って恥ずかしがらせてその顔をガン見したいです」

「やめてあげてくださいお願いします」


 自分から聞いたものの、次々に出てくるアルマの願望にテリオスは思わず頭を抱えて制止を向けた。これ以上聞きたくない、そう言わんばかりの様子で。


「(おかしい、アポステルは大人しい子だったはず……いくら元が男の子とはいえ、こんなことを臆面もなく口に出来るような子では……)」


 そうなると、考えられる原因はやはりジジイ神とアプロスだ。

 あのエロジジイとショタ好き女神の力が、何らかの悪影響をもたらしていると考えられる。ジジイ神は「三ヶ月もすれば身も心も女の子になる」などと明言していたが、これはやや異なるのではないだろうか。


「(アポステルは女の子の心になるどころか、男の子の心が強くなってしまっている気がする。女の子の状態だとそれが強くなるのだとしたら……ただの肉食系女子に……)」

「テリオス様、ラフィンが可愛いです。可愛くて可愛くてどうしようもないです」


 由々しき事態だ。

 言葉には出さずともテリオスはそう思った。


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