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第十九話・アルマのお勉強


「みてみてラフィン、これカッコイイよ!」

「……」


 エリシャとハンニバルを放置した後、ラフィンたちは近くのブティックに立ち寄っていた。ボロボロになってしまったラフィンの服を買うために。

 デュークとアルマが初めて逢った際、アルマが着ていた法衣もゴロツキに破られてしまったためにアルマの服も買った方が良いと言う理由もあるのだが。

 ちなみに、現在のアルマは法衣ではなく替えに持ってきていた元の衣服だ。それはヴィクオンに住んでいた頃に彼がいつも着ていたもの。


 だが、先程からアルマが示したりラフィンの身体に合わせてくる衣服と言えば、いずれもラフィンにとっては気恥ずかしいものばかり。

 と言うのも、アルマが特に好む「ヒーローマン」に似た戦隊系の衣服である。――否、似ていると言うよりは一種のコスプレ衣装だ。


「……アルマ、遊びに行くんじゃねーんだぞ」

「ええぇ……ラフィン、昔はよくヒーローマンレッドになってくれたのに……」

「ほおおぉ、やったことあるならええやん」

「良いワケあるか!!」


 それはもう随分と昔の話だ。当時は結構楽しんでいたが、今はただの痛い人にしかならない。そしてとても恥ずかしい。昔も今も、アルマにとってのヒーローはラフィンなのだが。

 ヒーローマンの衣装を手に持ち、アルマはしゅんと肩を落とす。そんな親友の姿を見ればラフィンの胸はやや痛むものの、やはりその服を着る気にはなれない。ましてや今選んでいるのは普段着なのだから。

 真っ赤なシルク生地にゴールドのスパンコールをこれでもかと散りばめたヒーロー衣装など死んでも着たくない。着れば羞恥で死んでしまいそうだ。


「ほ、ほら、俺のはいいからお前も服決めろよ」

「ちぇ、……うん」


 幸いなことにアルマはそれ以上は粘らずに、自分の服を見に奥へと消えて行く。その後ろ姿を見送って、ラフィンはそっと小さく安堵を洩らした。


 * * *


 ラフィンのものだけでなく、自分の衣服までヒーローマン衣装を見繕うアルマを説得し、なんとかごく普通の服をあてがうことに成功したラフィンは疲れたように喫茶店の椅子に座っていた。

 結局どちらもこれまでとほとんど変わらない。ラフィンは黒の半袖シャツに、下は裾がふんわりと丸みを帯びたジョガーパンツスタイルだ。丈は膝のやや下ほどまでしかなく、動き易さを重視したものと言える。

 上下共に色は黒、腰に赤いジャケットを巻き付けた――相変わらずラフな格好。頭には大きめのバンダナを帽子のように巻いている。


「へへへ、カッコイイねラフィン」

「べ、別に今までとそんな変わらないだろ」

「そうかなぁ、カッコイイよ」


 ちなみに、現在プリムとデュークは二人で近くの――女性用の衣服が売っている洋服屋に行っている。自分も何かほしいと言い出したプリムと、そんな彼女に案内を任されたのがデュークだ。

 そのため、ラフィンとアルマは喫茶店で飲み物とデザートを楽しみながら二人が帰って来るのを待っている状態。

 氷でしっかりと冷やされたオレンジジュースをストローで吸い上げて飲む中、ちらりとラフィンは視線のみをアルマに向けた。


「お前、それ持ってきたのかよ……」

「う、うん、ちょっと興味があって」


 アルマはと言えば、袖のない白いチュニックに腰には黒いベルト。その上からいつものポンチョを羽織る形だ。

 よく裾を引っ掛けて転ぶ彼のことを思ってか、足元は長い衣服を纏わせることはやめ、膝下丈の黒いスパッツを着用。その点のガードをラフィンが怠るはずはない。その服装はアルマも大層気に入ったようだ、先程からご機嫌である。

 だが、ラフィンが気になっているのはそれではない。その手にある――エリシャが落とした本だ。


「まぁ、表紙見る限り男が読むモンだしな。……女でも口説くのか?」

「ち、違うよ、そういうことに使うんじゃないって」

「だってそれ一応恋愛テキスト……」


 表紙の謳い文句は色々と気にはなるが、中身は一応恋愛のテキストだ。それも、男が女を落とすための攻略法が、その薄っぺらいいくつかのページに書かれているのだろう。

 アルマは真剣な表情で中身を読んでいる、女を口説く以外にどのような使い道があるのだろうか。ラフィンは暫しアルマをジッと見つめていたが、当のアルマはやや気恥ずかしそうに本を閉じて胸に抱いてしまった。

 ご丁寧に「だーめー」と可愛く言いながら。


「ダメって言われると気になるのが人間ってモンだ」

「ダメダメ、まだダメ。ちゃんと後で教えるから」


 アルマが何を熱心に勉強しているのか、ラフィンにしてみればやはり猛烈に気になる。

 だが、後で教えてくれるらしい。――何を教えてくれるのかは定かではないが、恐らくは勉強している中身だろう。

 それでも、そう言われてしまえば深入りする訳にもいかない。後で教えてくれると言うのなら、それを待てば良いだけだ。


 しかし、この時アルマを止めなかったことをラフィンは翌日すぐに後悔することになる。

 そんなことも露知らず、ラフィンは再び本を開いて熱心に読み始めたアルマを微笑ましそうに見守っていた。


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