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夢幻ループに愛を込めて  作者: シケモク
7/7

世界Ⅲ

コチ…コチ…コチ…


揺らいでいる


たゆたゆと雲の上を佇むように


いや、ここは雲の中だろうか


視界の全てが真っ白で、目を開いているのかも、閉じているのかも分からない


ふと、左手を何かに覆われる感触


はじめは小さく、やわらかい


さらにそれを覆うようにか細く、しかし力強い


共に優しくて、そしてあたたかい


そのあたたかさに包まれて、そっとその手を握り返す




◆◆◆




ベッドに横たわったまま、左手をかざし見上げる。壁に掛かった古時計の針は朝の6時を差している。

ベッド脇に設けられた木製の窓からは目を細める程の陽光―。


何の変哲も無い、穏やかな朝の目覚め。


俺はベッド脇に足を下ろして、しばらく虚空を眺める。



コンコンとノックの音―



「おはようございます。勇者さん」


「おはよう…開いてるから入ってきなよ」


両手で覆うようにカゴを抱えて、彼女が部屋へ入ってくる。


「今日もぴったり6時にお目覚めですね」


彼女はクスっと笑ってみせる。


「ああ…そうだね」


そう言って俺は、枕元の懐中時計を手に取る。


( ごめんな )


「朝ごはん出来てますから。あ、それと昨晩は暑かったですからシーツ、替えておきますね」


「ああ、いつもありがとう」


そう言いつつも、ベッド脇から動こうとしない俺を、困惑した表情で彼女が見つめる。


( 少し、やつれたな )


「……どうしたの?」


( ごめんな、ずっと気づかなくて )


俺はゆっくりと腰を上げ、彼女の前に立った。


( 俺はずっと自分の事ばかりで、君たちの事をちゃんと見ていなかった )




「一緒に、どうかな?」


「え?」


左手の懐中時計をギュッと握りしめる。


時を刻む鼓動が全身を巡る。



…コチ…コチ…コチ


「今日は天気が良いから、みんなで一緒に朝食を食べないか?」



彼女は少しだけ目を細め、いつものその笑顔で、俺を優しく包んでくれるあの笑顔で「はい」と言って、小さく微笑んだ。



…コチ…コチ…コチ


大丈夫


ちゃんと帰れるから。


その先が、また繰り返しの『毎日』でも、


大丈夫


またこの懐中時計が導いてくれる。




左手に視線を落とす。


真鍮製の裏盤面に刻まれたメッセージ。




…コチ…コチ…コチ



帰るべき証は確かにここにある。






『 To my dear Dad


  Thank you for everything


  You are my hero


        ―Misaki・Keito 』




最後までお読み頂きありがとうございました。

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