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言葉を習うのには肉付きも必要です

引き続き、読んでいただき、ありがとうございます。

目が覚めてみたら、そこは真っ暗でした。

え、なに、ここどこよ、とか目を閉じたり開いたりする。

なんか、かび臭い。触れる布はごわついてはいないけれど、湿っぽい。

どうやら布団に寝かされているらしいし、拘束もされていないけれど、息苦しい。

と、思って手足を動かしてみたら、両手が伸ばせず、足も広げられない。

なにこの狭さ!と手を上にやったら、ガンッと音がして蓋が外れた。


起き上がる。


・・・なんで棺で寝てるんだろう、私。



「お、起きたか?」


声が掛けられて上を振り向いたら、そこに骸骨がいた。


これ、子供が見たら泣いて叫んでトラウマ背負った幼子の出来上がり、な状況ですけど。


私、棺から半身起きた状態。

骸骨、立って覗き込んでいる状況。


顔(骨オンリー)近いっす。


と、思って足もとを見てみると、どうやら祭壇の上の棺にいるらしいことが分かった。

なぜ、祭る?


「とりあえず、ちょっとまだ動くな。もう少しで仕上がるから」


なんか、周りは山ほどの火のついた蝋燭ろうそくが乱立している。こんなたくさんの蝋燭、教会でだって見たことがない。


「なんですか、この蝋燭」


と私はつぶやく。返事はあんまり期待していなかったのだが


「アロマテラピーの一環だな」


と答える骸骨隊長(たぶん。声が美声なので。でも親戚とかだったり、実は兄弟って言われても見分けがつかない)。


「骨の匂いを嗅いだことはあるか?」


かなりの蝋燭が燃えているのに、まだ20本近くある新しい蝋燭に、彼は次々に火を移していきながら、聞いてきた。


「骨を折って匂いを嗅ぐと、蝋燭の脂の匂いがする。新鮮な骨ほどその匂いは強い。10年以上たっても、骨はまだその匂いが残っているんだ。まあ、私も人間だったときはそんなことに気が付かなかったが」


ちょっとーーーーー!!!


そんなトリビア知りたくなかったああ!!

今、あなた、自分の体臭でこの空間を満たしてるつもりなんですかね、それセクハラとかのレベルを軽く超えていますけど!

もう、蝋燭の匂いを嗅げない・・・


揺らめく炎がきれい、とか一瞬でも思った自分がかわいそうすぎる。


「ここで一年暮らすんだから、慣れておいたほうがいいだろう。嗅覚を早めに麻痺させておくほうがいいかと思ってな」


お気遣い、ありがとうございます。でも、そのトリビアは永遠に封印しておいてほしかった。


「ここは私の屋敷だが、使用人は皆、骨人だ。臭いはゾンビやグールに比べて薄いが、それでもまだ生きている人間にとっては、骨の城で暮らしていく上では難儀だろう」


どうやらすべての蝋燭に火が付いたらしい。火がついた棒を振って消すと、その棒をこちらに向けてくる。


「その棺も、まあ、骨でできた城だからな。隙間風がすごい。私や使用人は平気だが、寝る時くらい寒くないほうがいいだろう。少し湿っぽいだろうが、この屋敷に客用のベッドなどない。時折、屋敷は走って揺れるだろうから、移動中に落ちないほうがいいだろう。まあ、慣れてくれ」


どこから……どこから突っ込みを入れていいのだろう。

隙間風は、まあ、いい。私が住んでいた辺境の村の実家だって、掘っ立て小屋を小割板で隙間を埋めてはいたけれど、やっぱり雪が吹き込んできたし。

一度、起きたらベッドの上を薄い氷が覆ってて、パリパリ音がしたのには驚いたけど。


客用ベッドがないことも、かまわない。

牢屋で一年間、軟禁生活だって覚悟してたわけだし。

蝋燭の光で照らされた部屋はかなりの大きさで、実家の広さを一部屋で超えていた。


「あの、屋敷が走るって聞こえたんですけど何かの比喩ですか?私、学がないのでちょっと難しい言い回しが分からなくて、すみません」


「ああ、気を失わせたまま運び込んだからな。まあ、そのほうがいいだろう。この屋敷は正確には私の師匠の持ち物なんだ。この家は骨でできていて、家の底に巨大な鶏の一本脚が付いていて、移動が可能だ」


山姥やまんばの住処ですか?

私、食われるんだろうか。


「一本足だから跳ねて移動するんだが、振動がな。まあ、移動の時には言うから、火の取り扱いには注意してくれ。焼け死にたいなら別だが」


焼け死にたくありません。食べられたくもありません。


「後で食事を持ってこさせよう。要望があれば使用人は話せないから、文字を書いて見せればいい。簡単なやり取りくらいなら返事はできるが、長文で話せる機能はついていないからな。では、一年間、この部屋でゆっくりしてくれ。この部屋から出なければ、まあ、安全だ」


と、言うなり、去っていこうとする骨隊長。


「ちょ、ちょっとまってください!」


つかむところがなくて、とりあえず目の前を流れる服の裾をひっ掴んで叫ぶ。


「私、文字が書けません!読めません!」


「は・・・?どういうことだ?」


「ですから、私が住んでいた村では文字をかけたり、読めたりするのは村長さんの一家くらいで。だから、私、読めないんです。書けないんです」


「・・・ああ、庶民はそうなのか」


数秒の沈黙の後、まさかの魔王軍のスケルトンに庶民呼ばわりされるとは、と、思うが、今後の一年間がかかっている。


「いや、お前、確か苗字があっただろう、苗字は貴族でないと名乗れなかったはずだが」


「それ、いつの人間の常識ですか?うちの村は貴族なんていませんけど、みんな苗字もちです。名前しかない人なんていません」


元人間スケルトンとのジェネレーションギャップを感じる。

今時、飼っている猫だって苗字があります。常識です。


「100年は経っていないはずだが。今はお前たちの暦で何年にあたるんだ?」


「・・・たぶん、今の王様に代替わりして15年くらいです」


「・・・征服王チャールズ二世から数えて何代目の・・・いや、いい、たぶんわからないだろう」


失礼ですよ!確かに全然わからないけど!


「ちょっと待て、それじゃあ、お前、契約書を確認していないのか?」


慌てているのだろう、ほんと、肉とか皮が付いていないと、人ってコミュニケーション取りづらいのな。

この隊長の声のトーンとか、身振りがちょっと大げさでよかった。そうじゃなかったら、すごく空しい。


「契約書って、紙、見てませんけど?」


見ても読めないけど。

実際、私が覚えているのはあのゼヌとか言った狼人の懐から出てきた指令書くらいだ。

それだって、狼人が読み上げなきゃ、村の名前が違っていることすらわからなかったはずだ。


「目の前で書いただろう、あの、青い魔法文字だ。空中に書いたから、正確には契約書ではないが、契約内容も読めないとか、なんで納得するんだ、契約魔法は互いの了承さえあれば完了なんだぞ、騙されてたらどうするつもりだ?!」


だんだん驚きから怒りに変わってきたのか、口調がかなり荒れている。


「魔法文字なんて、習ってないですし、そもそも」


「魔法で描いただけで、使用しているのはヒト族と同じ文字だ。この世界に言語は一つなんだぞ。文字が読めない、書けないっていうのは、身を守るすべが一つないってことだ。ましてや、契約の神との契約書に反したことをすれば、お前の命が飛ぶんだぞ!大体、文字が書き残せないってことは正確な知識が継続せず一代限りで消えてゆくってことだ。ヒトとして歴史にもっと敬意を示せ!!」


スケルトン(魔物)に人としての歴史認識を問われている、私。

そして怒りで、棒を振り回している骨人。


なんてシュール。


「えーっと・・・スミマセン」


謝る必要がいまいちわからないけれど、ここは謝るで間違ってないよね、ファイナルアンサー?


そして選択肢は間違ってなかったらしい。

骨人はちょっと落ち着いたようだ。


「・・・いや、取り乱した。すまない」


ちょっとした沈黙が部屋を支配する。蝋燭の脂が燃える音がやけに響いた。


「なら、文字を教えてやろう。どうせ1年間は働く必要はないんだ。私の知識では古いかもしれないが、文字が大幅に変わっていることはないだろう。少なくとも、知識の底上げにはなる。何より、契約を確認せずに了承させたなど、契約の神の誓いに抵触しかねない。放置していて罪の遡及で魂が消えるのは御免だ」


そして、スケルトンは壁に近づいて、蝋燭の煤を棒でこする。

そのまま白い壁に大きく線を書き付けた。


「ナオミ・ホワイトハート。これがお前の名前だ。そして、これが」


続けて、その下にもう一つ書き加える。


「セルヴァン・ド・レッドブラッド。私の名前だ。契約書にも記されている。まずはこれから練習するといい。聞き取れるし、話せるのだから、一年あれば大体は書けるだろう」




こうして、私の一年間の契約と、文字の学習が始まった。

始めに、お互いの名前を。そして、文字と簡単な単語。短文を経て、長文を。


私は自分の名前を書き、彼の名前を読んだ。

一年という期間を、私は麦30袋で売ったけれども、本来は私のほうが支払うべきだったのだろう。

それが分かったのは、彼がいなくても、かなりの分量の本を読めるようになった頃だったのだけれども。



■ ■ ■



きっかけは私の発音だった。

屋敷の生活にも慣れ(棺ベッドにも)、ペンの持ち方にも慣れて、私はかなりの単語を書けるようになった・・・のだが。


「だから、その発音はSじゃない、THだ!!」


「同じ音に聞こえます、隊長」


スケルトン隊長は有能だ。びっくりするほど有能だ。だから魔王軍でも新参者なのに(作成時から数年しかたっていないらしい。彼曰く、生まれ変わってようやく5年ってところだ、だそうだ。転生したら種族が違ったっていう状況なの、これも?)百人部隊長にまでなっちゃうくらい有能なのだ。


「舌の動きが違うんだ。舌の先を前歯の後ろにもっていけばSで、THは」


「全部同じ音に聞こえますってばー!」


だから、元人間として、有能な彼は発音の違いが我慢できないらしい。


「いったい、お前の耳はどうなっているんだ?!」


この骨屋敷で暮らし始めて早三か月。なんだかんだと一日二時間くらいはこうして文字の学習時間となっている。

私にとっては唯一誰かと話せる時間で(使用人タイプのスケルトンさんはお話しできないので)、もしかしたら村で暮らしていた時よりも誰かと話している時間は長いかもしれない。


なので、いつの間にか、魔物とか、魔王軍とか、恐怖とか、いろいろすっ飛んで行って、私は骸骨に何の恐怖も抱かずに口答えができるようになってしまっていた。

慣れって、怖い。あれ?これってストックホルム症候群?


「ああ、もう。よくわかんないんですよ、こうですか?・・・。・・・舌をかみまふぃた」


「・・・見ればわかる。・・・百聞は一見に如かずってやつか。これはやりたくはなかったんだが」


ため息をつきながら、スケルトン隊長は額を両手で(どちらも骨むき出しで隙間が見えます)抑えて呻いた。


「いいか、言っておくが、容姿についてのコメントは一切拒否する。一切だ。一度でも言ったら、契約の神に誓う制約事項が増えるからな」


そう言って、右手の指先を私に突き出した。

人差し指の骨が青く光る。


この三か月で、ずいぶん見慣れた光景。魔法の発動のための青い発光体だ。

すいすい文字を書いてゆくが、まだ私には読めない単語が多い。それに隊長から見て書かれているので、私には鏡文字で読みにくいのだ。


文字が連なり、糸のようになり、隊長の体を包み込んで赤く光った。


「うわっ」


光が消えた時、そこにいたのは・・・


「えーっと、隊長、ですか?」


「前から言おうと思っていたんだが、お前を部下にした覚えはない」


不機嫌そうな、若い男の人が、そこにいた。

黒い髪と、青い目。はっきり言おう。美形だ。ちょっと目が細めだけれど、整った顔立ちと言えるだろう。

古めかしい貴族服が、一段グレードが上がったように見える。


「肉と、皮って、すごい威力ですね」


「そこか?まあ、いい。容姿についての発言じゃないからな」


「生きてるみたいですよ、隊長!」


「俺は骨状態が通常だ。肉と皮がなくても、いつでも生きている」


「驚きましたっ・・・て、ええー?!なんで顔だけなんですか、手に肉つけてないんですか、気持ち悪い!!」


「発音するのに、手の肉は必要ないだろうが、いいか、皮だけでも結構重いんだぞ、皮膚っていうのは人間の最大重量の臓器だ。成人男性で、体重の8%、約4キロある。動きが鈍くなるだろう」


「いや、顔だけ肉つけられても・・・って、じゃあ首から下は骨?!」


「どこをめくろうとしているんだお前は!淑女として品のない!」


怒られた。


どうやらはっきりとは聞いてはいないのだが、スケルトン隊長は元人間で、貴族だったらしい。

師匠と呼んでいるネクロマンサーに呼び出されて、気が付いたらスケルトンになっていたと。

骨は隊長自身のものらしく、自分の骨を依代にした死霊術で命や意識がつながれているので、正確には・・・?

転生でいいの?魔王軍に召喚された召喚者?


気付いてしばらくは落ち込んだりもしたけれど、死んだ命が助かったものと思って、今は命の恩人(?)にむくいるために、せっせと魔王軍のために働いているらしい。


が、生前の知識や性格は変わらないらしく、こうして、なぜか貴婦人のたしなみを叩き込んでくる。

私、第一村人だっただけの、庶民ですけど。あ、今は自称勇者の子孫か。


「とにかく!これで確認しやすいだろう、いいか、Sの発音はこう、THはこうだ」


確かに、ちょっと舌の動きが見えると分かりやすい。

唇の動きもわかるし。


「えーっと」


「ちがう、そう、もう一度!」


わかりやすくなって、発音もよくなったせいか、隊長は時々顔をつけるようになった。

ちょっと触ってみたが、ちゃんとハリもあったし、なんだか温かかった。

・・・あとでやっぱり『淑女としてはしたない!』と怒られたが。


誰もいないよりは、話せる人がいるほうがいい。

鏡に映る自分しか見えないよりは、違う人が見えるほうがいい。


容姿について一切発言するなと言われたこともあるが、どうやら隊長は自分の生前の容姿が好きじゃないらしい。

それはなんとなく、わかった。

部屋に鏡はあるけれど、隊長は一度も自分の姿を見ようとはしなかったから。

自分の顔が好きじゃない、なんて、ちょっと悲しいと思う。


私は母の目の色を受け継ぎ、髪は父の色を受け継いだ。細身の体は祖母譲りだし、手の形は祖父に似ているらしい。

美人ではないけれど、ちゃんと親がいる証拠だ。

私がいることは、私を作ってくれた両親がいるということ。両親がいることは、両親を生んで、育ててくれた祖父母がいるということ。


だから、時々、金物屋さんのおかみさんの青い目が羨ましかったし、村長の娘のメリーさんの金髪にあこがれたけど、自分の色が駄目だとは思わない。


自分の黒い目も、茶色い髪も、ちゃんと鏡から親がのぞいてくれる。

いなくなってずいぶん経つけれど、私が泣けば、母の目が泣くことになる。私が髪を大事にしなければ、父の髪を大事にしないことになる。だから、どちらも大切にして、生きていたいのだ。


隊長の目も、きれいだと思うのに。

骨の時は、からっぽで、確かに話していて楽しいのだけれど、目が見えたほうが安心する。

そんなことは隊長には言わないけど。


言ったところで、骨に目玉だけついていても、やっぱり子供にトラウマを植え付ける姿にしかならないだろうし、ちょっと言えない。


貴方の目が、優しそうで好きなんです、とか。

そしてたぶん、もう、優しそう、じゃなくて、優しいことも、知ってはいるのだけれど。




あざといよね。うん、わかってる。私も舌をかんだところは色々と文句を言いたい。でも展開上、ちょっと他に思いつきませんでした。

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