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短編集

モニタールームの神様

作者: 月宮 柊

 真っ暗な部屋にモニターがたくさん浮かんでいる変な部屋に僕はいた。

 いろんな場所、いろんな人が映し出されている。


 僕がまず初めに目についたのは少年兵の姿だった。彼は銃を持ち勇ましく歩いている、その眼に曇りはない、純粋な少年の目をしている。だが、その目に映っているのはたくさんの軍隊。まだまだ、小さな細い指をトリガーにかけている。

 その指は躊躇することもなくトリガーを押す。

 怯まない、味方が殺されても彼は気にしない。ただ、前を見て銃を構えて撃つのみだった。

 僕はそばにあったリモコンでそのモニターを消した。


 次に僕が見たのは学生服を身にまとう少女だった。

 少女は同じ制服を着た少女たちに蹴られ、罵倒され、いじめられていた。少女はただ泣くことしかできなかった。少女の白い腕にはたくさんの痛々しい傷跡。

 その分だけ少女は傷ついていた。

 誰も助けてくれない、クラスメートもかつての友達も、先生も、皆、少女を助けなかった。

 少女は絶望の淵にいた。

 画面は切り替わり、少女は一人で屋上にいた。フェンス越しの少女は儚い笑みを一つ浮かべ、躊躇いもなく空中落下。

 僕はまたリモコンでモニターを消した。


 目の前のモニターには幸せそうな花嫁がいた。白いウエディングドレスを身にまとい、赤い絨毯の上を父親と歩く、その先には花婿、花嫁に手を差し伸べる。

 誰もが幸せそうな笑顔、幸福がここにはあった。

 僕はリモコンを触らなかった。


 端っこのモニターにはとある男

 彼の目には一筋の涙。

 目の前には墓があった。ずいぶん真新しい墓である。それはかつて彼の恋人だった女性の墓だった。

 小さな花束を置くとそのまま立ちすくみ彼は静かに涙を流していた。

 僕はリモコンでモニターを消した。


 そうやって僕は不幸な人間を見ない振りした。

 幸せな人間だけをモニターに映した。これで世界は幸せに包まれている、僕の目指したものがそこにはあった。

 はりぼての幸せが――


 

 今日もどこかで誰かが苦しんでいるだろう。

 明日にはこの映し出されている人ももがき苦しむかもしれない。その時僕はその人たちにはなにもしてあげられない。無力な僕は手を差しのべる勇気もない、ただ見ないふり、モニターから眺めるだけである。無力な僕を許してくれ。

 今日も僕はモニターの前にいる。所々消えているモニターの数だけ不幸な人がいる。


幸福の数は限られているのだろうか。




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― 新着の感想 ―
[一言] 第三者の視点、考えるものがあります……。
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