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スタート  作者: 円周
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第21話

激しい部活後の居残り練習もしてるし、家に帰ってからの筋トレだって欠かさない。

激しく動いた後のアイシングも、十分なストレッチも欠かさない。

身体の為ならばと、プロテインや栄養補助食品だけでも月に3万円近く注ぎ込んでいる。


そうやって努力してきたのに……何故なんだ?



俺にはずっと目標にしてきた人がいた。

その人と泳げる日を楽しみに、ずっと頑張ってきたのに、その人は突然姿を消した。


進学先で悩んでいた俺は、たまたま見掛けた水泳雑誌に、その人の名前が載っているのを見付けた。

≪男子:平泳ぎ100m3位:杉浦智弘(桜楓高校1年)≫

普段なら目を通すことの無い、地方予選の結果にこの名前を見つけた時、俺は運命を感じた。


ついに見付けたその人と、同じ学校行って、一緒に泳ぎたい。

しかしその学校は、俺にとってかなりレベルが高かった。

それでもその人と同じ高校に入りたいという気持ちは揺るがず、受験までの日々をがむしゃらに勉強し、何とかこの学校に合格した。


そして、入学してすぐに気が付いた。


かつては憧れ、目標としてきた人だけれど、今はコーチの言いなり、ただの人形。

せっかくここまで追いかけて来た俺の落胆は大きかった。


一緒に泳いでみて分かった。

いつの間にか俺はその人を追い越していた……。


今日はたまたま負けただけ……さっきのタイムもたまたまだ。

記録を持っているのも、次の大会に出るのも俺なんだから。

目標とするに値しないアイツを俺は認めない、絶対に俺のほうが速いはず。



計時を終え、プールサイドに上がったトモさんに部員達が声を掛けている。

コーチまでもが『良かった』なんて言っているのが聞こえる。

次に泳ぐ部員の為、沈んだ気持ちのままプールから上がったら、俺を見詰めるトモさんと視線が合った。


……さぞかしいい気分だろうな、惨めな俺が見れたんだから。


大した努力もしないで、あっさりと俺の今までの努力を打ち破る人、≪杉浦智弘≫。

俺はきっと睨み付けると、そのまま彼と反対の壁際に向かった。

俺の視線に気が付いた祐太さんが文句を言っているけれど、そんなのどうだっていい。


イライラした気持ちのまま、居残り練習を始めたけれど、持って行き場の無い気持ちが身体をずんと重くする。

湧き上がる暗い感情を水にぶつければ、泳ぎは力んだものとなり、バシャバシャと無駄に水飛沫が飛び散る。


いつもより息が苦しい気がするけど、プールサイドにはトモさんと祐太さん、それに結城先輩残っていて、俺の事を観察するようにっじっと見ている。


……そうやって見てればいい、俺の泳ぎを!俺は速いんだ!

プールサイドに鋭い一瞥をくれ、再び泳ぎ出すけれど、泳げば泳ぐほど息が苦しくなっていく……。


……おかしいな。

何だか息がしにくい……酸欠か?

頭もボーっとするし。

ここ迄来て、体調崩すなんて馬鹿らしい。


一人きりになったプールでゆったりダウンをして、今日の練習を終える事にした。


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