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スタート  作者: 円周
18/30

第18話

「うわ!なんだこれ……」


自宅に戻り、先程祐太から手渡された袋の中身を出してみた。

そこには、水泳に関する真面目な本や雑誌に混じって、筋肉ムキムキの男性が笑顔でポーズを取っている表紙の雑誌、何故か海辺でウェイトトレーニングをしているパッケージのDVDなどが入っていた。


「祐太はいつもこんな本見て筋トレしてるんだ……あいつ、一体何目指してるんだろう?」


水泳選手は筋肉をつけ過ぎてしまうと、身体が重くなり沈んでしまう。

そのため、適度な脂肪も必要なんだ。

だから部内では、過度な筋トレを禁止してるし、むしろ僕なんか、もう少し肉を付けろと言われる位なのに……。


筋トレ命の祐太は、水泳選手が目指すべき方向と、真逆を目指しているに違いない!

なんて確信しながら雑誌をパラパラ捲っていると、ページの隙間から何かが落ちた。


『付箋の貼ってあるページの筋トレをすること!1日最低3セット、それがムリな日は、赤い付箋のところだけは絶対やること!!それと、DVDは必修科目だ、絶対一人で見ろ。 祐太より』


メモは少し右上がりの文字で丁寧に書かれている。


雑誌をもう一度見直すと、確かに赤・青・黄色の付箋が貼ってあり、赤はコアの筋力を鍛えるもの、青は大きい筋肉を鍛えるもの、黄色は水泳のポイントになるものと、それぞれ関連付けて付箋が貼られていた。


「うわ、マメだなー」

祐太の好意に感謝しつつ、早速部屋にあるテレビでDVDを見始めた。



「トモ兄ー。ちょっとこれ見てよー」

ノックもせずに部屋のドアを開けた章弘が、そのままの姿勢で凍り付いた。

「なに……してるの?」

いきなりドアを開けられた僕も、驚いた姿勢そのままで固まっていた。


テレビには、上半身裸なムキムキマッチョの外人さんが、爽やかな笑顔で鉄アレイを上げ下げする姿が映し出され、僕はその姿を見ながら、同じ様に鉄アレイを持っていた……下着一枚だけの姿で。


裸で筋トレなんて、あまり人には見せたくないのに、まさか弟に目撃されるとは……。

「何って筋トレだよ。見れば分かるだろ」

恥ずかしさを誤魔化す様に、強気な態度で答えてしまった。


「そんな筋トレやったら、マッチョ体系になっちゃうよ。トモ兄だったら、ヨガとかピラティスのが良いんじゃないの?」


弟は昔から自由気侭、世渡りも上手な奴で、どちらかと言うと軟派な感じに思われがち。

興味のあるものには何でも手を出す性格で、子供の頃から空手や柔道、剣道など、一通りの武道にも手を出したけど、今は空手一本に専念している。


そのせいだろうか?

最近の章弘は、精悍な顔立ちになった気がする。


僕が高校2年で身長170cmなのに対し、中学2年のくせに、既に章弘は175cmもある。

その上、武道で鍛えた身体は胸板も厚く、がっちりとして大きい。

一緒に歩いていると、僕が弟に見られるなんて事もしばしばある。


このまま成長したら、祐太の目指す体型に近付くんじゃないかな?なんて部屋の入口に立つ章弘を見詰めながら思う。


「で……何の用?」

「あ、宿題で分からない所があったから、見て貰おうと思ったんだけど……なんかお邪魔かなって」


弟も兄の秘密を見てしまった事を、気まずそうにしている。


「実はさ、祐太がこれ見てトレーニングしろって」

気まずい雰囲気を払拭すべく、鉄アレイを床に置き、祐太から渡された雑誌類とメモを章弘に見せる。


「ぷぷぷ……」

章弘は祐太のメモを見るなり笑い出した。


「なんか面白いこと書いてあった?」

「いや、トモ兄にこのメニューはキツイだろうなと思って。これは祐太君向けだよ。もっと負荷減らして、軽いメニューからやらないと肩とか膝壊すよ。泳ぐ為の筋トレなら、これとこれはいらないね」

そう言いながら、青い付箋の貼ってあるページのいくつかを指差した。


打撃での怪我を防ぐため、筋トレを欠かさない章弘はその辺に案外詳しい。


「へえ、さすが。祐太の言う通りやってたらどうなっちゃうの?まさか……密かに、ムキムキマッチョ化計画とか立てられてるのかな?」

「かもね。でもやだよ、トモ兄がマッチョになるの。そのスイマー体型がカッコいいのに。泳ぐのに邪魔になる筋肉はつけなくて良いんじゃない?」


子供の頃の僕と章弘は、正直あまり仲が良くなかった。

と言うより、お互いの存在を気に留めていなかった、と言った方が良いのかもしれない。


こうして仲良く話すようになったのは……いつからだろう?


「宿題分からないんだろ?見てやるよ」


多分、お互い色々経験して成長したって事かな……。

僕は章弘を、杉浦家の一人ではなく、きちんと≪弟≫として見ている事に気が付いた。


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