第17話
「トモ一口ちょうだい!あーん……」
大きな口を開けて、祐太は僕が食べているテリヤキバーガーを強請ってくる。
「やだよ、祐太の一口デカイんだもん。イモならあげるよ、ほら」
「イモなら俺もあるんだよ。それよりテリヤキが喰いたいの」
駄々っ子と化している祐太の口元に、しぶしぶハンバーガーを押し込むと、がぶり、大きな口で食いついた。
「おいひー!!」
祐太は口の周りをソースで汚しながら、満足そうな声を上げる。
そしてその一口で、僕のハンバーガーは半分以上無くなっていた。
「まったくもう……」
手の掛かる子供だよ……。
テーブルの上にあったペーパーナプキンを取り上げて、祐太の口元を拭いてあげた。
夕方のファーストフード店は、学生やカップルでかなり混み合っている。
そこにイケメンを含んだガタイの良い男が4人。
只でさえ注目を集めているのに、僕がした行為のせいで、みんなの視線を更に集めてしまった。
「手の掛かるお子さんですね、お母さん」
向かいに座った結城センパイが、僕達のやり取りを見てくすくす笑ってる。
「お母さんて……僕の事ですか?」
「他に誰がいるって言うの?祐太の手綱を握れるのは、やっぱりトモだけだね」
そう言って、結城センパイと丸山部長が、意味ありげな視線を交わしている。
「何か話あるんですよね?」
そんなやり取りに気付いたのか、さっき迄の駄々っ子ぶりが嘘のように、急に真面目な顔で質問を投げかける祐太。
「相変わらず、祐太は直球だね。遠回しな話しても仕様が無いよね?マル」
結城センパイはニコニコしながら、丸山部長をマルと呼ぶ。
「俺達、今週末の大会で引退だろ?」
うちの学校は進学校ということもあり、3年生は6月の大会出場をもって部活を引退し、2年生へと引き継ぐ決まりとなっている。
しかし実際には、年が明けても3年生の参加出来る大会があるので、6月以降の大会参加については、本人の意思とコーチの采配に任せているのが現状となっている。
「今、うちの部上り調子だろ。このままモチベーションを下げたくないんだよね。で、この状況を引き継いでくれそうなのって、やっぱりお前達二人なんだよなぁ」
そう言って丸山部長は結城センパイと視線を合わせ頷くと、今度は結城センパイが部長の話を引き継いだ。
「祐太は明るいし、ムードメーカーだし、何より人を引っ張っていくのが上手いから、次期部長に相応しいと考えているんだ。そして、暴走する祐太の手綱をしっかり握れるのが……トモだよ」
「あ、いいっすよ。他の部員達が賛成してくれるなら」
「え!?」
いきなりの次期部長、副部長指名に驚いている僕を尻目に、祐太はあっさりOKを出してしまった。
「ちょっと待ってよ!祐太はともかく、僕にはムリだって。そんな器じゃないし……」
部長の補佐とはいえ、人の上に立つなんて僕に出来る訳がない。
「俺が一緒でも不安か?」
余程不安そうに見えたのか、僕を見詰める祐太の顔に、優しい笑顔が浮かんだ。
「ううん……」
祐太が一緒なら……出来るかも。
ぶんぶんと首を大きく振って、祐太の問いに応える。
「それじゃあ決まりだ。という訳で、先輩方、この話お引き受け致します」
祐太はテーブルに両手を着いて、深々と頭を下げた。
「他の部員には、大会の後で発表する事にしよう」
丸山部長はそう言って席を立った。
「二人ともよろしくね」
部長の後を追って結城センパイも席を立つと、そのまま2人は帰ってしまった。
「トモ、自分を変えるチャンスだぞ」
祐太は残ったポテトを食べながら、ガサゴソとカバンの中を漁りだした。
「家帰って、これでしっかり勉強して来いよ」
ほらと手渡された袋の中身は本だろうか?
ずっしりと重みのある袋を持って帰るのかと思うと、少しだけ気が滅入ってしまった。