さようなら、世界。
私、橋波日奈子は、何の取り柄もない人間だ。
昔から、身体が弱くて家にいることが多く、中学校では不登校になった。高校もすぐに中退し、心もどんどん荒んでいった。
私の父親は気性が荒かった。ずっと家にいる私を疎ましく思ったのか、父は私に暴力を振るい続け、ただただ私は謝り続けた。
姉は見てみぬふりをした。だけど、母親だけは私を守り、信じ、応援してくれた。
私は母が大好きだった。母のために、私は必ず自立しようと心に誓った。ニートになんてなるものか。必ず就職して、親孝行をするんだ。絶対に負けるもんか。
だけどそれは、母が自殺をしたことで、永遠に叶わなくなってしまった。つい二日前のことだ。私の唯一の夢が消えてしまったのは。
「どうして、生きているんだろう」
自分でも気づかぬうちに、口から言葉がもれていく。
「どうして、こうなっちゃったんだろう」
私の人生は、どこで間違ってしまったんだろう。
「しんどい、辛い」
もうこの2つは口癖だなあ。
きっと、私より辛い人もいっぱいいるのだろう。
そんな中でも、頑張る人がいるのだろう。
でも、私はその人じゃない。私がしんどいのだ。私が辛いのだ。
ーー私は、頑張れない。
誰もいないリビングを通りすぎ、玄関を開けて外へ出た。エレベーターまで歩いて、まわりに誰もいないか確かめる。それから静かに矢印上ボタンを押した。
今しようとしていることが、怖くないわけではない。ただ、頭がふわふわとして、うまく思考がまわらない。
すうっとエレベーターが開く。私は小走りでそれに乗り込み、閉ボタンを連打した。それから9を押し、到着するのを静かに待った。
あれ、自分は何をしようとしているのだろう。やはり、うまく思考が回らない。
何でエレベーターに乗っているんだろうとか、何でエレベーターはエレベーターって言うのだろうとか、私の頭の中はどうでもいい内容で埋め尽くされていた。
けど、ふと思った。
「あ……そっか。飛び降りるつもりで外へ出たんだ」
ーーXX年、X月X日。私、橋波日奈子はこの世を去った。