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桜と鈴  作者: 星夏
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桜と鈴

しんは部屋で横になっていたが、しんもまたあの日の事が気になり休むに休めずにいた。

ああなる事はわかっていたでも。


(さよいのあんな顔、初めてみた)


何かを隠すような笑顔。

そんな顔をさせたのは自分自身。


幼い頃に出会ったさよいは、はじめの頃は遊び相手のいない自分のはじめてにひとしい友達だった。

外にほとんど出れないしんには知り合いも少なく、過保護な両親も相まって外で遊ぶ事も許されなかった。両親を恨むきはないが、友人には憧れていた。

それ故に、さよいは唯一無二の友人になった。

なのに同時にさよいの事を好きになっていた。

恋などしたことのない自分にとって、それが何なのか分からずに戸惑いを覚えるものだった。

なにか煮え切らないまま時間は流れ、否応なく自分とさよいの違いを突きつけられた。


並の人よりひ弱だが、大人に近づくしん。

小さな愛らしい、少女のままのさよい。


少なからずその事に悩んでいたしんにさよいは、変わらないと言った。しんもさよいも変わらないと言ってくれた。


けれどさよいは、ある時からしんを“お兄ちゃん”と呼ぶようになった。

それはひどくしんに衝撃を与え、そして何かわからない煮え切らなかった気持ちの正体を明かした。


『そうか、俺は、さよいの事が好きなんだ』


“お兄ちゃん”

それはさよいにとって自分が、異性ではなく“お兄ちゃん”という見方しかされていないのだと言われたようで。

さよいが珍しく目をそらしながら何故か悲しそうに勝手だと言うから。

何かがこの時、変わっていくようで怖くて悲しかった。


けれどそれでも、それでも、さよいを好きでいたかった。

またしんと言われたい。


(好きなんだ。さよいーー)


目の上に片腕を乗せ。


「好きなんだ」


小さく紡がれたか細すぎる声。

空気に溶けて消えていく。

その時。


「…ん……しんっ…しんーー!」


外から聞こえてきた自分の名を呼ぶ声。声に混じりカラン、カランという音も聞こえる。

間違える筈のない声の主を思い浮かべながら、急いで障子を開ける。



「しん……しんっ…しんーー!」


走りながら、転びそうになりながら、必死に叫んだ。

そしたら障子を開け中からしんが出てきた。


「さ、よい。どうしたんだ。わあーー!」


走ってきた勢いのまましんに飛びついたら、勢いで倒れてしまた。


「しん!あのね。…ボク、しんに伝える事があるんだ」


多分ボクは、いままでで一番真剣な顔をしている。しんも驚いた様子でボクを見てる。

けどそんなのどうでもいい。


「好きだ!」


伝える、偽らずに。


「今までずっと怖くて隠そうとした、偽ろうとしてきたんだ。しんの事を好きでも、別れがすぐにくるからて。“お兄ちゃん”て呼ぶようにしたのも自分を偽るためで。…ごめんなさい…ごめんなさい、ごめんなさい」

「謝らないでくれ。泣かないでくれ。さよい」


頬を優しく撫でられる。言われて気づく、自分の目に涙が溜まっているのに。


「俺はさよいの気持ちを知れて嬉しいんだ。俺だってさよいとの別れが怖かった。“お兄ちゃん”て呼ばれるのだって辛かった。けど、さよいの気持ちを聞けて嬉しいんだ。もうそんなのどうでもいいんだ。……さよい笑ってくれ。さよいに泣いて欲しくないんだ」


ボクは涙を拭うと、しんに抱きついて。


「ありがとう、しん」


とびっきりの笑顔を向けた。しんも笑みを浮かべながら抱きかえしてくれる。


「あ!そうだ」


ボクは頭の左右どちらにも着けていた、鈴を片方外す。


「しん。これ、お守りがわり。…帰ってきてね」

「ありがとうさよい。戻ってくるよ。絶対に、また桜を一緒に見よう」


もう一度、ぎゅっとしんに抱きつく。しんもこたえてくれる。



あれから、季節は一回りし桜が咲いた日。

さよいは縁側に座って桜を見ながら、足をぶらぶらさせていた。


あの後しんは、二日後に家を出た。

勿論、さよいとしらゆい二人でしんを見送った。周りの人に見えないせいであまり話せなかったが、前日までたくさんの事をお互い話していたから少しはよかった。

しらゆいもあの後、暑さに耐えかね、溶ける前に帰ると言い帰っていた。が、冬が近づき暑さが和らぐとひょっこりとまた現れた。


しんがいない一年とは、いままで過ごしてきた中で一番長かった。さよい達にとって人と同じ時間でも感じかたは違うのに、それほどしんをいとおしく思っているからか。

寂しい時も、ふとやってくる悲しみも全部、しんに逢える日を思えばふっとんでいった。


「桜、綺麗だなぁ。……早くしんと見たいな」


風で揺れる桜。暖かい日差し。春という今日は、とても眠気を誘う。

だから、ついついうとうとして眠ってしまった。寝顔は幼子のようで。



「…い…さよ…さよい」


声にあわせて揺さぶられる体。

意識がはっきりとしてくると、誰が呼んでいるのかわかった。


「しん……」

「うん。おはよ。そして、ただいま。さよい」


懐かしい声。優しく頭を撫でる手。


「おかえり!しんー!」


とびつく、あの日と同じ満面の笑みで。


「おっと。危ない」


今回は、何とかさよいをうけ止める。


「さよい、待ていてくれてありがとう」

「当たり前だよ。ボクはしんが帰ってくるまで何十年でも何百年でも、待っているつもりだったんだから」

「あはは。そんなにまたせないよ」


笑ってまた頭を撫でる。少し子供ぽい扱いだけど、嬉しさがまさって気にしない。


「今年の桜も綺麗だな」


しんの目は咲いたばかりの桜の花を見ていた。


「うん」


本当に綺麗だなぁと思いながら、また笑みが溢れてくる。


「そうだ。さよい、これ」


と、懐からカランと音をさせながら赤い布のついた大きな鈴を取りだし。


「きっと、これのおかげで帰ってこれたんだ。ありがとう」


さよいの左の髪にそれを着ける。


しんは優しく目を細め言う。


「好きだ。さよい」


さよいもまた、穏やかに笑い。


「ボクも大好きだよ。しん」



二人を遠くから人知れず見つめる者がいた。

青い番傘の雪女。しらゆい。


「二人とも、よかったわね。……とても幸せそう」


二人を見るしらゆいの顔は、とても優しい微笑みで。


「当たり前よね。だってあの子は、座敷童子なんだから」


フフフと笑うと、また二人を見つめ。


「そろそろ、山へと戻ろうかしら。暖かくなって溶けてしまう前にね」



縁側で桜を眺める座敷童子と妖怪になった青年は幸せそうに。

山へと戻る雪女は嬉しそうに楽しそうに。


笑った。

これで完結です。

今度、しらゆいの話しを番外編で投稿するつもりなので気が向いたら見てください。


読んで頂き、ありがとうございました!

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