桜の気持ち
今回は、短いです。
「お兄ちゃん!あっ、しらゆいもいる!」
いつもと変わらない、明るく元気な声が響いて、駆けてくるさよい。ちょうど、しん達の話がすんだ後だった。
「おかえり。さよい」
「さよい。おかえりなさい」
「うん!ただいま!」
元気よく返事を返す様は、どこにでもいる子供の様で、自然と笑みが零れる。
「あら。その手に持っている花、とても綺麗ね。どうしたの?」
さよいの手には、綺麗な小さな花が握られていた。
「これ?これはね。綺麗だったから、採ってきたの。後で押し花にして、それから栞にして、お兄ちゃんにあげるんだ」
「そう」と、さよいに言った後、しらゆいはしんを見た。しんは、笑っている。
「いつも、ありがとう。さよい」
しんは、さよいの頭を撫でた。さよいは、嬉しそうに笑う。微笑ましいようで、でも、どこか………
「しらゆい」
「あ。ごめんなさい、何かしら?」
「ううん。ただ、ぼーとしてたから」
言われ、自分がそこまで、考えこんでいたことに気づいた。
「そう。何でもないの。それより、もう帰るわね」
「え。もう帰るの?」
「ええ。さよなら、さよい、しん君」
立ち上がると、手を振りながら去っていく。さよいも、大きく手を振り返す。
しらゆいが去った後、静かで軟らかな、空気が流れる。その静けさを破ったのは、しん。
「さよい」
「何?お兄ちゃん」
笑顔で返された言葉。自然に笑みが零れる。だけど。
「言わないといけない事があるんだ」
真剣に返す言葉。
「大事な事?」
「ああ。大事な事。とても」
(とても、さよいに伝えなければいけない事)
いつもと何も変わらない空間。でも、きっと今から言う言葉は、全てを変えるだろ。知りながらも、紡ぐ。
「さよい。好きだ」
その言葉に、偽りなどない。しんは幼い頃から、ただ一心にさよいを思い続けていた。
さよいは驚いた顔だったが、目を伏せると。
「しん。…その“好き”は、恋情の好き、ていうこと?」
返された言葉は、いつもと変わらないさよいのもの。
「ああ。もちろんだ」
また、しんから返ってきた言葉も、いつもの優しいしんのものだったが、その声色は強い力がこもっていた。
「なら、ごめんなさい。ボクもしん……お兄ちゃんのこと好きだけど、恋情の好きでは、ないんだ」
何かを取り繕うような笑みを浮かべる。
「そうか」
たった一言、がっかりした様子ではなく、いつもと何ら変わることのないしん。
「それともう一つ、あるんだ」
少しの沈黙。
「俺は少しの間、この家を離れるんだ」
「どこに行くの?!」
いつもと違い、焦った様に叫ぶさよい。
「遠くの病院だよ」
「ボクも連れていて!!」
(ついていかなくちゃ。離れたら、きっと、もう………)
しんは微笑んで、言う。
「さよいには、できるならここで桜の木と待っていて欲しいんだ」
「ボクも連れ………っ!!あっ………」
一瞬だけ下を向くと、笑顔を浮かべながら顔を上げ。
「ボク……待ってるからね。待ってるから。………お兄ちゃん」
「ありがとう。さよい。すぐに絶対に戻ってくるから」
桜の木は、悲しげに、花を揺らし散る。まるで、涙を流すように。
(もう、きっと、しんは………)
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