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桜と鈴  作者: 星夏
2/6

雪の昔話

「こんにちは、しん君。さよいは、居るかしら?」


あの日から数日がたった。しらゆいは、あれからこの村に留まり、毎日、さよいに合いにきっている。


「あ、しらゆいさん。さよいは、今、出かけて居ませんよ」


さよいは、たまにどこかに出かけていく。どこに行くかとは、言わないし問わないが、近くの野や川などで遊んでいるのだろうと、しんは思っている。証拠に綺麗な花や石などを持って帰ってくるからだ。


「そう……しん君、あの子は気まぐれよ。ほおていたら、急に居なくなってしまうかもしれないわよ」

「しらゆいさんの前から、そやっていなくなったんですか」

「ええ」


庭の方をむきながら縁側に腰をおろし、思い出すように、目を閉じる。


「急な事だったわ。ある日、突然いなくなって、何処かに行ってしまたの。でも、探すのは簡単だったわ。あの子の特徴を少し言うだけで、分かってしまう程、さよいは人の心に残る子だったから」


目を開くと、隣に腰掛けていたしんを見る。


「しん君。一つ、昔話を聞いてくれない」


しんは、何も言わず頷く。


「…昔、ある村があったの。その村は、小さく何もない、雪女の伝説だけがあるただ、ただ寒い村だった。その村で育った少女がいたの。少女はある青年と恋仲だった。少女は青年を愛していた。青年も少女を愛していると、少女は思っていた。でも、少女は、裏切られた。青年と、少女と仲の良かった女に」


私は、裏切られたんだ………。


少女は、雪の中たたずんでいた。周りは、闇に包まれかけている。空は灰色で、そこから白い雪が降っている。とても冷たい雪が。


………どうして?

私は彼を愛しているのに。

彼も私の事愛しているはずなのに。

どうして彼女と一緒にいってどうしてあんな事言ったの………?

どうしてねぇどうしてどうしてどうして。


あの、

男、

は、

最初、

から、

あなた、

の、

事、

騙、

して、

た、

だけ、

よ。


何処からか、響いてきた複数の声。一つ一つの言葉を句切り代わる代わる紡いでいる。皆、女の声で、幼さを感じる幼女の声から、しわがれた老婆の声まで幅広い。そして、その声達は、耳からでわなく頭に響いてくるように感じる。


「誰?!」


私、

達、

は、

雪の精霊。


その言葉は今までと違って、全ての声がはもった。


ねぇ、

あの、

男、

は、

あなた、

を、

騙、

した、

そんな、

奴、

の、

事、

まだ、

愛しているの?


その言葉は、あまりにも少女の心に響いた。


「愛しているわ………!!」


愛しているの今にも狂いそうな程!

愛しているの………

とてもとても愛しているの………

こんなにも愛しているのにどうして…あなたは…

どうしてどうしてこんなにあなたを思っているのに狂いそうな程今あなたを思っているのに!!

愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛しているのに愛していたのに

へ……愛……して……い…た……の…に………?

違う………!!違う違うわ!

私は………愛していたのに………!

違う違う。

私は今だって…彼のこと


それが、あなたの本当の気持ち。


違う違う

私は………

ううん、違うわ。

本当は

あいつが憎いんだ。

あの女の事も憎い。

ああ、嗚呼。

憎い……憎い…憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎

こんなにも

こんなにもこんなにも

こんなにもこんなにもこんなにも憎いなら

あいつを

あいつらを


「コロシテシマエ」



「気がつくと、少女は雪女になり、男と女、そして村と村人達まで、滅ぼしていた」


暖かな風が吹き、しらゆいの長い髪が揺れる。


「気づいているかもしれないけど。その雪女は、私よ」


凛とした小さくもなく大きくもない声。声とはうらはらに、いつの間にか、握りしめた手は小刻みに震えていた。しんは、何も言わず、ただ、話に耳を傾ける。


「驚いたでしょ。ただの人だった私が、憎しみ狂い雪女になってたくさんの人を殺めてしまった事……私の事、恐いでしょ」


しんは、緩く首を振る。


「確かに、それだけを聞けば、恐いかもしれません。でも、数日あなたと過ごしていて、俺は一度もあなたを恐いと思いませんでした。むしろ、さよいの言っていたとおり、優しくていい人だと思っただけです。それに、俺は、たとえ過去に何があろうと気にしませんよ。しらゆいさんは、しらゆいさんですから」


優しく、紡がれた言葉。やっぱりと、いう表情をしながら、微笑んでしんの事を見るしらゆい。


「やっぱり、あなたは、私の思ったとおりの人ね」


小さな笑みを湛えたまま。


「あなた達は、似ているかもね」


しんは、首をかしげる。


「そうですか?」


と、笑い返した。


「ねぇ、しん君。私が、どうしてこの話をしたと思う」


しらゆいは、しんの答を待たずに。


「あなたなら、話をしても大丈夫と思ったから。それに、あなたは優しい人だから。じゃなかったら話せないわ、こんなこと。それに、今まで、この事話せたのは、しん君とさよいだけよ」

「そんな大事な事、話してくださったんですね。ありがとうございます。でも、しらゆいさんが、後悔しているのなら、きっと、その罪を報えますよ」

「クス…そうだといいわ。ねぇ、このあとどうなったと思う」


しんに、聞くように言うけれど、答えなど待てないというように、続きを話し始めた。


「そのあと、意識がはっきりしてくると、最初は、訳が分からなかったけど、記憶が徐々に戻ってくると、自分はなんて事をしたんだろうて、後悔して、そこにいるのが恐くなって、逃げたわ。全てから逃げたくて。その時に………さよいに出会ったのよ」


『どうして、そんな悲しそうな顔して、震えてるの』


首をかしげながら聞いてきたのは、小さな少女。その少女が、さよいだった。そこが何処かなんて、分からなかった。ただ、無闇矢鱈に逃げて、きづいたら、そこにいて。さよいに出会った。近づこうとしたさよいに、私は。


『近づかないで!』


気づいたら、叫んでいた。理由は、わかる。自分が、憎しみのせいで関係のない人を巻き添えにして、村ごとあの男を滅ぼしてしまたから。また、自分が気づいたら、誰かを傷付けてしまっているかもしれないから。だから、近づいて欲しくなかった。もう、誰も傷つけたくなかった。


『ボクの事。恐い?』


さよいの言葉にしらゆいは、狂ったように叫ぶ。


『あなたの…あなたのどこが恐いのよ!恐ろしいのは私のほうよ!!』


さよいは、その叫びに動じることなく、むしろ、きょとんと首をかしげた。


『キミのどこが恐いの?』


一瞬全て話して、さよいを恐がらせようかと思ったが、自分の口からあの事を語るのが恐くて、口を動かすこともできなかった。


『あっ。簡単に話せることじゃないよね。聞いちゃてごめんなさい。でも、キミからは、恐い感じはしないから。恐い人じゃないとボクは、思うよ。それに、本当に恐い人はそんな悲しそうな顔で、自分の事、恐いなんて言わないと思うんだ。それにボクは、その人が恐いかどうかは、一緒にいたり、話したりしてから判断するよ。だって、人から聞いて勘違いして、その人のことを傷つけるなんて、したくないから』


この少女は、まっすぐで優しく心が綺麗な子だ。そんな言葉が、浮かんで消えた。自分はできるだろうか、今の自分ではできないだろ。こんな汚れた自分じゃ。


『あ。どうしたの。どこか痛いの?』


急に心配したように近づくさよいが、ぼやける。ゆるりとした動作で手を、頬にもっていくと濡れていた。


『……ね…いた…の……』


かすれて小さな声なんて、聞きとれないだろと思ったのに、さよいは。


『胸が痛いんだね』


聞きとってくれた。


『大丈夫なんて、簡単に言えないけど。ボクの前で、泣いていいよ。全部、吐き出すように泣いていいよ。ボクが、拭ってあげるから。キミが望むまで、側にいるから』


言葉どおりさよいは、側にいってくれた。さよいの優しさは、暖かいけど、私の心には、痛かった。けど、離れるのはもっと恐かった。さよいが、いなくなたっら、もう、世界の中で、自分は一人ぼっちで、誰も自分の事を見てくれないような気がして。さよいの言葉に、甘えてしまおうと思った。“望むまで、側にいるから”と言う言葉に。


時間は、流れる。人でなくなり雪女となった私にも。気づいた時には、私は、さよいに依存していた。あの時の事も言わずに。言うのは、恐い。でも、ずっと黙っている事もまた、嫌で、私は、さよいに全てを語った。


『話すのは、辛かったでしょ。なのに、ボクに話してくれるなんてゆ勇気がいったでしょ』


さよいは、離れていくどころか、私に笑顔を向けてくれた。


『ボクが、簡単に大丈夫なんて言ったところで、しらゆいの痛みを味わったことがないボクが、言っていい言葉じゃない。だから、言わない。けど、しらゆいの側に居るから、しらゆいの少しでも支えになるから。だから、少しずつでいいから、笑って』


さよいの言葉に、涙があふれてきた。


時間はまた、流れる。二人の妖怪にも。ある日、さよいは、しらゆいの前から去った。もう、一人でも大丈夫と、言い残して。


さよいが、どこかに行ってしまたのが、当たり前のように感じた。さよいは、気まぐれだったし、なによりさよいを、自分の側に縛りつけておく、理由なんてそもそもない。一人になたけれど、悲しくはなかった。一人に慣れていたわけでも悲しみに慣れていたわけでもない。


「ただ、なんとなく、さよいの言葉で、一人でも大丈夫なんだと思えたの」


優しく微笑んで。


「あの子はね。自分が、座敷童子だから、側に居れば、不幸にはならないって、言って側にいてくれるけど。だからといって、何もしないんじゃなくて、むしろ、自分から、動いて幸せにしようとする子よ。本当に優しい子」

「ええ。俺もそう思います」


しんもまた、微笑む。二人の心には、一人の座敷童子の少女が浮かぶ。


「わかってくれると、思ったわ。あの子はね。見た目とは違って、大人なところもあるわ。長い年月を過ごしてきたから。でも、やっぱり子供のところもあるのよ。だからね、時々驚いてしまうの、大人みたいな声色で、私を慰めた後に、無邪気に笑ったりして。まだまだ、あの子は、子供よ。子供なの」


桜の花が、優しく散る様子を見ながら。


「ねぇ………ねぇ、だから、あの子の側に。ううん。あの子を側においてあげて」

(あの子はきっと………)


雲が流れ、光りが遮られる。


「俺はーーー」

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