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空想科学フェアリーテイル  作者: 宮原 桃那
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【9章】無害な薬

果たしてそれは、存在してもいいものなのか。

 ――六時間目は、薬草学。

「ということで、私の授業ですね。さて、まずはこれ食べて下さい」

 離宮にあるエクスの薬室に来た里琉へ、彼は何の変哲もない干した薬草を一つ置く。

「……何ですかこれ」

「食べたら教えます」

 興味深そうに里琉を見つめながら言うエクスに、これ以上何を言っても仕方ないかと、里琉は薬草を口の中へと放り込んだ。

 もぐ、と噛むと、きつい酸味が出て里琉は眉を寄せる。

「ぐぐ……っ」

 何とか飲み込み、うええ、と舌を出す。

 その目の前に、水の入った器が置かれた。

「どうぞ」

 ありがたい、と受け取って飲んだそれは、だが何故か奇妙な苦味を感じる。

 ミネラルウォーターか何かだろうかと思っていると、ややして砂時計を見ていたらしいエクスが、それをコトリとテーブルに置き、言った。


「……三分経過。顔色、呼吸、皮膚、瞳、全てに異常無しを確認しました」


「!!?」

 ぎょっとする里琉に、彼は笑みを浮かべる。

「団長殿の報告を聞いてもしやとは思っていましたが……あなたはまさしく異世界の人間ですね、リル」

 何を言っているのか、と思う反面、思い当たる節が一つだけあり、全身の血が引く。

「……まさか、今のは」

 震える手のひらを握り締める里琉に、エクスは笑顔のまま告げた。


「食べた薬草は、単体かつ健康な人間が食せば、たちまちのうちに嘔吐を引き起こす毒草です。飲んだ水には、麻痺性の鉱毒を溶かし込んでありました」


 がたん!! と里琉は椅子から立ち上がる。

「ど、どういうつもりだよ!?」

「……砂漠にある、多肉植物を食べたそうですね。しかも、大量に」

 静かに告げられた内容に、ぎくりとした。

「その正体をお教えします。あれはコルーと言いまして、通常、食べれば一口で全身の血が凝固し死に至る毒草ですよ」

 あんなに美味しいものが、毒だというのか。

 未だに信じられない里琉に対し、エクスは続ける。

「あの砂漠は、人災によって広がりました。レダが建国されて間もない頃、鉱山の開発が進み、そこから流れ出た鉱毒が、植物を枯らし、動物を死に至らしめるようになったのです。現在は水を浄化する為の仕組みを開発したのでそれ以上の被害は抑えられていますが……鉱毒も本来、解毒するのは困難な代物です。結果として、砂漠に生える植物は、鉱毒を多分に含んだ毒草のみとなってしまいました」

 学校の日本史で習った、公害病。あれも鉱山が原因のものだ。

 水質汚染に、空気汚染。それらは慢性的かつ重大な病を引き起こし、早急な対処を求められたという。

 この国も、それは同じだったらしい。

「……なので、あなたが食べたという植物は、とても食べられる代物ではありませんよ。それを食べたと言って、信じられるわけがありませんでした。……あなたが、異世界から来たのでなければ」

 ことん、と砂時計をひっくり返すエクスの言葉に、ぎくりとする。

「あなたの存在そのものが、この世界での非常識となるのであれば、話は別です。そしてあなたが元の世界に帰るまで、あなたは脅威であり続けます」

 毒の効かない体。それは、恐らく死にたくない人間ならば、誰もが欲しがる体質だろう。

 それを遺伝子として組み込めるのか。あるいは、その血を利用して、万能の解毒薬あるいは強力な毒薬を開発できないか。

 考える人間は必ず出て来るはずだ。

「……それで? 私は、ずっと閉じ込められるのか?」

 脅威だというなら、他の国には渡すまいとするだろう。

 ましてや、異世界から来たのなら、どこにも属さない分、扱いもたやすい。

 制御出来るならしてしまおうと思うのは、当然の考えでもある。

 だが、里琉はそんな事はごめんだった。

(元の世界に帰るまで、何もかも自由を奪われるくらいなら)

 ――不穏な考えは、エクスの答えで吹き飛んだ。


「何馬鹿な事を言ってるんですか? いいから黙ってなさい。知られなければいいんですよ」


「……はっ?」

 そんな子供だましのような考えが、通用するのだろうか。

 怪訝そうな里琉に、エクスは薬草かごを出して机に置くと言った。

「その為にあなたには、毒草と薬草の知識を得てもらいます。毒草だと分かれば口にしなくて済みますし、毒草もまた薬草になる場合がありますから、覚えていて損はないでしょう」

「…………じゃあ何で、鉱毒まで」

 納得いかない、という顔をする里琉だが。

「前国王夫妻は、鉱毒で殺されました」

 短い言葉に、察してしまう。

 この国は毒塗れだ。人も、土地も。

「リル。毒に侵されないあなたなら、もしかしたらこの国を、少しでも変えられるかもしれないですね」

 そう言って笑うエクスの表情は、どこか儚げで。

「……あんまり期待しないでね。私は、本当にただの人間で、一般人だったんだから」

 里琉はそう言って、その表情からわずかに目を背けた。

 その視界の端に、薬草がまた置かれる。

「……また毒を食えって?」

 見た目では、何も分からない。草も、人も。

「これは薬草です。毒の効かないあなたに効くかは分かりませんが、騙し討ちで毒を盛ったお詫びとしてどうぞ。……噛んでいれば甘くなりますし、本来の効能としては、気持ちを落ち着かせるものですから」

 どう見たって苦そうな草を、甘いからと言って差し出す人間を信用すれば、きっと痛い目を見る。

 だが、里琉は何も言わずそれを手にし、口に放り込んだ。

 噛んでみれば、やっぱり苦い。それでも吐き出さず、言われた通りに噛み続けていると。

「さあ、では本格的な勉強の開始ですよ。今日はこのかごの中の薬草を全て、見分けられるようになるといいですね」

 心なしか穏やかな笑みで、エクスがそう言った。

 気持ちはちっとも落ち着かないまま、噛んでいる薬草は次第に優しい甘さを含んでいく。

(……やってみなければ、嘘か本当かも分かんないままだな)

 信じる為に、信じられる為に、人は行動するのだ。

 その結果がどんなものだとしても、必ず何かは分かるのだから。


果たしてそれは、必要とされるのか。

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