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空想科学フェアリーテイル  作者: 宮原 桃那
32/66

【32章】会議が編む糸

出来上がるのは、結論。

 オアシス管理局が、どうやら勝手に改造されているらしい。

 それを聞いたルゴス大臣は、非常に立腹していた。

「全く、許しがたい話ですな!! 我が祖先が渾身を込めて設計した建造物に、おかしなものを取り付けるなど!!」

「……水質浄化を早急にしなくては。装置を作るまでにどれ程の時間がかかりますか……?」

 厚生大臣のラバカ大臣も、オアシスの水質問題に、困惑を見せて。

「全く、次から次へと予算が吹き飛んでいきますねえ。来年は少々切り詰めなくては」

 モニ大臣が諸々の費用を計算しながら、ぶつくさと文句を言う。

「…………違法建築、許可されていない装置の開発、使用。更に水質の汚染に、人命への危害及び改造。……罪状が山積みですが、処刑以上の刑罰は無いものでしょうか」

 普段は大した感情を見せない法務大臣のイーマですら、わずかに憤りを見せていた。

「なるほど、急な会議の要請はそれが理由であったか。では、騎士団員と兵士を集め、管理局の制圧隊を編成するとしよう」

 パソーテ大臣も真剣な表情で頷いている。

 そして。

「ここしばらく、流通が滞っていると思ったら! 要のオアシスが、旅人を拉致していたとはね! 全く、非常に迷惑な話じゃないか!」

 オアシス付近の盗賊団アジトに関する話を聞いて、ネオ大臣までお怒りのようだ。

「せっかく輸入解除になった物が増えたと思っていたのに、その商品を持ってくるはずの商人たちが姿を見せないから気になっていたら……一部は、オアシス近くの盗賊団アジトで、別人のようになっていたって? どういうことなんだい、宰相殿!?」

「それをこれから調査する事になっています」

 ユジーは彼らを見て、そう言った。

 今回、オアシスの調査、制圧をする為の会議が開かれたが、主にオアシスに直接関わる大臣だけを集めている。

 他の者も無関係ではないが、いっぺんに全てを行う事は出来ない。

「さて、その調査ですが、最初は視察という形で執り行いたいと思います。ですので、あなた方の誰か一人、かつ信用出来るもう一人を連れて、様子だけ見て欲しいのですよ」

 さりげなく死地に赴け、と言わんばかりの宰相の台詞に、手を挙げたのは二人の大臣。

「私が是非に! 内部まで改造されていれば、制圧の際に不利ですぞ!」

「水質調査もありますし、やはり村から相談を受けた身としては、僕が……」

 ――ルゴス大臣、ラバカ大臣だ。

 どちらが適任かとしばし考えたユジーは、ややして。


「……では、ラバカ大臣にお願いしましょう」


 静かに、そう断言する。

「何ですと!?」

「ルゴス大臣には、別のお願いがあります。オアシス管理局の設計図を用意してもらいたいのです。内部と照合し、改造がどの程度までされてしまっているかを判断したいので。それにいざという時、多少なりとも応戦出来る方であれば、逃走くらいはどうにかなるかと思われます」

「……むむ、戦闘となれば私は確かに不利ですな。分かりました。ラバカ大臣、しっかり頼みますぞ」

「はい、もちろんです。……それから、管理局員の顔も覚えてくるつもりですので」

「そういえば、ラバカ大臣は人の顔を覚えるのが得意だったね!」

 話がとんとん進む中、イーマ大臣がぼそりと呟く。

「顔を覚えていたとしても、中身が別人であれば判断のしようがありませんよ」

「ああ、例の奇跡とやらかい? 馬鹿馬鹿しい話さ! 我々はとっくに、本物の奇跡を目の当たりにしている! そうだろう、宰相殿?」

「…………まあ、否定はしませんが……ネオ大臣、何故そう思うのです?」

 怒っていてもテンションの高い貿易大臣は、嬉しそうに宰相の疑問に答えた。

「半年前のあの事件! あれで我々一同は同じことを思ったはずだろう? この国はもう終わりだ、と! だが、彼女が来て以来、陛下は王として戻られ、大きな盗賊団は壊滅。こうしてオアシスの不正が暴かれている! 彼女こそが、奇跡の体現だと思うのだよ!」

 ――ネオ大臣が里琉を気に入っているのは、割と有名である。

 ただ、王がそれ以上に里琉を好いているし、里琉も王しか見えていないのでアプローチは仕掛けていないようだ。

「……半年前といえば、あの女官」

 ふと、イーマ大臣が訝しげになった。

「アリスィアですか?」


「ええ。……陛下によって処刑されたはずの死体が、何者かに持ち去られたという報告は、届いていましたか?」


「何ですって?」

 静かに問われた中身は、ユジーとて初耳である。

 当然ながら、他の者もぎょっとしていた。

「何故それをもっと早くに!!」

「持ち去ったというのなら、誰が、何の目的で……?」

「……おかしいですね。私は確かに、報告書を出しているはずです。半年の間に、どこに消えたのでしょうか」

 王が仕事を放棄していた半年間、ユジーは特に重要な書類だけを王の机に置いていた。

 だが、ユジーが先に目を通すはずの書類に、そんな記述のものは一切なかったと断言できる。

「…………死体を持ち去った犯人、という可能性が高いでしょうね」

「……書類隠蔽も罪状に合わせておきましょう。繋がりを否定出来る材料がありません」

 どうやら、想像以上に厄介な問題に膨らんでいるらしい。

(彼女が来なければ……恐らく、この会議も開かれず、イーマ大臣の言葉を聞く事もなかったまま、終わっていたのでしょうね)

 なるほど、ネオ大臣が奇跡と言うだけはあるか。

「しかし、そうなると恐ろしい想像が出来てしまうね!」

 そのネオ大臣が、再び口を開く。

「今度は何だね、ネオ大臣」

 ルゴス大臣の反応に、彼は苦い顔と声で返した。


「オアシスでは、どうやら奇跡とやらで見た目と中身が別々に出来るんだろう? アリスィアという女官がもしもオアシスと繋がりを持っていたのなら……今頃、別の女官の姿をして、平然と王宮のどこかに居るかもしれないじゃないか! 死体が持ち去られたのは、その為じゃないのかい?」


 ああ恐ろしい、とのたまう彼以上に、他の者は皆、顔色悪く押し黙る。

 当然、ユジーもぞっとした。

 王女が王を殺そうとしたことも、その時の発言も報告を既に受けているが、到底信じられないような妄言の類だ。

 しかし、その後の村夫婦の話を聞き、そして彼らの発言をまとめる限りでは――妄言などでは無いと断言できる。

「……だが、アリスィアという女官がこれ以上、何をしようと言うのだ?」

「前国王夫妻を殺害し、その罪で陛下に処刑されたということは……まだ、目的が果たされていなかったのかもしれません」

「困りますねえ。犯罪者に支払う賃金など予算に組み込んでいませんよ? ワタシは」

 姿の見えない凶悪犯がこの王宮内のどこかに今も居るとなると、一体どこまで疑えばいいのか、キリがなくなってしまう。

 そういう意味では、とんでもない相手だった。

「本当に繋がりがあったかは未確定ですが……ネオ大臣の言葉を否定する事は出来ませんね。……王宮内の女官を調査しなければ」

 メーディアの仕事が増える事になるが、これ以上好き勝手されるわけにはいかない。

「……でしたら、そちらの調査も僕に協力させて下さい、宰相殿」

「おや、どういうことですか? ラバカ大臣」

 いつになく積極的な彼に、ユジーが尋ねると。

「……僕の娘が、女官として中央宮に居ます。娘も僕と同じように人の顔を覚える事が得意なので……もしかしたら、何か知っているかもしれません」

 そういうことか、と彼の返答に理解する。

 しかし、確かその娘とやらは、問題が一つあったはずだ。

「構いませんが、あなたの娘は人一倍ドジですよね」

「…………ここにきて弁明するのも心苦しいのですが、娘は実家に居た頃、あのような些細なミスを犯すような子ではありませんでした」

「そういえば、たまに愚痴られておりましたな。何故あのようになってしまったのか、と」

 パソーテ大臣が聞き役にでもなっていたのだろう、理解を示す。

「少々臆病ではありますが、本来、もう少し聡い部分もあるのです。まだ幼くとも大丈夫だろうとここへ連れて来たというのに……気付けば、下位女官にまで降格されて……」

「その辺は後程。では、あなたの娘……テファと言いましたか。彼女にも協力願いましょう」

 愚痴りそうなラバカ大臣を止め、ユジーはそう告げた。

 ただ、果たしてどの程度役に立つかは不明である。

(何しろ、五年前のあの事件の当事者、その一人ですからね……)

 そういえば、と思い出す。

(……あの時ばかりは、テファの無実をアリスィアが証明していましたね。一体、何のつもりだったのやら)

 懐柔しようと思ったのなら、あれは失敗だろう。

 何しろテファは、自ら降格を申し出たのだから。


『お情けで信じてもらえても、嬉しくありません。どうぞ、降格なり解雇なり、このテファに沙汰を』


 ――大臣の娘というだけはある。気弱そうに見えて、そのプライドは山より高いようだった。

 解雇よりは降格という形にして様子を見るか、と思いきや、その後はとんと大人しく、良くも悪くも全く表に出る事はないままで。

 そう考えると、ラバカ大臣が言っていた「臆病」がテファを委縮させ、大きなドジを踏ませてしまうに至ったのではないかと思えた。

(まあ、いい機会ですし、駄目なら実家に帰るよう説得して、遠ざけた方が賢明でしょう)

「数居る女官達の顔をどの程度覚えられているか、私も興味がありますしね」

「……覚えはしますが、仲は良くないようです」

「女性達は仕事をおろそかにして、噂話に興じ、あまつさえ……自分より下の女性を苛めるのが趣味だとか? あなたの娘御もそうでないことを祈りましょう」

「モニ大臣……そういうあなたの娘御さんは、そろそろよいお年だとお聞きしておりますが……まだ、縁談の一つも受けておられないとか?」

「おや、ワタシよりもカラム大臣殿の方、特にご子息が大変そうだとお聞きしております。もっとも、アナタの娘御以上に有名な女官も居りますまい。……かの女官を除いては」

「その辺になさってもらいますよ、お二方。会議はこれにて終了です。皆さん、よろしくお願いします」

 険悪な雰囲気になるラバカ大臣とモニ大臣を、他の大臣がやれやれと見ている。

 ユジーはその間に割って入るようにして、会議の終了を告げた。

 だが、会議室を出て程なくした頃、またしても厄介ごとが舞い降りて。


「さ、宰相様! 大変です! り、リル様が――行方不明だそうです!!」


 至急、彼女の捜索を、と慌てる兵士に、ユジーは頭痛を堪えつつも低く言った。

「…………本日、行方不明までに彼女と会った人間、全員を連れて来なさい」

 今日も、長い一日になりそうである。


綻びは、その糸から。

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