表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4

実行部の仲間たち

黎明学園。

広い敷地内には3階建ての新校舎と渡り廊下で繋がった体育館。

サッカーコートが余裕で2面取れる運動場に、温水プールも備えた私立高校。

そして、裏山付近には、使われなくなった旧校舎が残されていて、裏生徒会実行部はこの旧校舎全てを部室として使用している。

裏生徒会実行部とは、僕、一ノ瀬孝が、入学式当日に無理矢理入部させられた部活だ。

なんでも、【生徒会】と名前がついているが、正式名称は【学園を裏から支配しよう計画を実行する会に所属する生徒たちの部】というらしい――ようするに生徒会とは何の関係も無い――。

これは長すぎるので、略して【裏生徒会実行部】と言う。

最初は戸惑うばかりだったこの部にも、入学から一ヶ月が経った今ではだいぶ慣れてきた。



旧校舎のとある教室。いつも部員が集まる場所には、まだ孝と部長しか来ていなかった。

「部長、今日は何するんですか?」

この部の活動は決まっていない。

学校を裏から支配することを目標としている割には何もやっていないような気がする孝は、部長にいつものセリフを投げかける。

「今日は…………やりたいことをやろう!」

やる気があるのか無いのか、よくわからないテンションで言うこの人は部長、野乃神紅音。

孝よりひとつ年上の高校二年生である彼女は、成績は常に学年トップ。

ルックス良し、運動神経抜群、というまさに才色兼備なお方である。

「一ノ瀬君は何かやりたいことはないか?」

「い……いえ、特には」

「そうか、まあアカリたちが来るのを待とう」

噂をすればなんとやら。

それから5分もしないうちに、アカリ先輩が現れた。

「すいませーん。遅くなっちゃいましたー」

背中の部分が大きく開いた真紅のドレスを身に纏った女性。

明らかに学校では場違いな服装をしたこの人は楠木月。

裏生徒会実行部副部長で、部長と同じ高校二年生だ。

そして楠木財閥のお嬢様で、世界でも屈指のお金持ち。

彼女は部長が着ているような、女子用の制服を着用せず、いつもドレス姿で登校してくる(もちろんリムジンによる送迎付き)。

なんでも、学校に莫大な寄付金を納めているから大抵のことは許されるらしい。

「おお、アカリ。待っていたぞ」

部長がアカリ先輩にちょいちょい、と手招きをする。

そして何やらひそひそと内緒話をし始めた。

部長に負けず劣らず美人なアカリ先輩は際どい姿勢(胸元が見えそう!)で、部長の口元に耳を寄せている。

ちなみに、胸が小さいのがコンプレックスらしい。

しばらく待ってもひそひそ話が終わりそうもないので、孝は勉強を始めることにした。

最近、部室に来てもみんなダラダラしているだけなので、時間を有効活用することにしたのだ。

ひそひそ……。

ひそひそひそひそ……。

孝が勉強に励む間も、先輩たちの内緒話は続く。

そして30分ほど経った時、

「一ノ瀬君!」

いきなり部長が孝の名前を呼んだ。

「はい、なんですか?」

孝はノートから顔を上げ、こちらを向く部長と目を合わせる。

「いつまでも君のことを『一ノ瀬君』と呼ぶのは他人行儀だと思わないかい?」

「はぁ……」

「そこで、君のことを何て呼んだらいいのか……なんだが」

「まさか、そのことをずっとひそひそ話し合っていたんですか?」

あんな長い時間話していたのに、内容軽くない? って言いたかった。

「いや……まぁ…………その……なんだ。まぁそういうことだ」

なぜか恥ずかしがってモジモジとする部長。

よくわからないがちょっと可愛い。

「まぁ、なんでもいいですよ。一ノ瀬でも孝でも」

「孝って呼び捨てにすると、なんか恋人みたいですね」

のほほんとした顔で合いの手を入れるアカリ先輩。こう見えても彼女は天然系なのだ。

「そうだな、じゃあタカシ君ってのはどうだ?」

「コウです! 勝手に人の名前変えないでください!」

「じゃあコウちゃん?」

なんかしっくりこないなー、と言いながら首をかしげる部長。

そこで、部室のドアが開き、最後の部員が現れた。

「悪いね、遅くなったよ」

スラリとした身体で背は孝と同じくらい。でもイケメンで爽やか系な彼は遠野馨。

彼もまた先輩で、高校二年生である。そして部員その1。

「いやあ、ホームルームが長引いちゃって」

そう言って鞄を適当な机の上に置き、こちらにやって来る。

「みんな集まっちゃって――何の話をしているんだい?」

「僕のことをどういう風に呼ぶか、って話です」

孝は話の流れを説明する。

同じ男子部員の存在は、この美人に囲まれた空間ではありがたいものだった。

彼が居なければ、この部を一ヶ月も続けてはいなかっただろう。

「うーん、そうだね。タカピーとかどうだい?」

「だから、なんで皆さん僕の名前を変えるんですか!」

僕の名前はコウです! コウ!

「じゃあ柿ピー」

それはお菓子!

「じゃあタピオカ」

いや、もうそれ人の名前としてはどうかと思います、部長。

「じゃあ…………」

「もう何でもいいです。好きに呼んでください!」

その後、孝の呼び名はタピオカで決定したが、一週間もしない内に皆「呼びにくい!」と言い始めて、結局「コウ」って呼ばれることになった。

最初っからそれでよかったんじゃない?


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ