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第八話 謎の少女

遠くから見たときは白いっぽい印象の少女としか見えなかったものの

近くで見てみると白く見えていたのは腰まで届きそうな、長い白銀の髪が戦闘で広がって見えたから、らしい

きっと微笑めばやわらかい印象を与えるだろう顔は今は警戒の表情を浮かべ杖を握り締めている。

服装は、頭には何もつけていないように見えるが服は紺色の修道服のようだ。

と、そこまで考えて視線が止まった。


(大きい!?)


ゆったりした服のせいではっきりとした事は分からないが、明らかにクラスメイトの女子達より大きい。


(馬鹿な!昨日に引き続き今日も前代未聞の光景が現れるとでも言うのか!?)


もしかしたら雑誌でなら見たことがあるかもしれないが、実際に目にするのは初めてだ。

亮平がそんな煩悩まみれの驚愕に震えていると、いつの間にか隣にいた綾乃がジト目を向けている事にようやく気がついた。

動揺に心臓が暴れだす中、慌てて意識を切り替えて現状の打開策を考える。


(おっぱい、おっぱい。っていい加減に落ち着けぇぇーーーーーオレ!ぜぇーはーっ、あ~おそらく亜人に見える俺を警戒しているはずだから、ひとまず俺が離れて綾乃に話をしてもらうか?)


と、そこまで考えてから前方の少女の視線に気がついた。


(綾乃に対しても警戒している?ちょっと待て、どういうことだ?)


綾乃は口調こそ男っぽいかもしれないが、姿を見てまで男と誤解するやつはいない。

ひとまず助けてくれた同姓を見るにしては視線が厳しい気がする。

そこまで考えてからチラッと綾乃を見て気がついた。


「あ、綾乃、俺達ペアルックだ」

「だ、誰がペア―――あ!?」


言われて綾乃も気がついたらしい、今自分達が野盗にしか見えないボロボロの傭兵の服を着ているということに

あわてて白銀の髪の少女に向かい弁明をする綾乃


「ち、違うぞ!この服は着るものが無かったから野盗から奪ったもので…」

「その言い方だと最悪、野盗を襲った野盗に聞こえるな」

「ええっ!?」


いきなり漫才を始めた野盗っぽい二人組みをポカンとした顔で見る白銀の髪の少女

その意識の隙を突いて鬼化を解除して話しかける。


「とりあえず、俺らに敵対の意思は無い。野盗に見えるかもしれないがこれは事情があってね、今の俺達はステラという町でギルドへの入会を希望しているただの旅人だ」


そう言いながら両手を上に挙げ、敵意の無いことを示す亮平

それを見ていた少女は気の抜けた表情のまま倒れこんだ。


「うお!?大丈夫か?」


驚いて声を掛ける亮平を追い越し、すばやく駆け寄った綾乃が脈を確かめ傷の具合を見る

綾乃は古武術をやっているおかげで簡単な診断と応急処置の知識ならあるのだ。


「どうだ?」

「脈はあるが気を失ってるな、やはり野犬につけられた傷口が心配だ。早めに消毒して止血したいが…」

「っ消毒薬もアルコールもねえか!」


酒が残っていたかどうかは怪しいが、探すぐらいはするべきだった。

商人のおっちゃんが言っていたことが確かなら、ここはそろそろ街と町の中間辺りになっているはずだ

せっかく助けた人間を見殺しになどしたくない。


「綾乃、この飲み水で傷口を洗ってやれ。秘伝の傷薬は今も持ってるよな?」

「ああ、だがそれだけでは不安があるが…」

「終わったら止血して背中に乗れ、俺が鬼化して町の近くまで抱えて走る」

「いくら鬼化したとしても体力が無限にあるわけじゃないだろ!徒歩で残り四時間前後の距離をそんな状態で走る気か?既にここまでだってロクな休憩をとらずに歩いてきたんだぞ?」

「力尽きたらそん時はそん時だ、残りの距離をお前に頼んで俺は後からトランシーバーで連絡を取りながら向かうさ」

「…急ぐのはいいけど、なるべく揺らさないように。あと町が見えたらすぐに鬼化を解いて、約束できる?」

「おう」


この世界の住人は亜人に対する恐怖が強い、そのため人間の町を旅する亜人は皆無らしい。

それが現れたとき住民がどんな行動をとるか…体験したいとは思えない。

やる事を決めると亮平は背を向け鬼化してから周囲を警戒、綾乃は少女の服を脱がせて傷の見落としが無いかチェックしながら傷口を洗い薬を塗って止血していく

血の臭いに誘われたのか草原の中、高い草の下、岩の影などに新たな敵の姿が見え隠れする。


「ハッ!さっきまでの何事も無かった四時間が嘘みてぇじゃねぇか!」


獰猛な笑みを浮かべ、少し二人とは距離をとるように前に出る


「来てみやがれ!今なら鬼の本能の赴くまま叩き潰してやる!」


叫ぶや否や、今までよりも大きく息を吸う


――スゥゥゥーーーーー


『ガアアアーーーーーーーーーーーーーーー!!』


戦意を漲らせ、広域へ聞こえるように咆哮をあげる

すると、ほとんどの影が躊躇し動きを止める中、他より体の大きい一頭だけが進み出てきた。


「なんだ?テメェがこの辺のボスか?」


こちらにきてからよく使うようになった《咆哮》

妖怪狩りの時は場所が現代の住宅地だったため、夜中にそんな声を上げるわけにもいかず、使うことはほとんど無かったが、使ってみれば様々な効果の有る使い勝手の良い技だということが分かった。大声と衝撃波で気の弱いもの、自分より弱いものを怯ませる事ができ、至近距離の衝撃波は周囲を囲むものを薙ぎ払う事が出来る。近くにいる味方も吹き飛ばしてしまうのが欠点だが、それは先ほど綾乃を加速させたように利点にもなる。


(他に欠点があるとすれば、攻撃力はほぼ皆無ということと、何度も使うとのどがかれそうってトコか)


進み出てきたのは先ほどまで戦っていた野犬より遥かに大きな固体だ

灰色の毛並みの中所々に赤黒い毛並みがあり、この大きさだと犬というよりは狼にしか見えない


「ん~俺のファンタジー知識には無い姿だな…」

「グルルルル」


睨み合いの中、先に動いたのは狼の方だった

後方に流れるようだった毛並みが、体から離れるように少し持ち上がることで一回り大きくなると同時に、見る間に毛色が明るくなっていく


「グウゥゥ…」


そんな鳴き声と共に狼の目の前に3cmほどの火の玉五つが風によって集まるが如く、火の粉を揺らめかせながら線を描き、一箇所で70cmほどの球形を描き、回る

その姿はさながら幼い頃に見た朱線の入ったスパイラルという名のビー玉に似ていた。

時ならぬ芸術を見た様な心持であっけにとられていたが、これは相手の攻撃魔法。

すぐにそれを思い知ることになった。


「ガァ!」

「――チッ!?」


狼の声と共に一直線に飛んできた炎弾を避けようと体が動こうとするが背後には綾乃たちがいる


「くそっ!」


仕方なく、飛んできた炎弾を左の拳でぶん殴った。

城壁を壊したときのように手に青黒い炎を灯せれば違った結果になったかもしれないが、結果的に亮平は連続する爆発と共に拳と腕を浅く切り刻まれた上火傷を負った。


「ぐッ!」

(っ――火傷のおかげで失血が少ないことがせめてもの救いか?)


しかし傷の具合を見てる暇など無かった、爆発に視界を遮られているうちに狼が接近していたのだ。


「っ!?」

(だけど接近戦ならこっちにも分が――)


思考しながらも迎撃のために右の拳を振りかぶった時、狼の体にも変化が起きる

もはや紅く見える毛並みからは火の粉が舞い上がり狼の体を覆っていく


「マジ!?」

(炎を纏っての体当たりとかいう、魔法的なアレかよ!?)


後方を防衛するためとは言え知識の無さも有り後手後手になってしまう

それでも亮平は引き下がるわけには行かない

おそらくこの時が過去最速で精神集中を成した時だろう

超大型犬を更に上回る大きさで炎を纏った狼に対し、亮平は青黒き炎を纏った拳を打ち出した!


続きます。


っていうかステラの町に着かなかった!?

むむむ、到着予定だったはずなのに

狼さんアンタ呼んでないよ!

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